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夢からの守り人  作者: kanisaku
7/22

故郷(ふるさと)からの人

病院の、自分と母しかいない部屋でしばらく泣き続けは母は、少し落ち着きを取り戻し、残った涙を拭う。

 九月くづき「俺って…どうしてたの?」

 母「夜に大急ぎで戻ってきたと思ったら、二階に上がって行って…。ドンってものすごい音がして…呼んだけど返事も無いし。見に行ったら…」

 九月「倒れてたの?」

母が静かにうなずくを見て。自分を責めた。

 九月「心配かけちゃったね…。でも、今はもうそんなに痛くもないし、すぐ良くなるよ」

 母「そう…それなら良いけど…。あ、貴方の事心配して、お父さんが来てくれてるの。呼んでくるわね」

 九月「おじいちゃんとは小学生以来かな~、懐かしい」

 母「まだ仕事残してくるから、私はこのまま帰るわね。お父さんに失礼無いようにしてよね?」

 九月「わかってるよ」

母が病室を出ようと戸を開けると、戸の前に一人の、元気そうな老人が立っていた。おじいちゃんだ。

 母「あ、お父さん。私今から仕事に戻るわ。九月の事お願いね」

 祖父「任せとけ。ばっちり面倒見てやる」

頭は禿げ、白髪を10cmほど伸ばしている祖父は、年寄とは思えないがっしりとした体形の人だ。自分が小さい頃、仕事が忙しかった母に代わり、田畑が広がる山奥の大きな村で自分を育ててくれた恩人であり、信頼できる人。

 祖父「クー坊、元気しとったか?頭打つなんてマヌケやのぉ」

自分を昔のあだ名で笑いながら指差す祖父。小バカにしているようだが、自分は祖父のこの性格が好きだ。

 九月「じいちゃんも久しぶり。その様子だと今だに元気そうだね」

 祖父「おうよ~。あれからな、畑も4つから7つに増えとるよ」

祖父は村の中でも有数の田畑の所有者で、その地域だけじゃなく、いろんな人達から畑を貰ったり貸したりしている。自分が居た頃から、祖父に、畑仕事の弟子入りのような人たちがかなり居たので、畑が多くなってもあまり問題は無いと聞いている。

 九月「また多くなったね~。大丈夫なの?体壊した時とか大変じゃない?」

 祖父「なーに、アイツらはちゃんと働いてくれてるし、いざとなったら豪邸でも建ててやるさ、ハハハハ!」

少ししわがれた声で高笑いをする祖父に安心感を覚える。そういえば、自分が居た頃に、一緒に遊んでいた友人がいた。気になったので祖父にたずねて見る。

 九月「そういえば、太一たいちはどうしてる?」

 祖父「おおそうやったそうやった!ちょっと待っとき!」

そういって祖父は病室を出て行った。まさか、居るんだろうか?そう思っていたが、案の定、太一は居た。少し焼けた肌に、冬だというのに、いまだに半袖を着ているが、流石に足元は寒いのだろうか、サイズの大きい長ズボンに、スポーツシューズを履いている。

