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星座が導くままに、進め、少女たち。  作者: 大川魚
黄道十二宮を探せ
3/39

第二番 神様だって遊びたいお年頃

颯真そうま楓真ふうま

ユメノが雨音の母を呼ぶときはお義母さん、雨音が母を呼ぶときはお母さんです

 ここら辺で時系列を確認してみよう。ことの発端となった忘れられない日は一九八七年八月五日。そして旅を始めた日、且つ雨音と出会った日は同年八月二十六日。

 そして同年九月十七日現在、私たちは馬車に揺られて小さな小さな村を目指しているのであった。お義母さん曰く双子村に『双児宮』の双子がいるよという情報をもとに私たちは旅を進めた。出発してから早三週間が経つけれど、何とかやっていけている。それに、今は一人じゃないからね。雨音と一緒だから。何があっても怖くなかった。……何回かお風呂一緒に入るか誘われたのと一つのベッドで寝るときの抱きつかれ感は怖かったな。なに、十九歳前後の人はこれが当たり前?うーん。なんだかなぁ。

 とにかくゆらゆら揺られていたのもつかの間、馬車は村の入り口で止まった。自然で作られた村の入り口がなんだか猿人に近い人が住んでいるんじゃないかと思わせるくらいだ。

「ありがとうございました。こちら渡しておきますね」

 ユメノは丁寧にお礼を言い、二人分の馬車代を支払うと、ひひーんと馬が鳴き、先程の道を戻っていった。

 自然が作ったであろう村の入り口をくぐると中はまるで別世界のようであった。先程まで木々に囲まれ背丈の低い草が沢山生えていたのに、中はなるほど現在の私たち同様に人間が生活しているような作りとなっていた。まぁ、村特有のものであるけれど。

 「ようこそ、おねーちゃんたち僕たちを救いに来てくれたの」

 「ようこそ、おねーちゃんたち僕たちにお願いしに来てくれたの」

 驚いた。これは本当に予想外だ。村の風景に気をとられていたユメノたちの目の前にいつの間にか小さな男の子たちが映っていたのだ。見た目は十歳前後で声変わりは当然まだであろう双子の男の子たち。本当にそっくり。先に声をかけてきた方が兄であろう。ユメノたちが驚いている中で、双子同士でおしゃべりをしている。その様子からもどちらが兄で弟かがはっきりとわかる。

 「いやぁ、お母さんから聞いてたんだけど一卵性の双子は本当そっくりだな~」

 先に口を開いたのは雨音の方で、右手で口元を隠し、首をk傾げながら双子をまじまじ観察した。双子の方も雨音の方をまじまじ見つめ、まるで見つめあっているような感じである。しかしまぁ、この双子は年齢が年齢だから雨音が腰を曲げている態勢なのだが。

 「えっとね、お姉さんたち、『黄道十二宮』の双子を探しているの。君たち何か知っている?」

 当たり障りのないような質問でユメノは口を開いた。もともと身長がそんなに高くないユメノは双子に目線を合わせるように屈んだ。屈むとちょうど双子の目線と揃う。

 「『黄道十二宮』の双子だって、『双児宮』を探してるんだって」

 「どうするお兄ちゃん、お仕事始めちゃう?」

 「久しぶりのお客人だし、お仕事真面目にしちゃう?」

 「どうせそろそろ村長さんもこのことに気づいちゃうもんね」

 二人で二人の世界に入り込んでいた双子の間に入っていいものか分からなくておどおどしているユメノと一卵性の双子に興味津々でそれどころでない雨音の姿がそこにはあった。

 「うん。おねーちゃんたち。この村には『双児宮』の双子はいるよ」

 「うん。おねーちゃんたち。合わせてあげるけれどまずは村長さんに会ってからにしてね」

 ばいばーいと手を振りながらまたどこかへと消えていく双子はどうやら陽気な子どもたちなのだと感じさせた。一方的に喋って村長さんの居場所も教えないで、ユメノたちを置き去りにしていった。風が吹き、ざわざわと葉がすれる音が聞こえる。

