表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫の不倫   作者: nao
2/4

悪夢

 夫の様子がおかしくなってから2週間。

 私が体調を崩してさらに1週間が経った。


 10月もそろそろ終わりだ。一年があっという間に過ぎていくように感じた。


 風が涼しくなり、長そで着るようになった。

 布団もずいぶんまえから、温かい羽毛に替えていた。



 ふんわりとしてやわらかい。


 不安な私の心までも、くるんでくれているような気がしていた。




 夫の様子は相変わらずだったが、最近はとくに不機嫌な日が続いていた。



「またメール? 一体なにを相談してるっていうの!」


 私がこんなことを言うようになったからだろうか。



「色々ある子なんだって!」


「夜中もメールして、朝方もメールで起こされているでしょう? 異常よ!」


「だからなんだっていうんだ! お前が勝手に誤解してるだけだろ!!」



 普段冷ややかな目をするときはあっても、私を怒鳴ったりなどしてこなかった夫が声を荒げた。

 目の奥で、なにか嫌なものを感じた。



 そういえば、夫の父親はDVをしていたとか。



 夫は優しい外面のいいタイプで、家庭ではそのメッキがどんどんはがれていた。


 もしかして・・・。



 血なんて関係ない! 大事なのは育った環境だ!


 そう思っていた私の心が少しだけ崩れた。



 夫が私を怒鳴り、そしてまた携帯を見つめる。


 おかしい! 


 おかしい!


 おかしい!!




 声がでないなりにも、必死で音を出そうと絞り出す。枯れ果てた声が、囁くように口からでてきた。本当は叫びたい。叫んで怒鳴り散らしたい。

 全ての思いを、吐き出したい。


「勘違いなんてしてないでしょう。あなたの態度がおかしいと言っているの!最近私を無視してばかりいるでしょう。まるで会話になってないわ。こんなの夫婦っていわない! ちゃんと向き合ってよ!!」



 女の声とは思えない声がでるたびに、泣きたくなる。

 私は目に涙を浮かべていた。

 届かない声に、変わらない夫に、付き合っていたときから変わってしまった今の夫に、すべてのものが悲しく思えて仕方なかった。



 そんな私をみて、夫は少し冷静さを取り戻したらしく、私の横まで近づいてきてそっと抱きしめた。


「ごめんね、仕事が忙しくてイライラしてた。これからは気を付けるから」



 10月からほとんど私の方など見ようともしなかった夫、さっきまで私に怒鳴りつけていた夫が、急に優しくなった。


 そんな疑わしい状況でも、今考えれば自白までしていた夫を、私はそのとき信じてしまったのだ。




 優しくされたかった。寂しかった。




 その思いに、負けて。



 それが悪いことだとは思わない。新しい土地でまだ知り合いも少なく、頼れる実家も遠いところにある。



 夫だけが、私の頼りになっていた。




 けれど、それからも夫の態度が変わることなどなかった。




 

 ひと月経ち、私の体調が悪いからとはいえ、そんなことおかまいなしで求めてきていた夫からの誘いが、10月に入ってから全くなくなったことに不信を抱いた。


 女の私はとくに不便は感じないけれど、男の方はそうではないことくらい、知っている。



 なにで処理しているのだろう?



 その夜私はお告げのような夢を見た。




 私は一台の車を後ろから見つめていた。白い普通車に乗っているのは、仲のよさそうは一組のカップル。


 二人は見つめ合って、そして女の方が車を降りた。



「またね」



 そんな素振りをしていたので、デートの帰りなのだろうと私は勝手に想像した。私にもそんな時があった。幸せそうなカップルだった時が。



 車はしばらく発進しなかった。そして、別の女性がやってきてさっきの女性と入れ替わりのように車に乗りこむ。



 今度は見つめ合うなんてことはしなかった。二人で楽しそうに笑いながら、女の方が服を脱ぎ始めた。




 これって浮気現場?! そう思ったと同時に、なぜか私は涙が止まらなくなった。


 こうして簡単に浮気ってできるんだ。さっきまで見つめ合っていただけのカップルの光景がまるで嘘のよう。



 幸せそうに見えていたのに、そう思っていたのはさっきの女性だけだというのか。



 男の方はその後別の女性と楽しんでいる。



 たまらなく許せない気持ちが湧き上がって来た。ひどい裏切り行為だと思った。


 

  デートの帰り道は寂しいもの、その寂しさを感じている女性を騙して、男の方は寂しさなど感じる間もなく・・・。




 女性を降ろしてからまた別の女性を招き入れている、その神経にゾッとした。


「彼女帰ったの?」



 そんな会話が聞こえてきた気がした。

 後から来た女性は知っているのだ。



 知っていて、なにも知らない女性を笑っているのだ。




 目が覚めてふと隣を見ると、夫の姿がなかった。



 さっきの夢が現実になったようで怖くて、急いで家中探したがいない。



 外に出てみると、夫は一人お酒を飲みながら煙草を吸っていた。




「どうしたの?」

 

 手には相変わらず携帯電話。



 画面を見られないように急いで閉じていた。



「別に」




 さっきのはただの夢だ。夫はここにいる、大丈夫。




 大丈夫。




 

 女の勘は最初から警告をだしていたのに、のろまな私はそんなことあり得ないと無視をし続けていた。


 この日もそう。





 まだ、信じていたのだ。




 夫が不機嫌なのは仕事のせい。もとからストレスに弱い人なのだから、と。



 しばらくすれば、また元の二人に戻れる。



 今の現実が悪夢ならいいのに。

 目を覚ましたら、すべて夢ならいいのに。



 そう、願いながら。



 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