 太一「おー!めっちゃ久しぶりだな九月!」

 九月「太一ー!あ痛てて…頭が…。あんまり騒いじゃいけないな」

 祖父「こいつ、ワシが見まいに行くと言ったら勝手に車の二台に隠れて付いてきよったからな。たいしたもんよ。余程心配しとったんだろう」

 太一「九月が病院に居るなんて言われて。じっとしてるなんて無理があるぜ。岩に噛みついてでも付いて行くさ」

 九月「そんなに心配してくれてのか…ちょっと嬉しいな」

 太一「なんだよちょっとだけか?もっと嬉しがれよ。俺が来たんだ」

 祖父「調子が良いなコイツ」

しんみりしていた筈の病室は、とても明るい笑い声と笑顔で照らされた。

 太一「お前の母さんから聞いたんだけど、2日3日病院で寝てたんだって?この寝坊助め」

 九月「いつもそんな感じだよ、学校から家に帰ったらすぐに寝るんだ」

 祖父「よほどいい夢が見れてるんだろうな。ワシはここ数週間夢は見とらんからな~羨ましいわ」

 九月「…」

祖父の何気ない一言に、阿求と幻想郷の事が脳裏を過る。

 祖父「?」

 太一「九月、お前…何か隠そうとしてるな?」

 九月「えっ」

 太一「昔からだ。言われたくない事とか、秘密にしたいことがあったら、少し押し黙る癖、治ってないんだな」

 祖父「そういえばあったかな、そんな癖」

 九月「言っても本気にはしないでくれる…?」

 太一「内容による」

 九月「だよな…言うよ。ここ最近、寝てる時に見る夢が続いてるんだ」


祖父と太一に全てを話した。幻想郷という夢の世界、自分の立場、阿求の事、そして妖怪を相手に戦っている事を…。

二人は何の戸惑いも信じられないという顔一つせず、最後まで聞き終わると。色々と質問をしてきた。

 太一「夢の中で…ねぇ。カッコいいじゃん。やっぱりその女の子って可愛いの?」

 九月「今まで見てきた女の子の中じゃ、一番可愛いと思う」

 太一「本当かよ、会ってみたいな~」

 九月「でも、まだ11歳って言ってたし…」

 太一「なんだ、5歳も年下か、じゃいいや」

 祖父「妖怪と戦うたって…。負けちまったらどうなるんだ」

 九月「殺されるような負け方はまだしてないから、まだ分からないけど…夢の中で死ぬんだから多分、もう二度とその夢の世界に行けなくなるんだと思う」

 祖父「なんだそれだけか。なら躍起になることもないじゃねぇか」

 九月「でも、自分が殺されたら、阿求を守る人がいなくなる…自分が彼女を殺してしまうような気がして…それに、夢の中の人達と約束したんだ。絶対に殺させないって」

 祖父「ふむ…。じゃあ、今のクー坊は寝てその世界で戦うことが大事だと」

祖父の言葉に、静かにうなずく。祖父は顎髭をいじり考える。

 祖父「うーん…そうか、夢が大事か…」

 太一「寝ればいいじゃん」

 九月「そうだけど…学校とかもあるし、昼は大丈夫なんだけど、何かあった時が怖くて…」

 祖父「そうか…じゃ、学校辞めるか?」

 九月「そんな、無理だよ。お母さんに心配かけたくないから、黙ってるのに、学校辞める理由が夢を見るためなんて」

 祖父「強制はせんよ。夢の中の娘を意地でも守りたいなら、学校辞めても良いし、そこまで心配することじゃないなら、怪我が治ったら今まで通りに生活するといい」

 九月「そりゃ心配だけど…学校を休むならわかるけど辞めるなんて」

 祖父「ワシの考えとしては、クー坊がその娘を死んででも守りたいと思うなら、ワシの村に行って、農業を手伝って生活するとお前のかあさんにいえば納得してくれるだろ」

 太一「おぉ、その手があったか!」

 九月「でも…」

 祖父「九月、ワシは昔お前に言わんかったかな。人は、寝ながら畑を耕す事はできない。二つの事をするには、どちらかを先にしなければならないと…。お前はどっちを先にするんじゃ?」

 九月「…」

 太一「学校と、夢か…」

 九月「俺は………阿求を守りたい」

 祖父「そか、ならまずは怪我を治せ。あと数日で治るだろ。ワシは村に戻って準備しとく。お前も、母さんが納得するような言い訳と理由を考えとけ。行くぞ太一」

 太一「え、俺も戻るの?」

 祖父「当たり前じゃ、このまま残しても、お前金もっとらんじゃろ。どうやって数日を喰っていくんだ?」

 太一「確かに…。あ、ポッケに50円あった!」

 祖父「やれやれ…。ジュース買ってやるから、お前も戻って準備を手伝え」

 太一「へーい。じゃあ九月、また今度な~」

 九月「あぁ、またな」


母をごまかす理由…。農学を学びたいなんて言っても、学校を卒業して専門校に行けと言われるだろう…。

 九月「どうしたものか…」

考えていると、阿求の事が気になって、目を瞑る。こうすれば、数分後には眠れているだろう。


 九月「あ、来れた」

自分は阿求の屋敷のいつもの縁側に立っていた。時刻は昼の12時くらい。部屋の中を歩き回り、阿求を探す。途中、使用人に聞いてみたが、誰も知らないと言った。

 九月「…あの部屋かな」

数センチの隙間が開いている一つの部屋があり、その隙間から中を除いてみた。

 九月(阿求?)

隙間からみえたのは、阿求だった。そして、もう一人、誰かの姿が見えた。

紫色の服、紫スカートの女性…?よく見えないが多分そうだろう。会話内容は、襖に耳を当てると聞こえた。

 ?「じゃあ、彼はこのままで良いのね?」

 阿求「はい、九月さんは、幻想郷に繋いでおいてください」

繋ぐとはどういう事だろうか。まさかこのまま夢から覚まさせてくれなくするというものか?気になるので部屋に入ってみたいが、阿求にの機嫌を損ねるのは守り人としてあまりしたくない。見なかった事にして、別の場所へ行く。しかし、廊下を歩いている途中で、目が覚めた。


そんな事があった夜7時、本をずっと読んでいたが、暇なのと阿求が心配で眠りに着く。

 九月「やっぱり場所はここなんだな…」

大きな月が見える縁側。時間を考えれば、しばらくすると妖怪が来るはずだ。


縁側に座って30分程度経ったと思うが、とても暇だ。妖怪一匹来ない。そう毎日くるものじゃないんだろうか。

  九月「阿求は…どうしてるんだろ」

阿求の部屋の襖をあけると、阿求は既に眠っていた。まだそんなに夜遅くでもないが、この世界の人たちは、外の世界より早寝早起きだ。

 九月「…やっぱり阿求の寝顔は可愛いな」

今まで見てきた女性の中では、ダントツな可愛さを持つ阿求。初めて会った時や、幻想郷に来てすぐの頃は妖怪相手に必死だったり、よくわからない世界で戸惑ったりしてあんまり意識しなかったけど、可愛い娘だ。

