アータ編3
「アータ」
アリサという少女がまた僕の目の前に現れた。
「何だ? また余計なことを言いに来たのか?」
「いいえ」
「じゃあなんだ?」
「私に付いてこない?」
「何故?」
「貴方に見て欲しいものがたくさんあるの」
「ふん、敵の言う事を聞くほど僕は馬鹿じゃない!」
「じゃあ、そのままずっとここ(地獄)にいるの?」
「…………」
「貴方に会わせたい人がいるの。付いてきてくれないかしら?」
「チッ、分かったよ」
アリサに連れられて僕はある場所に辿り着いた。教会? だろうか。教会の庭では子供達が楽しそうに遊んでいる。そこを通り過ぎ教会の中に入る。中には一人の老人(老人だろうか? 牧師にも見える)がいた。
「ラタルタ」
「アリサ君、連れてきてくれたんだね」「ええ」
「貴方は」
ラタルタという老人は僕を見て、安心したような顔をしていた。
「エドワード・ラタルタという者だ。君はアータ君だね?」
「はい、そうですが」
何か、この人を見ると敬語を使いたくなってくる。
「率直に聞いてみたいのだが」「はい?」
ラタルタは少し間を置いて、
「君は悪についてどう考えているのかね?」
優しい口調で僕に聞いてきた。
「……僕は悪を許容出来ません。滅べばいいと思うほど」
「そうか、では私と同じだな」「……え?」
「私も君と同じように悪を滅べばいいと考えた人間だ。やり方は君とは違うが」
僕と同じ悪を嫌う人間。ラタルタもそういう考えなのか?
「君は悪は滅べばいいと先ほど言ったね?」「はい」
「それは私も同じだ。無論、今でもだ」
「では何故、僕がこんな目に遭うんでしょう? あのアリサという少女を僕に仕向けたのは貴方なのでしょう?」「ああ、そうだ」「僕のやり方に同意するのでしょう? では何故?」
ラタルタは少し考えた後、
「アータ君。別に私は君の感情を悪いものだとは思っていない」「では」「しかし、アータ君。やり方は考えねばならない」「やり方?」「ああ」
ラタルタは穏やかな口調を維持したまま、話を続ける。
「まずやり方の前に、君は悪人が善人に更生するとは思えないのかね?」「思えません」「理由を聞いても」「そんな人を知らないからです」「なるほど」
ラタルタは考える素振りをしながら話を続ける。
「しかし、だね。私が見た限りでは多くはないかもしれないが、悪人が更生して善人になるパターンも普通にあるのだよ」「ふむ」「ましてや人が悪に走るのにはいろいろ事情だってあったりする。例えば、餓死しそうな浮浪者が生きる為にパンを盗むようにね」「ふむ、しかし」
僕はラタルタに反論する。
「僕が許せない悪とは浮浪者のことではなくて、好き放題人を虐める悪党共です。悪を好む人と言ったら分かるでしょうか?」「ふむふむ、そういう悪人を君は許せないわけだね?」「はい」
ラタルタは更に考える素振りを見せ、口を開いた。
「だがねアータ君」「はい」「まず、人というのは未熟な存在でもある」「未熟?」「ああ、未熟さ故に悪を行ってしまう者も多いのだ」「ではその悪を野放しにしろと?」
「違う。私が言いたいのは例え、未熟さ故に悪を行ってしまっても反省の余地があるということ。そういう未熟な者達も成長していろいろな体験をしていくうちに悪から離れていくようになる」「…………」
「その可能性まで否定して、安易に殺すという手段を使うことには私は賛同できない」「ですが、変わらない者達もいるのではないでしょうか?」「だが、殺していいことにはならない」「ですが」「そもそも人は変わる生き物だ。変わらない人はいないと私は思うがね」「……」
変わらない人はいない……か。
「アータ君、これからは別のやり方で悪を滅ぼさないかね?」「別の……やり方?」「正しい生き方を説きながら、寛大な精神でもって悪人を含めたあらゆる者達を導いていく。私達がやっている魂救済活動がそれだ」「…………」
「いきなりそれをやれとは言わない。君にも考える時間が必要だろうからね」「……」
「話としては以上だ」
そうか、やり方か……。
「ラタルタ様、今日はありがとうございます。少し考えてみます」「ああ、いい返事を期待しているよ」
こうして僕はラタルタとの会話を終え、アリサに連れられて教会を出た。
「どうかしら? ラタルタの話を聞いて」「いきなり彼の言う事全てに同意は出来ない。けど」
「けど?」「考えてみようとは思う」「良かった! その答えを待っていたのよ」
僕は考えねばならない。本当の楽園とは。本当の世界とは。本当の意味での正義とは。どういうやり方がいいのか今一度、考えてみないとな。




