慧音との一戦と敗北
見てくれている人がいるのかはよくわかりませんが、自分の趣味が点々と消えているので、少しだけ投稿スペースが最初に比べて上がっています。趣味が増えたら投稿スペースが落ちるでしょうけど…。
こんなよくわからない小説でも、暇つぶし程度に見てくれれば幸いです。
その後、授業が終わって教員室で聞いた話。慧音は半分獣の妖怪、半分人で、いつもは人の姿で人里の子供達に授業を教えているそうだ。半分妖怪のせいか、寿命が普通の人よりかなり長く、30年も教師として授業を続けられているわけだ。
九月「…その間ずっと姿が変わらないんでしょう?怪しまれたりしないんですか…?」
慧音「心配ない、若作りをしていると周りには言っている」
阿求「でも、そろそろ怪しまれてくる頃じゃないかしら?」
慧音「うーむ、そうだな。それは兎も角。書物以外にも用事があるのか?」
阿求「はい。彼の事です。紹介だけでもしておこうと思いまして。先ほど名乗りましたが、彼が水木 九月さんです。稗田の守り人の九代目です。先代に似て、剣術の腕は中々です」
慧音「ほう…今一冴えない顔をしているが、阿求が言うならそうなんだろう…。九月」
九月「?」
慧音「一つ、手合せ願いたいが…いいか?」
九月「え、突然どうして…」
慧音「阿求の言葉を信用してない訳じゃないが、不思議とお前の力を試したくなった…丁度竹刀も揃ってるし、良いか?」
阿求「九月さん…」
少し心配そうに見つめる阿求と顔を合わせ、自分の中で結論を出す。
九月「あまり怪我をしない程度なら…良いですよ」
慧音「うん、良いだろう。奥へ来い。もちろん阿求も来るだろう?」
阿求「はい」
慧音についていき、軋む廊下を進んでいくと、広い部屋に出た。外の世界で言えば、学校の体育館の半分程の広さだ。隅の押入れから竹刀と頭に被せる分厚い被り物を二つ用意し、渡してきた。
慧音「付け方は、わかるか?流石にわかるよな…」
九月「…蝶々結びですかね?」
慧音「…ああ。そうだな」
準備運動をしてから互いに竹刀を持ち。お互いに向き合う。竹刀を斜めに構え、二人の距離は2mくらいだろうか。
阿求「では…。始め!」
慧音「!でやあー!」
九月「っ!うああ!」
始めの声と共に、女性とは思えない程雄々しく竹刀を振り下ろす慧音。一瞬驚いて動き出すのに遅れた。しかし、後ろに素早く下がり何とか回避する。
が、慧音はその勢いを保ったまま、竹刀を突き出してきた。勢いのあまり、一瞬空気の流れが目に見える程だった。
九月「くぅ…!」
突き出される竹刀に沿って転がるように回転し、慧音の後ろ斜めに回り込み、竹刀を振る。
慧音「!?」
竹刀を、慧音の後頭部に当たるギリギリで止める。
阿求「…」
慧音「…えりゃ!」
九月「痛っ!」
阿求「あっ」
これで終わったと気を緩めた九月に、慧音の重い竹刀のメンが直撃する。
慧音「見てわかるように剣道なんだから、ちゃんと当てなきゃ勝った事にはならないだろ…」
頭の防具を外しながら、呆れた表情で九月を見つめる。
九月「そうですよねー…。でも、最後の動き、自分でもびっくりしました」
慧音「あの、最後に私の後ろ辺りまで回り込んだあれか?確かに動きは凄かったが、今一まぐれだったような気もするがな…」
九月「そっか…何かピンと来たんだけどなぁ」
慧音「おっと、そろそろ午後の授業だな…そろそろ戻らせてもらうよ。生徒達が待ってる」
阿求「はい、お構いなく。私たちもそろそろ帰りましょうか」
九月「うん」
防具を片付け、生徒達や慧音に分かれをつげ、阿求の屋敷に戻る。時間は、丁度午後12時頃だろうか。使用人の方達が、阿求と自分の分の昼食を用意してくれていた。阿求の部屋に戻り、机に向き合って食事をする。
