その3.
「あたしは、ハサミ女。ね、手がはさみになってるでしょ」
ハサミ女は、手を開けたり閉じたりすると、シャキシャキと、音を出しました。
「それにね、歯だってこれ、音がすてきなのよ」
ハサミ女の歯は、キラキラひかるはがねのような歯で、口をあけたり閉じたりすると、シャラシャラとするどい音が出ました。
「いやー、楽団っていってもね、これじゃさびしい音だから、楽器のかたをさがしてたんですが…」
「え? これだけなの?」
ユミはびっくりして言いました。楽団というから、もっとたくさんの人がいるものと思っていたのです。
「わたしたちだって、音は出せますよ」
クモジロウ、とクモゴロウは、自分の手でおなかや、頭をたたきました。すると、モッキンのような音、テッキンのような音、たいこのような低い音、ピアノのような音、いろいろな音がからだのいろいろなところから出ました。
「あとは、この水の音ですわな」
雲のあちこちから、外に水をまきちらすと、ピューピューという、かわいい音が出ました。
「楽器のかただろうと、そうじゃなかろうと…。もう時間がありませんな」
と、クモジロウが言いました。
「あらしを追いかけて、はじまるところに行かなくちゃ」
クモジロウがさっと一本の手をふり上げると、その手には指揮ぼうが握られていました。もう一つの手で、みんなにあいずすると、みんなが一つずつ、少しずつ音を出していきました。
クモジロウは二本の手で、指揮をして、ほかの手で音を出すのです。
その音楽は聞いたことがないようなものなのですが、きおくの奥の奥にあるような、なつかしい音楽なのです。
ユミは、ぼんやりと、お母さんのおなかの中にいたころって、こんな感じかな…、と思いました。
ユミも、リコーダーを鳴らしてみました。それはしぜんにみんなの音にまじりあいました。
「うん。なかなかいい音楽になるわ!」
ユミは目をかがやかせました。
みんなの乗っている雲は、スピードをあげ、あらしのはじまりをおいかけました。そして、あらしのまっただ中にはいると、あらしが強く、はげしくなり、音楽も、強くはげしくなっていきました。
ユミはむちゅうでリコーダーを鳴らしました。
すると、びしょぬれだったユミのからだから、もくもくとゆげがあがって、それは雲の一部になり、ユミのからだは、どんどんかわいてしまいまいした。
ユミのしんぞうは、ドンドンと高なり、血もはやくながれ、からだぜんたいで音楽をかなでているような気がしました。
「うん。これなら、あたしだって、楽器のかたってよばれてもいいわ!」
ほかのみんなもひっしでした。クモジロウ、クモゴロウの手は早くて、何をしているのかわからないくらいです。カゼくんは、みんなのまわりをヒュウヒュウととびまわり、風だけがおきて、すがたは見えません。
ジャバラじいさんは、のびたりちぢんだりをはげしくくりかえし、ハサミ女はかみをふりみだして、くものてんじょうを切りきざんでいました。
乗っている雲は、くるくるとまわり、はげしい音といっしょに雨をふらせました。
ユミの指はしぜんにうごき、つぎの音、つぎの音がしぜんにわかります。それはたのしくて、うれしいことでした。
どのくらいえんそうしていたのでしょう。だんだん、クモジロウの手の動きがゆるく、やさしくなって、音楽も静かにやさしくなってきていました。
むちゅうで音を出していたけれど、ユミはだんだんつかれて、ねむくなってきていました。
そんなユミにあわせて、音楽もユミをつつむように、やさしくやさしく、おだやかになっていきました。
「ああー、ねむい!」
ユミはしっかり目をあけて、ちゃんとえんそうを終わりたかったのですが、まぶたがどんどんおもくなって、目をあけていることができなくなりました。
「あーあ。なんてきもちいいんだろう! もう台風は終わり。あしたは晴れるんだわ」
そう思いながら、ユミはぐっすりと眠りこんでしまいました。
朝、ユミは自分のベッドの中で目がさめました。
「ユミ! ほら、はやくしなさい!」
お母さんがユミのへやにはいってきました。
「あら! たいへん! あなた、あんな台風の日に窓をあけていたの!」
ユミのベッドの上の窓は、はんぶんあいたままになっていました。
「あらあら、ここ、こんなにぬれちゃって!だめじゃない!」
窓の下がびっしょりとぬれていたのです。
お母さんは、てきぱきとユミのふとんをたしかめました。
「あら、ふしぎ…。ふとんはぬれていないわね」
そして、お母さんはユミを見て笑いだしました。
「あらあら! リコーダーをにぎりしめたまま寝たのね!」
ユミは自分の手の中にあるリコーダをだきしめました。
「きょうは、きっとうまくいくわ!」
そのとおり! その日の音楽の発表は、もちろん大せいこうでした。じぶんが音楽の一部になる…、という感じがわかったのです。
さいごの一つの音を出すとき、さびしくて、むねがはりさけそうになりました。
「ああ! またみんなとえんそうしたい!」
と、ユミは思いました。
ユミは、家に帰ると、くもくもくも楽団がやってきた窓をあけました。
「いつかくもくもくも楽団に入れてもらおう」 からだの一部が楽器じゃあなくても、楽器はからだの一部になったようになるのです。これなら、りっぱにやってゆけるでしょう。
つぎはいつくるのでしょう。また台風とともにくるのでしょうか…。
あのはげしい、あらしのような音楽もすてきでしたが、さびしい雨の日や、おだやかな天気の日にもぴったりの音楽もあるはずです。
ユミは、リコーダー以外にも、いろいろな音を出してえんそうできる音楽家になりたいな、と思いました。
そうすれば、くもくもくも楽団のほうから、さがしてむかえにきてくれるにちがいありません。
ユミは空をじっと見つめて、言いました。
「いつくもくもくも楽団がむかえにきてもいいようにしておかなくちゃ!」