庭師との邂逅
魔族が世界統一を果たして10000年。
勇者一行が魔王に敗れて10年。
しかし、人類はなんとか細々と生き延びていた。
「とは言ってもですね、姫さま」
「うるさいっ分かってるわよ、そんなこと!」
人類に遺された領土はほんの僅か。
ちょうど10000年前の日本程度の大きさに、全人類2000万人が暮らしている。
国民の不安と不満はとうに爆発していた。
「ばっかじゃない!?今の主流は魔法。たかだか軍艦で勝てるわけがない」
ここ、最後の国『レジスト』でも最後の軍事力で魔族に抵抗を続けている。
戦況は当然厳しく、ついには王族までもが前線に立たざるを得ない状況にまで陥った。
「これは最後の戦争です。姫さま、どうかご決断を」
「そう、これは最後の戦争よ。負けても……たとえ勝ったとしても、この国は終わる」
「なんてことを!!」
「だってそうじゃない。」
すっと逸らした視線は窓の外に向かう。
そこにはスラムとも言える城下街が広がっている。
荒廃しているのは街か、それとも、人か。
「魔軍歴10000年、あいつらも随分はしゃいでるらしいわね。……忌々しい魔族共が」
小さく、しかし通る声で最後の姫は呟いた。
彼女ももう18。出兵が言い渡されたのである。
この国の王族はもう、彼女以外に遺されていない。
人類の限界は誰もが感じていた。
「すんまっせーン」
訂正しよう。彼以外、誰もが感じていた。
「整備終わりましたヨ……ってナニこの雰囲気」
「ルト、今は外に出なさい」
「あ、姫さまダ!」
「ルト!!」
彼、庭師のルトは構わず姫の元に駆け寄る。
庭師。恐らく次の戦争で真っ先に消えるであろう職の一つ。
むしろよく今まで残っていたものだ。
城の周りの美しい庭も、きっともう見ることはない。
「初めまして、ダネ!」
翡翠の瞳を輝かせる少年に、憐れみのような感情を抱く。
「ええ、初めまして。いつも素敵な庭をありがとう」
「戦争、行くの」
不意に、彼からおちゃらけた口調が消えた。
それは妙に確信めいていて、不思議な重さを纏っていた。
「そうよ、私が国を守らなくちゃ」
「国って、領土?」
姫の決意の一言に側付きの者が涙ぐむ。
しかし少年は続けざまに問うた。
「いいえ、人よ。私はここの人を守るの」
「……ふーん」
姫の立派な一言にも不満げな少年。
「ルト、一体何があなたの望みなの?」
「決まってる。全部サ、姫サマ」
即答した少年は当然のように言い切った。