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夫の不倫   作者: nao
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携帯〜発覚までの私たち〜

 夫の様子がおかしかったのは、10月に入ってからだった。


「ずっとメールしてるけど、誰と?」


 その時はただ、なんとなく聞いただけだった。


 夫に限って・・・そんな気持ちがまだあった頃だ。


 二人で出かけているときも、ランチをしているときも、帰り道の運転をしているときも、夫は携帯とにらめっこしていた。

 夫は私の質問に答えるときも、携帯画面から目をそらさずに答えた。


「会社の後輩、相談にのっているんだ」


「一日中? 誰かの悪口でも言っているの?」

 愚痴なら飽きることはないかも。とはいえ一日中ってどういうことだろう。


 夫もメールを楽しんでいる様子が伝わってくる。そうでなければ、ここまで続かない。


「色々ある子でさ」


「男?」


「うん、そう」




 その時の私は不倫は疑ってはいなかった。けれど、今までの生活が音をたてて崩れていくのだけは、ハッキリと感じていた。



 その夜、私は布団の中で泣いた。

 夫は寝る時も、携帯電話を手放さなかった。





 10月の中旬、私は体を壊した。朝は6時から給食センターで働き、昼からファミレスで働くというダブルワークをしていた。その無理が、祟ったのだとその時は思った。


 一日中咳がとまらなくなり、一度咳き込むと吐くようになった。

 次第に声もでなくなり、仕方なく二つの仕事に断りの電話をかける日が続いた。


 咳こんでいつ吐くかわからないので、衛生面で厳しい給食センターには絶対に行けない。

 ファミレスだって同じだ。しかも声がでないとなると、ホールの仕事は絶対にできない。



 家で一日中咳こみ、トイレにかけこむ私を夫は冷ややかな目で見つめていた。

 そしてその目は携帯に向けられ、そのまま私に声をかけることなどなかった。



「そのくらいで休むなんて」



 そう言いたげな顔だけはしていた。

 

 夫はもとから「女の仕事は楽でいいな」と、言うようなタイプだった。私がどんなに頑張っても、いつも俺の方が偉いという妙な上から目線を結婚してから感じていた。


 一時期は災害の影響で夫の仕事がなくなり、私が働いていた時もあったというのに、その時も夫は家事などせずに


「一日外でふらついてくるよ、古本屋で立ち読みするのが一番お金がかからないからね! なんか嫁を働かせて遊んでるように見えるけど、でもオレには一応今も1日の給料の6割分の給料は発生してるからね。ダメ男じゃないよ」


 などと言い訳しては、仕事も家事も私にやらせていた。


 新婚から失敗したかもしれない、とその時私はうっすらと思ったのだった。




 付き合っていたときは当然優しい人で、家事もできるし料理もできる。周りからもいい夫になる、とよく言われるんだと自慢していた。


 二人で頑張ろう、と言って結婚したのに、蓋をあけてみたらとんでもない亭主関白。


 女は家事、仕事をして当たり前。けれどそれは一時のことで、一生外で働いている夫の方が偉いんだ。




 女はそのうち働かなくなる。子供ができたら、その間家計を支えているのは男の方だろう? そんなことを思っているような素振りが目立ち始めた。


 夫の仕事がなかった数か月間、部屋で落ち込む夫を励まし、一日中働いた私は、なんだというのだ。

 

 新婚で新しい土地、慣れない土地で仕事を見つけ、そこにかじりつくように必死で働いた。

 あまりいい環境の職場ではなかったけれど、夫に相談しても


「俺の方が大変だ」


 と、言われるだけでなんの励ましにもならず、嫌になって話すこともしなくなった。



 どんなに家事を頑張っても「俺の方がうまくやれる、おまえはまだまだ」そんなことを言われるようになり、そんなような目をされるようになった。



 結婚をして、気が大きくなっているのだ。


 初めて人を養うという現実、自分が大黒柱になるのだから、と時代遅れなプレッシャーゆえにそのような勘違いが起きているのかもしれない。


 私の父親も、結婚してしばらくの間は


「頭おかしいくらいに亭主関白を気取っていた」




 と、母が言っていたのを思い出した。




 けれど、それだけだろうか。





 私は今体調を崩し、一日苦しそうに咳をしながらも家事をしている。

 夜も咳がとまらず、ここ最近ゆっくり眠れていない。




 そんな私を、なぜそこまで冷ややかな目で見れるのだろう。


 もう、愛情などないということだろうか。



 それはお互い様なのかもしれない。


 私も夫の亭主関白ぶりに疲れていたし、威張るだけで近所付き合いもせず、すべての面倒事から逃げるだけの夫をみて、情けないとも感じていた。



 次第に、体だけでなく心まで小さい男なのだな、と思うようにもなっていた。


 結婚して1年。



 まだまだこれから、とも思っていたのに。


 これから夫婦を構築していけばいいと思っていたのに。




 夫の方は、どうやらそうではないらしい。




 それだけは、わかっていた。

 



  

 

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