プロローグ 運命を変える出来事
一部衝撃的なシーンがあります。あしからず。
一九八七年八月五日の今日は少女の誕生日。物心ついたころから母が言っていた言葉を思い出す。
ユメノが十六歳になったらあなたに関する秘密を教えるからね
元来、隠し事が苦手だった少女の母はそれでも少女に対して何か隠し事をしていた。ようやくその隠し事が明かされるとき、誰も想像しなかった出来事が起きた。いや、きっと村の人々は知っていたのかもしれない。そして、少女の母も知っていたのだろう。ただ一人、少女だけが何も知らずに……
立ち上る炎。黒い煙を上げて家屋や畑を飲み込んでいく。もはや火種が何であるかが分からないほどにメラメラと燃える。あちらからもこちらからも次々に炎が立ち上っている。
村人たちは避難経路をあらかじめ作っていたために皆その道を通って逃げていく。当たり前のように女性、子ども、高齢者を優先的に逃がしていく。
何も知らない少女は、畑仕事をしていた母が心配になり一人逆走をした。その姿を見かけたおじさんは少女を追いかける。しかし少女の脚力はなかなかのものでおじさんは見失ってしまった。
お母さん!どこにいるの?無事でいて!
走っていた少女が目の端に見たものは煙の中の人影。忍び足で近づき、炎の影響を受けていない物置小屋に身を隠した。
フードをかぶっている集団と少女の母が対峙していた。
「まだ、あきらめていなかったのね。本当にしぶといですね」
「私の望みは神の望みそのものだ。望みが叶えられるまで何度だって足を向けるさ」
「彼を巻き込んだように、次は村を、村人を巻き込むつもり?」
「神の願いが叶えられるための犠牲だ。きっとその彼も神に認められ天国で幸せに暮らしているだろうよ」
少女は彼らが言っている彼とは誰のことなのか分からなかった。そもそも、この会話の内容を一ミリも理解できなかった。ただそっと、息をひそめる。
「あなたが天国を語るなんてね。変な気分だわ。でも、私もようやく決心がつきました」
「私たちのもとに下る決心か」
母は答えないで静かに天を仰ぐ。黒い煙が風に乗って空を暗黒に包んでいく。
あなた、今、会いに行きます
少女の耳にかろうじて聞こえた言葉で彼とは自分が生まれる前に事件に巻き込まれて亡くなった父のことだと分かった。分かった時には母はもう走り出していた。立ち上る炎の中に迷いもなく飛び込んでいく。
少女が悲鳴を上げる前に先程のおじさんが少女の目を隠し、胸の中へと抱きしめた。
「ユメノ、見てはいけない。ユメノ。ユメノ……」
真っ暗な世界の中で、先程母と対峙していた人物達の怒りと焦りを含んだ叫び声だけが響き渡る。おじさんの呼び声は空しくも少女には届かない。
こうして少女の母を除く村人全員の避難が終わった。故郷から一番近くの街のはずれの集落で一時的に生活することとなった。
これが私の処女作になります。
なかなか至らない点が多いですが、これが誰かにとって読み応えのある物語になりますように。
第一章は今日中に投稿いたします。