世界の破滅編12
「ねえ、もっと……もっと悲鳴をあげてよお」
二人の少年少女は殺戮を楽しんでいた
この二人、どこかで会ったことがある
いつぞやでも街中で殺戮をしていた二人の少年少女だ
「おや?」
二人とも私たちの存在に気づいたらしい
「どういうつもりだてめえら!? 取引は?」
ヘルフェスは驚きを隠せないような様子で二人に訪ねた
「ヘルフェス、取引ってどういうこと?」
「それがアリサ様」
ヘルフェスが説明してくれた
彼らとは僕たちの邪魔をしない限り殺戮はしないといった内容だった
「そう」
「しかし、彼らは約束を破り今尚、殺戮をしている……」
「ヘルフェス、彼らを止めてちょうだい」
「了解しましたアリサ様」
「ちょっと俺っちたちの存在を忘れないでよ」
信彦が横槍を入れる
「あいつらは危険だ、お前でも手こずるだろう」
「ほう、面白そうじゃないの」
そう言って信彦は剣を構える
「アリサ様、力を開放しますね、よろしいですか?」
「ええ、構わないわ」
ヘルフェスが悪魔の姿に変わった
「そういやあいつ悪魔だったんだよなあ」
拳がそう呟く
何を今更……
「ミーナ、例の儀式を」
「分かったわ」
「な!?」
二人は驚くべき光景を私たちに見せてくれた
「ひゅー」
拳が口笛をあげる
なんと二人はディープキスを私たちの前で披露してくれたのだ
全くハレンチなやつらね
「ミーナ、君の唇甘いね」
「レイトの唇は苦いけど風味がいいわ」
惚気やがって……
そう思っていると二人の姿が消え魂だけが現れた
そしてその魂が交わり合い一人の人間が現れた
顔はさっきの少年少女の顔を足して二つに割った感じだ
「ヘルフェス、あなたが一つになったって言ったあれって」
「はい、このことで御座います」
なるほど
彼らはただ惚気けてるだけじゃなかったのね
「ヘルフェス援護するぞ」
「やれるものならやってみろ」
拳はあくまでも余裕そうだが
あの人物を見てみるとそうは思えなかった
強烈な殺気を放っていたからである
「もう一度聞こう、取引の件はどうした?」
「あれから僕たちの城に邪魔者が攻め込んできてさ」
「それで私たち冒険をすることになったの」
その人物は一人で二つの声を出していた
「それにずっとあの城に閉じこもるのも飽きるしね」
少年の声がそう言い放つ
「そうか、分かった」
ヘルフェスはフゥーと一息置くと
「アリサ様、彼らに手加減は出来ません、殺すかもしれません、ご了承ください」
「そう、どうしようもないなら仕方がないわ」
私はヘルフェスに殺しの許可を与えた
しかし、悪魔になったヘルフェスに負けない殺気
あの二人は一体何者なんだろうか?
緊張の瞬間……
ついに二人が動きだした
「な……!?」
二人の動きがとてつもなく速い
目線が追いつかないぐらいだ
「速すぎる!」
「これじゃあ援護できないじゃないの」
拳と信彦も同じような意見だった
他の人が見ても同じように言うだろう
火花だけが見え隠れした中
二人の動きはまだまだ衰える様子を見せない
見物してる私たちは緊張感を放っていた
まるで野球観戦をしている観客みたいだ
目線はもはや彼らを捉えることすら出来なくなっていた
カキン、カキンという音だけが聞こえていた
どれくらい時が経ったことだろう
二人の動きは変わらない
しかし、状況は思いっきり動いた
「うごあああああああああああ!!!」
断末魔が聞こえた
・
・
・
・
・
・
ヘルフェスの声だ
「はぁ……はぁ……僕たちの……勝ちだね」
ヘルフェスが地面に倒れこむ
ヘルフェスを倒した人物も体力を使い切ったのか
片膝を立てて下を向いていた
「隙有り」
「な!?」
そこに信彦が割って入ってその人物の首をはねる
「レイト、死んでもずっと一緒だよ」
「ミーナ……」
生首は一人でにそう呟くと動きを止めた
「ヘルフェス!!」
私はヘルフェスの元に駆け寄った
ヘルフェスのお腹から大量の血が湧き出ている
「申し訳……ありません……アリサ様……自分は……ここまでのようです」
「もういい、もうあなたは充分やってくれたわ」
「勿体無きお言葉……ゲホッ!!」
「ヘルフェス!!」
ヘルフェスは血を吐き出していた
「アリサ様にもう二度と会えない……そう思うと悲しくてなりません」
「会える……会えるわよ!」
「嘘はやめてください、顔に出てますよ」
私は思わず自分の顔を触る
手には涙の感触があった
「アリサ様あああああああ」
ヘルフェスも涙を流していた
「アリサ様にはもう二度と会えない」
「……」
「ならばせめてひとつだけお願いがあります」
「何かしら? ヘルフェス……」
「あなた様には私という下僕がいたことを忘れないで頂きたい」
私は思い出していた
思えばヘルフェスとも長い付き合いだ
彼は常に私の下僕として付いて回ってくれた
地味なボランティアにも渋々参加してくれた
あの時のヘルフェスの思い出が蘇る
いつも私の命令を聞いてくれたヘルフェス
いつも私から離れなかったヘルフェス
いつも私を困らせてくれたヘルフェス
どれも今にして思えばいい思い出ばかりだ
「どうか……私のことを……」
「ヘルフェス!!」
私は何度かヘルフェスと連呼した
しかし、ヘルフェスが返事をすることはなかった
「嘘よ」
あのヘルフェスが死ぬはずはない
「嘘よ」
だって上級悪魔なのよ
「嘘よ」
だってとても強いのよ
「嘘よ」
だって私の下僕なのよ
「嘘よ」
だって……
「嘘よおおおおおお!!!!」
私は大声で泣き叫んだ
今までヘルフェスを邪魔者扱いしていた自分を恥じた
彼は最後の最後まで立派に私の下僕としての役割を全うしてくれた
「ラタルタ」
私はラタルタを呼ぶ
「早く行きましょう、もうこれ以上こんな悲しみを増やしたくない!!」
私は震えた声でそう言い放った
「……ああ、そうだね」
私たちは世界の秩序を戻すため足を進めることにした
ヘルフェスのことが頭から離れない
お兄様の時と同じだ
しかし、ここでくじけるわけにはいかない
「絶対にこの世界の秩序を正してやる!!」
私はそう固く胸に決意した
ー世界の破滅編12ー
完