 「双子って、あんなにそっくりなんだね」

 同じく村育ちのユメノでも、双子は見たことがなかったらしい。というか双子についてはあまり知識を持っていなかった。

 「一卵性はね、そっくりなんだよ。二卵性はそうでもないのにね」

 村長さんを探して村を歩いている中、ユメノは雨音先生の『双子とは』講座を受けていた。



 ようやく村長さんが暮らしているっぽい家に着いた。

 ノックをしようとユメノが手を伸ばした瞬間、扉は開かれた。中から白い髭を蓄え、腰の曲がったおじいさんが出てきた。一人、また一人と出てきた。この二人は本当にそっくりで、仕草一つ一つがシンクロしていた。

 「ようこそいらっしゃったな。いやぁ、最近腰が痛くてな。迎えに行けなくてすまないねぇ」

 最後に出てきた方のおじいさんがニコニコした顔で腰をさすった。ニコニコしていたが、腰が痛いのは本当のようでコルセットを巻いていた。

 「こう見えてこのおじいさんがこの村の長だよ。ユメノちゃん、雨音ちゃん」

 最初に出てきた方のおじいさんは村長の肩にポンと手を置き、村長と同じ顔でニコニコした。ニコニコした顔で私たちの名前を呼んだ。

 「あ、やはり、お母さんから話は聞いていましたか」

 立ち話は腰にも悪いらしく、私たちは家の中へと入った。村長さんの家はなかなかの広さがあり、また、兄弟助け合って生活している様子が見受けられる。書棚には沢山の本が置かれている。少し小さめのテーブルの上には双子についての書類が散らばっていた。

 大き目のテーブルの前にある柔らかなソファーに腰を掛け、出された紅茶に口をつけた。ほのかに香る茶葉の香りがさらにおいしさを増している。

 「いやぁ、おっきく育ったな。雨音。今いくつになったんだ?」

 物心がつく前に、雨音はこの村で生活をしていたらしく、こちらのおじいさんたちは雨音のことを初めから知っていたようだ。なるほど、お義母さんが連絡を入れとくからって言っていたのはこれがあったからかと納得するユメノ。

 「十九歳です。あいつも……」

 最後の言葉を濁した雨音だがユメノは何故か気にならなかった。こちらお爺さんたちはニコニコとそうか、としか言わなかった。

 紅茶を飲み干したユメノは思い切って本題に入ってみた。

 「えっと、ここには『双児宮』の双子がいらっしゃるんですよね」

 ああ、そのことかと言わんばかりに村長さんの方が一冊の本を持ってきて、三十三ページを開き、私たちに見せてきた。

 「この村は双子村と言って、村人の大半が双子で生まれてくる。もちろんわしらも双子だ」

 むしろ双子じゃないとか言われるとどうしようと思いたくなるくらいそっくりだった。

 「しかし、これはこの村には双子の神がいるからなのだ。神の恩恵のようなものだ」

 開かれたページには挿絵があり、二人の小さな子ども、いや、小さな双子の神を玉座に座らせ沢山の村人たちが双子の神を崇めていた。

 「つまり、この双子の神が『双児宮』のことなのだ」

 説明はここで終わったが、なにやら村長さんたちは渋い顔をした。まるで、やんちゃすぎる孫の扱いに困るような顔をしている。でもどこか、幸せそうな顔にも見えたがしかし、ため息でそれも消し飛んでしまった。

 「現在の『双児宮』はな、齢十歳のやんちゃな神様でな。もう少し神っぽくしてほしいものだが……な」

 言葉尻が少し笑っている。苦笑いである。一瞬先程の子どもの双子を思い出したユメノと遠い目をしている弟さん、相変わらず挿絵にくぎ付けとなっている雨音と再びため息をこぼした村長さんの後姿はどこか似ているところがあった。



 村の奥へと進んだ四人は玉座の前に腰を低くした。

 「『双児宮』の颯真様。楓真様。お客人を連れてまいりました」

 村長さんより位が高いらしい神と呼ばれた『双児宮』の颯真と楓真がどのような双子か気になり、ちらっと顔を上げてみると、見たことのある顔が玉座に座っていた。

 「うむ。よくここまで連れてきたな。ご苦労。村長」

 「うむ。ご苦労。ところでお客人」

 先程とは打って変わって冷たい表情の双子が玉座に鎮座していた。

 「はい」

 「はい」

 ユメノと雨音は同時に返事をした。十歳の子どもであろうとも神であるから、慎んだ態勢で挑んだがどうやら必要のない態勢だったみたいだ。

 「よくきたな!よく迷わず来れたな!待ってたぞ」

 「待ってたぞ。待ちくたびれてかくれんぼで見つけてもらおうかと思ったぞ」

 さっきまで威厳のある神に見えたがどうやらそうでもなかったようだ。神といえどもまだ子供。きっと好奇心旺盛で遊びたいお年頃なのだ。玉座から飛び降りユメノたちの傍まで走ってやってきた。それから二人の周りをちょろちょろと回っている。