九月「こんな美味しいごちそうを二回も食べられるなんて…夢のようだ。あ、夢だ」
阿求「なら、このまま目が覚めずに、ずっとこの世界に居ますか?」
九月「うーんどうだろう。目が覚めるかどうかは、元の世界の方の自分の意識しだいだからねぇ…」
阿求「そうですよね…。ところで、午後からは書物を書かなくてはいけないんですが、九月さんはどうしますか?」
九月「そうだな~。剣術の練習でもしようかな。中庭借りていいかな?」
阿求「ええ、自由に使っていいですが、木などを傷つけないようにしてくださいね」
九月「わかった」
食事を終え、阿求は机に向かい筆を動かす。自分は広い中庭で、腰に差している刀を振り上げ、力強く振り下ろす。
九月「…刀って重いって聞いてたんだけどなぁ。やっぱりこの世界だとめっちゃ力上がるのかな」
普段の自分なら、数回振っただけでバテてしまいそうなものだが、今なら何十回と振っても平気そうだ。
九月「1!2!3!4!5!」
振りながら回数を数えると、様になってくるが、身体が疲れる気配も無い。
九月「…気合が足りないのかな」
阿求「あ、紙魚が…。この時期は多いから困るんですよね…」
九月「いぃぃちぃー!にぃぃー!!」
阿求「使用人の方に、掃除の方を念入りにしてもらいましょか…」
九月「さああん!!しぃーー!!!」
阿求「大事な書物が使えなくなっては…困りますから」
九月「ごぉぉーー!ろーくぅぅぁあああ!」
阿求「もうちょっと静かにしてください!!」
九月「あ、ゴメンなさい…」
阿求「もう…」(そういえば、私も最近運動不足かな…)
九月「…!」
連続で振ることより、一回一回に全身全霊を込めてしようと考え、息を整えてから刀を全力で振り下ろす。
九月「守りとかもやった方がいいのかな…」
刀での守り。怪鷲のカギ爪は、刀で押し戻すようにしてたけど、結局肩に爪が食い込んでしまったし、どうしたものかと考える。
すると、耳にかすかに少女の声が聞こえた。阿求だろう。けど、部屋からではなく、自分からは見えない屋敷で隠れた中庭にいるんだろうか。何かと奮闘し、頑張っているような声が聞こえる。
九月「行ってみよ」
何をしているのか気になり、そっと陰から見てみると。
阿求「えいっ。えいっ…。はぁ、はぁ…えいっ」
木刀を振り回している。サイズは自分の刀よりも半分程、かなり短いものだったが、阿求からすれば、短くてもかなり重い物なのだろう。数回振っては息を切らし、振っては肩を上げてを繰り返していた。
九月「…何してるの?」
阿求「わっ…九月さん。これは…その、最近体を動かしていなかったので、運動でもしようと思いまして…」
九月「あ、そうなの。邪魔して悪かったね」
阿求「いえいえ、別に邪魔になどなってませんよ」
その後、二人で一緒に素振りを何十回かして、一日の運動は終わった。
月が上り、夜の7時くらいだろうか。夏も終わりかけで、今までのような暑さも薄れてきた夜になった。
阿求「うぅ…腕が痛いです」
九月「大丈夫?解そうか?」
阿求「いいのですか?では、お願いします」
九月「はいよ。…阿求って、何歳くらいなの?」
阿求の右腕を優しくもみ解しながら、聞いてみる。
阿求「突然、女性の年齢を聞くなんて…。失礼ですよ?九月さん」
九月「あ、ゴメン」
阿求「まぁ、言ってしまえば、11歳です」
九月「そうなんだ、まだまだ子供なんだね」
阿求「失礼な、統計すれば100歳なんてとっくに超えてますよ」
九月「転生してるんだったっけ。確かにそうなら。自分の方が子供だね」
