第二十七番 そんなに緊張しなくても
今回は文字数が少なめですが、内容の進み具合的にはちょうどいい感じなのではないかと。
草むらの中から現れたのはゆめのと呼ばれる黒銀の毛並みを綺麗に整えられた大きな犬とこの犬の飼い主であろう一人の女の子。彼女たちはこの森の外から来た雨音たちをとても警戒しているようだった。とは言うものの武器を持って警戒しているわけではなく、どちらかといえば怯えているような感じである。怯えている女の子を守るように黒銀の犬は警戒している。
「こ、この森の中には一歩たりとも踏み込ませません!はやくこの森から立ち去るのです!」
この空気に耐えられなくなった女の子は勇気を振り絞って大きな声を雨音たちに向けた。
「踏み込ませないって言ったってもう踏み込んじゃってるしなぁ」
踏み込ませない割には森から立ち去れと言っちゃっているこの矛盾から考えると、かなりこの女の子は緊張に弱いタイプなのだろう。四条が空気を読まずにうっかり突っ込んでしまった。首をかしげながらぽりぽりと頭をかいている。
「うっ」
ちょっと呻いてからしばらく考え込んで
「これ以上、奥には行かせません!」
なんとか決まりはよくなったものの相変わらずこの女の子からの忠告は頭に入ってこなかった。というか、それについてはこの女の子を主とする黒銀の犬の方が分かっているらしく、カバーするように喉を鳴らして威嚇を示した。
「どーするよ。雨音。この子のことほっとくわけにもいかないだろう」
多分、この子を突破して奥にある村に行くのは容易いことだろうけれど、本当にそれでいいのだろうか。話しかけた相手が実はお目当ての人でしたぁとかいうおちはもう何回も繰り返しているし。それに、もし違っていても何らかのキーにはなるだろう。黒銀の犬の名前がゆめのであることからそんな気がしてやまない。
枚方もそれを思って雨音に耳打ちした。
「私たちはあなたの村を脅かすつもりはありません。ただ、人探しをしているんです」
単刀直入だ。変に取り繕っても彼女を混乱に導いてしまうだろうし、そんなことをしてしまったら間違いなく黒銀の犬が襲ってくるだろう。襲われれば一たまりもない。
「な、ななな、何のことですか?この奥に村があるなんて、そそそそ、そんなわけないじゃないですか」
十分に混乱させてしまった。なんとも分かりやすい態度をとるのだろうか。可愛すぎる。
「隠さなくても大丈夫です。私は知っています。この奥には村があるんですよね。それも古い歴史を持つ」
これはあの男、フェニックスが残していった情報ではあるが、それでも情報は情報だ。有効活用させてもらう。
「あなたは、同じく古い歴史を持つ双子村のことをご存知ですか?」
雨音は女の子の返事を待たずに続ける。
「え、ええ。知っています。双子の神を崇める村。村人の大半が双子で生まれるという謎が多い村のことですよね。そして、最近ではよく、よそ者を受け入れて、調査にも協力的な……」
やはり知っていたか。この森から出たことのなさそうな感じなので知らないと言われてしまうのが内心怖かったのだが。
この調査に関わっていたのが今、別行動をしている友里亜だったりする。
「お姉さん。僕たちが双子村の神様だよ」
「お姉さん。僕たちがここにいる意味をお姉さんなら理解できると思うんだ」
いいタイミングに双子が話し出す。雨音の思惑に気づいていた。
「え、でも。まだ子供よね?」
疑うように、探るように女の子は聞く。双子であることはどうやら納得したらしい。
「そうだよ!この間、十一歳になったんだ」
「誕生日は六月だからね!子供の神様だよ」
すぐに村につくと思っていた。しかし、それはあくまで願望で、現実はそこまで甘くはない。森の奥へと歩を進める。先程までと変わったのは目印となるリボンを木に括らなくなったことだ。女の子と黒銀の犬が道を示してくれている。どこもかしこも景色は変わらないため、うっかり置いていかれでもしてしまったら迷子になる。
進む。進む。目的地ははっきりしている。迷うことなどない。この奥にある村にたどり着くために。どんなに風に吹かれて、木々が不気味な音をたてたとしても。歩を止めることなどしない。ユメノを救い出すためならどんな困難にも立ち向かう。
いつの間にか村に入り込んでいたらしく、村人たちが物珍しそうにこちらを眺めている。遠巻きに。よそ者に対して警戒している。
昔から存在すると言われる村ということから自然豊かな村なのだと想像していたのだが。いや、想像は大方正解だ。自然と共に生き、自然と共に死んでいく。そんな村なのだろう。
先進国ならぬ先進村。そんな印象をこの村から感じることが出来たのだった。
いつの間にか十一歳になっていた双子。祝ってもらえたのでしょうか。プレゼントはもらえたのでしょうか。
さて、今回は話しかけた相手が説発動するのでしょうか。それとも実は黒銀のわんわんが『磨羯宮』の化身なのでしょうか。想像は楽しいですよね。
では、また。