 ?「貴方が九月ね…。思ってたより若いわね」

突然後ろから声がして驚き振り向く。

塀の上に一人の女性が座ってこちらを見ている。新しい妖怪だろうか。

 紫「私は八雲やくも紫(ゆかり。)そんなに身構えなくても、貴方を襲う気はないわ。ちょっと話があるだけよ」

 九月「話し?」

 紫「今日、阿求と貴方の事を話してたのよ」

 九月(今日…阿求と話してたのはコイツだったのか)

 九月「ふむ…それで話って何?」

 紫「阿求と話してたのだけれど…。貴方の居る世界とこの世界について」

紫はそう言った瞬間、落ちるように消えた。それに驚いて、離しかけていた刀をまた握る。

 紫「そう警戒しないで。話があるだけって言ったじゃない」

気がつくと紫は自分の横に座り、扇子で口元を隠しニコニコと笑っている。

 九月「うわっ!?」

 紫「私は妖怪…こんなの造作もないことよ。そんなことより、お団子でも食べるかしら?只喋ってるだけじゃ物足りないでしょう?」

どこから取り出したのか、4個の串に刺さった団子を、小皿に乗せて縁側に置く。早速紫は団子を一つ取り、美味しそうに食べ始めた。毒は無いと言いたいのだろうか。でも紫は妖怪で自分は人間、人間に効いて妖怪に効かない毒でもあったら元も子もない。

 九月「疑い続けるよりは…マシだよな」

多少警戒しながらも紫の横に座り、団子を食べる。

 九月「…美味しい」

 紫「でしょう?実はこの人里にある団子屋の物なの」

 九月「そうなのか…。それは兎も角、話ってなんなんだ」

 紫「さっき言ったように、貴方の話し…。今は、阿求にお願いされて貴方の魂とこの幻想郷を繋いでいるわ」

 九月「俺の魂を…?」

 紫「貴方が寝ている間だけ魂は幻想郷に入り、身体を生成する。そして、貴方を幻想郷で妖怪と戦わせる…」

 九月「じゃあ、阿求が言ってた俺の先代って…」

 紫「もちろん嘘よ」

 九月「!!」

 紫「彼女は自分自身を守る為に、外の世界から貴方を選んだわ。外の世界で人との関係が薄く、寝る事が多い貴方をね。代々受け継いでるというのは、彼女が考えた作り話」

 九月「じゃあ、俺が最初に夢で見たもう一人の俺って…」

 紫「私の力で前に雇っていた用心棒の姿を変えた姿よ。貴方に関連性を頷かせるために阿求に頼まれからそうしたわ」

 九月「…そんな、阿求」

複雑な気持ちだ。代々受け継がれている守り人としての使命。特別な人を守ろうという意気込み。全てを壊された感覚、それでも彼女を守ろうという気持ちが心のどこかにあった。それも、次の紫の一言で消えた。

 紫「それと、貴方がこのまま守り人を続けるとして、仮にこの幻想郷で死んだら…魂が消滅することになり、貴方は外の世界でも死ぬ」

 九月「…」

 紫「そのことを阿求と話してたのよ。貴方を騙してまで自分を守り通させるか、貴方の事を思って、貴方に真実を伝えて元の世界に戻すか…」

 九月「阿求は…。何て言ってたんだ?」

 紫「…守り通させるそうよ。やっぱり、お家柄の事情には逆らえないわね。それに、前に雇った人が死んじゃったし、幻想郷で強い力を発揮できる貴方は都合が良いわ」

 九月「そんな…」

その時、塀を一匹の妖怪がよじ登ってきた。

 九月「!?」

狼男、そんな姿をしている二足歩行の妖怪、今にも襲い掛かってきそうな形相で、息を荒げながらこちらを睨みつけている。

 紫「じゃ、回答は後でまた聞くわね」

そういうと、紫は自身の足元に、別の空間への入り口のような物を作りだし、その中に入って消えた。

 九月「なんで…。何でなんだあぁー!!!」

走って来る狼の妖怪に対し、刀を抜いて自分も走り距離を詰める。

 九月「うあああ!」

今までの阿求と過ごした数日間と阿求の笑顔が、心の炎に包まれて燃えていく。怒りと悲しみで涙が溢れ目の前が滲む。それでも刀を振り下し、妖怪の片腕を切り落とす。

紫から真実を告げられた九月は、悲しみと怒りの涙を流し妖怪を斬る。九月の運命や如何に。

次回、夢からの守り人『守られる者』



今回からこんな感じで、次回予告を入れてみることにしました。ネタバレになるからダメ。という場合は、感想欄にお願いします。

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