そんな会話をしていると、一人の使用人の女性が戸を開けた。
使用人「阿求様、お風呂の湯が沸きましたが、入りますか…って、何をしていらっしゃるんですか?」
九月「え?いや、特におかしなことは」
阿求「腕をマッサージしてくれていただけですよ。気になさらないでください」
使用人「はぁ、そうですか。それで、お風呂はどういたしましょう」
阿求「あ、入ります。九月さんはどうしますか?一応、男性用のお風呂もありますが…」
九月「ああ、じゃあ入らせてもらおうかな」
使用人「では、貴方はこちらへ」
女性の使用人に付いて行き、たどり着いたのは、大きな釜風呂だった。大人5人が入るスペースがあるだろうか、既に牧がくべられ、湯は十分に温かそうだ。
使用人「では、どうぞ。私が火の調節をしておきますので、ごゆっくり」
九月「どうぞって、タオルとかは?」
使用人「タオル…?」
この世界じゃ、タオルは通じないのかな?言い直す。
九月「腰に巻けるような布はありませんか、さすがに貴方の前で全裸というには…」
使用人「あぁ、布ですか」
そそくさと棚から白地のタオル、布を渡してくれた。
そして、いざ釜風呂に身体を浸す。
九月「熱い…けどこれが丁度良い…」
使用人「そうですか…、なら良かったです。熱かったりしたら言ってくださいね」
九月「はい」
使用人「…貴方は、守り人…でしたっけ?」
九月「あ、はい。そうです」
使用人「阿求様から、阿求様を守ってくれる頼もしい人だと聞きましたが…本当でしょうか」
九月「本当かと言われれば、本当としか言えませんね。俺の服の横、刀があるんでしょう?あれで何体か斬っています」
使用人「…」
九月「?」
使用人「彼女…阿求様は、ボロ雑巾のように里の隅で衰弱し、今にも死にそうな所を拾って治療し、使用人として雇ってくれたんです」
九月「貴方、何があったんですか?そんな状況…」
使用人「男絡みの事ですよ…。借金が返せず、里の高利貸しの男につかまり、散々酷い目にあわされました…」
九月「そんな事が…」
使用人「そんな私を雇ってくれたうえに、私の残した借金まで全額引き渡したあの方だけは、自分が死ぬまで恩を返し続けたいんです。だから…」
話しに熱が入ったのか、釜の燃える火を見て、つぅと涙を流す女性に、自分は心打たれた。阿求の優しさと、この人の恩返しの心。今までで、初めて見た絆というものだろうか。
九月(阿求に助けられた…、自分も、阿求がいなかったら、青鬼も倒せなかっただろう…。彼女も阿求に助けられたんだ)
九月「安心してください。阿求は、自分の命に代えても守って見せます。あなたのその思い、自分と同じですから」
使用人「…ありがとうございます」
使用人はさっきよりも大粒の涙を流した。
風呂を上がって、使用人に分かれを告げたあとは、阿求の部屋に戻る。
部屋には既に阿求が机に向かって筆を走らせていた。
阿求「あ、戻ってきた。結構長湯でしたね」
九月「使用人の人と話しててさ、「阿求は絶対に守る」って話」
一瞬だけ真面目な表情をするが、すぐ元に戻して横の襖から布団を取り出す。
九月「そういえば、今夜も妖怪が来るのか…」
阿求「そうですね…」
九月「今の内に、外で待機してるよ」
阿求「わかりました…しっかり守ってくださいね?」
九月「うん。阿求は安心して、寝ててくれ」
縁側に座り、反対側、数十メートル先の塀を見つめる。この庭、阿求の部屋につながっている中庭だけやけに広い。元々、妖怪たちと戦う為にワザと広くしているんだろうか。
…慧音からの信用。使用人との約束。自分の役目…。いろんなもののために、自分は妖怪と戦うんだ。