 今日一番のため息が村長さんから出た。

 「颯真様。楓真様。もう少し神らしく行動してください。お客人の前ですぞ」

 ちょろちょろしていた双子はピタっと止まり、キッと村長さん双子を睨み付ける。

 「村長とその弟。お前たちの仕事はすでに終わった。いつまでそこにいる」

 「いつまでそこにいる。もうさがれ」

 背筋も凍るような声のトーンで。声変わりもまだな双子から発せられた言葉は冷たく感じられた。

 軽く頭を下げ、ユメノたちを一瞥し、黙ってその場を後にする、村長さん双子。空には厚い雲が浮かんでおり、心なしか世界が暗く感じた。暗いと言えば、村長さんたちも暗い顔をしていたように見えた。目の前の双子の男の子たちも、無邪気な顔をしているがこの顔の裏には暗い何かが隠されているのかもしれなかった。



 今夜はホームステイすることとなった。雨音が小さいころからお世話になっていたお姉さんの家である。今はお姉さんからお母さんになっていた。もちろん双子の娘のお母様であった。

 「うちの村の神様たち本当元気でしょ?」

 夕飯の準備をしていたお母様から不意に声をかけられた。雨音はすっかり懐かれてしまった娘たちと遊んでいた。どうやら、雨音の性格は人を引き付ける何かがあるようだった。

 「はい。十回くらいかくれんぼをして、そのあとだるまさんが転んだと色鬼さんをやりました」

 ユメノはというとおかずの一品であるポテトサラダを作っていた。ジャガイモをつぶす作業のあと、キュウリやニンジンなどを入れて、マヨネーズを加えて混ぜる。簡単な作業だが六人分を作るということもあり、小さなボールでは混ぜにくさを覚えた。

 「まぁ。沢山遊んでもらったのね。私たちの神様」

 ふふっと笑うお母様。手元のカレーをぐつぐつと温めていた。美味しそうなカレーだ。見る限りだと甘口らしいけれどユメノは辛い物が苦手なのでちょうどよかった。

 「普段はそんなに遊んでないんですか?えっと、神様」

 カレーを深めのさらによそっていたお母様の顔が一瞬暗んだがすぐに笑顔に戻る。

 「ええ、村人は神様を崇めなくちゃならないもの。気安く遊ぶことも許されないわ」

さぁ、食事を運びましょう。いつの間にかカレーもポテトサラダもお皿に盛られており、あとは運ぶだけであった。

食卓にはお父様、お母様、双子の娘たちとユメノ、雨音が座る。

 メニューはカレーライスとポテトサラダ、大根と大根の葉のお味噌汁。

 いただきます



夕食、入浴ともに済ませたユメノたちは双子の娘たちと同じ部屋で眠ることとなった。雨音はすっかり娘たちのお姉さんになっていた。ユメノはお母様の一瞬の暗い顔を思い出し、ふと、聞いてみた。

「まあちゃんとみいちゃんは、双子の神様のことどう思う?」

既に布団に入っていたみんなが一斉にユメノの方を見る。いや、雨音だけは天井を見上げている。

「偉い人」

「尊い人」

まあちゃんとみいちゃんは声のトーンを変えずに言った。続けて口を開いた。

「だけど本当は一緒に遊びたい」

「だって神様たちいつも寂しそう」

次にユメノが双子の娘たちを見た。しばらく見とれていると雨音が目をつぶり、口を開く。

「神様だって遊びたいお年頃だもんね」

雨音の一言でユメノも小さくうん。といった。そしてゆっくり瞼を閉じると遊び疲れていたのかすんなりと眠りに入った。ユメノに遅れて娘たちも眠りについた。雨音だけがまだ、眠っていない。

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