九月「…来た」
二日ぶりだろうか、塀を一匹の妖怪が、せっせと上ってきた。体中が赤茶色の体毛で覆われ、指先には鋭い爪、大きな一つ目で、人型の妖怪だ。
妖怪「稗田家の守り人か…毎晩夜にこんな所で、暇なものだな」
九月「なーに、仕事に暇も忙しいもないよ」
ゆっくりと歩いてくる妖怪に対し、立ち上がって、鞘に差したままの刀を握る。
妖怪「稗田に味方するような人間は喰うって決めてるんだ。お前も喰わせてもらうぞ…!」
九月「やってみろぉ!」
刀を振り抜き、妖怪の額に直撃させる。妖怪は真っ二つになったが、違和感を感じた。
そうだ、血が一切出ていない。それどころか、傷口が真っ黒で不気味な気を出していた。
妖怪「そんな鈍じゃ死ねないね!」
妖怪はケタケタと高い笑い声を出しながら、裂かれた半分づつの体で、後ろに下がる。そして半分になった身体同士がくっ付き、元に戻る。
九月「どうなってるんだよ…」
妖怪「お前の攻撃は重いし速い。けど、俺だって重いし速いぜ」
妖怪は手を広げ、その上にソフトボールサイズの光の弾を作り出す。
九月「なんだあれは…」
妖怪「ハア!」
妖怪が押し出すように放った光の弾は、凄い速度で飛んできた。避けるか、刀で防ぐか、一瞬だけ迷ってしまい、腹部に直撃した。
九月「グファ!」
速く、重い。自分にぶつかった光の弾は火花を散らしながらはじけ、自分を後ろに吹き飛ばす。
後ろにあった屋根を支える柱にぶつかり、地面に膝をつく。
九月「う…。なんだ今の…」
妖怪「ケケケ…使えた使えた…。ハア!」
不気味な笑いと共に、当たった場所を押さえる。のに精一杯な自分に、もう一発の光の弾が飛んできた。
九月「っ!」
横に倒れながら、ギリギリで光の弾を避ける。光の弾は柱にぶつかり消滅したが、柱には傷一つついてなかった、人にしか効かないものなのだろうか。
倒れると同時に、阿求から貰った短刀、燕返しを、妖怪に向けて抜き投げる。
短刀は光弾程ではないがかなりの速度で妖怪に飛んでいき。妖怪の額に突き刺さる。
妖怪「!?」
刺さった、と思った瞬間、短刀は妖怪を貫通した。刺さったのではな無く、すり抜けたというのうが正しいのだろうか。その後も、短刀は自分の元に戻るまでに、妖怪をすり抜けて戻ってきた。
九月「はぁ、はぁ…短刀も、効かない…!」
妖怪「そろそろ終わりにするぞ」
妖怪は、また光の弾を作り、じりじりと歩み寄ってくる。至近距離で撃って確実に当てるつもりだろうか。
九月「…っ」
立つまではできなかったが、刀を支えに体勢を少しでも戻すして安定させる。
妖怪「ケケケッ!」
ここで、試すしかない。あの時慧音にした回転。まぐれでもあれなら回避しながら攻撃できる。
妖怪が光の弾を構えた瞬間、歯を食いしばりながら立ち上がりると同時に、妖怪と距離を縮め、ぶつかる直前に回転して後ろに回り込む。
妖怪「!?なんだコイツの動き」
九月「うらあー!」
右手に持った刀を下から振り上げ、妖怪の右肩を斬りつける。
そこが弱点だったのか、斬った場所からは鮮血が流れ、妖怪も苦しむ。
妖怪「ぎゃっ!ああああ!畜生、畜生!」
さらにもう一回斬りつけようとしたが、妖怪はすかさず光の弾を作って、自分の心臓付近に当てた。
九月「ぐああ!!」
後ろに1メートル程飛ばされ、刀を放してしまった。
妖怪「くぅ…うぐ…今夜はここまでか…!」
傷口を片手で押さえながら、妖怪は走って塀を飛び越え、逃げる。
九月「く…、待て…うぅ」
あまりの痛みに倒れたまま起き上がれず、ついには気絶してしまった。
次回は、2日後とかに投稿したいです。
妖怪の光弾の前に敗れてしまった九月、彼の結末や如何に。