心意と初めての世界
九月「今回は二体…」
猿の妖怪「キィ!キィ!」
鳥の妖怪「ピィー!」
二体の妖怪は、威嚇するように人には理解できない言葉を発し続ける。
阿求「あの妖怪は化け猿と怪鷲…。弱点は、化け猿は右目、怪鷲は左足です」
九月「わかった!後は任せて、中に隠れててくれ」
襖の隙間から弱点を教えてくれた彼女は、青鬼の時に自分が投げた短刀を渡してくれた。
阿求「貴方の先代が使っていた。飛刀「燕返し」です。垂直に投げる事で、相手を斬って綺麗に鞘に収まるようになっている代物です。使ってください」
九月「ありがとう。存分に使わせてもら…来た!隠れて!」
短刀を受け取った瞬間、二匹の妖怪は一気に距離を縮めてきた。
化け猿「キィキィキィ!!」
九月「かかって来いよ猿!ウラァ!」
振りぬくと同時に化け猿の持つ大きな斧を刀で弾き飛ばす。頭を狙って飛んでくる怪鷲はしゃがんで避け、斧を弾いた衝撃を利用して、飛び去ろうとする怪鷲を刀で斬りつける。
怪鷲「ギィー!」
羽の根本を斬られた怪鷲は、今までとは違う声を出しながら空に上がっていった。
猿も斧が弾かれたのに驚いたようで、後ろに下がる。
九月「結構深く斬ったのに…やっぱり弱点狙わないとダメなのか…」
腰に差した短刀に手を伸ばす。が、タイミングを見極めるために、自分の刀を両手で強く握りしめる。
九月「化け猿はでっかい斧、怪鷲の方は…空を飛べるってだけだが、それでも2体1じゃ厄介だな」
化け猿「キキキィ!」
化け猿が斧を持ち上げ、振り回しながら走ってくる。斧の攻撃が当たる前に上に跳んで、怪鷲を狙う。
怪鷲「ギギッ!」
今までとはまた違う声を出しながら、自分に両足のカギ爪を突き出してくる。
何とか刀を前に出して爪で引っかかれないようにするが、数回も繰り返されると限界がきて、ついに右肩に爪が食い込んできた。
九月「痛!」
怪鷲は自分を掴み、空高く上昇する。
九月(まさか、この高さから落とすのか…!?)
掴まれたまま、今度は地面に急降下しだした、このままじゃ地面に叩きつけられる。そう思っていると、地上で化け猿が斧を構えていた。
地面に落ちた瞬間に、あの斧で真っ二つにするというのだろうか。
九月「…今だ!」
腰に差した短刀を掴み、化け猿に投げつける。斧を振るより速い速度の燕返しは、化け猿の右目に刺さった。
化け猿「ギャッ!?ギャギャギャギャ!!」
右目に刺さった短刀を引く抜こうと斧を落とし、地面をのたうち回る化け猿は消滅し、短刀は自分の持っている鞘に収まりに飛んで戻ってくる。
九月「便利な刀だぜ…!」
怪鷲「ピィー!」
もうすぐで地面にぶつかってしまう。右手に持つ刀で、自分の肩を掴む左足を突き刺し、切断する。
怪鷲「ピギギ!」
甲高い断末魔と共に怪鷲は消え、地面に叩きつけられる前になんとか着地することができた。
九月「ふぅ、イテテ…あの爪痛いなぁもう」
刀を鞘におさめ、阿求が隠れた部屋に入る。
九月「阿求、妖怪は倒したよ…もう大丈夫」
阿求「うぅ…いつも以上に怖かったですよ。貴方が来る前に雇った用心棒が無残に食べられてしまいますし、二匹とも強そうでしたし」
九月「そう?強かったかといえば、猿の方は斧がヤケに堅かったし、鳥の方は爪が痛かったけど、何とか倒せたよ」
阿求「肩の傷って、その鳥の」
九月「うん。あと、この短刀凄い役にたったよ。ありがとう」
阿求「それは良かったのですが、手当をなさらないと…まっててください」
部屋の隅から救急箱を持ってきた阿求は、前のように服を脱がせ、傷薬を塗ってくれた。
阿求「随分深い傷ですけど、大丈夫ですか?」
九月「薬がしみるけど大丈夫だよ。阿求が手当してくれてるんだ。これくらいすぐ治るよ」
阿求「そう、ですか…」
どことなく、嬉しそうな声で返事をしてくれた阿求を不思議がりながら、治療は終わった。
阿求が用意してくれていた布団にもぐり、阿求と会話する
九月「やっぱり、こっちの世界に来ると体が軽くなるんだよね。ビックリするほどジャンプできるし、重い筈の刀だって片手で振り回せちゃうんだ」
阿求「やっぱり、先代の方々が力を貸してくれているのでしょうか。でも、そこまで強くなれるとも思えませんが…」
九月「不思議だねぇ」
阿求「あの…」
九月「?、何?」
阿求「突然で、申し訳ないのですが…一緒に寝てもいいでしょうか?」
九月「え、また何で急に?」
阿求「用心棒の方が妖怪に負けた所を思い出してしまって…」
九月「あぁ、怖かったんだね」
小さくうなずく阿求の布団と自分の布団を合わせ、枕を近づけて、一緒の毛布で温まる。
阿求「ありがとうございます…」
九月「…」
阿求「…」
何も喋る事が無く、月明かりの沈黙が何か会話をしろと急かしているように感じる。
阿求「九月さんは、怖くないんですか?あんな妖怪達を相手に喰われてしまうかもしれないのに…」
九月「…怖いよ。青鬼と戦った時も、1回殴られただけなのに。泣くなんて程じゃないくらい痛くて、本当に夢なのかって思ったよ。でも…阿求が襲われてるの見たら苦しいって思うより、こう…「助けなきゃ」って気がして。怖いってより守ろうって思うんだよね。怖いけど、それ以上に別の気持ちの方が大きい」
阿求「…」
九月「倒すんじゃなくて、守りたい…。この世界での自分の役目はそうだし、阿求が死んだら、自分が殺したも同じだ。だから、阿求だけは絶対に守る」
阿求「ありがとうございます…、嬉しいです」
阿求の言葉を最後に、意識がうっすらと遠のいていく。目が覚める時のような感覚だった。
阿求「九月さん、起きてください。もう朝ですよ~」
九月「…ん。あ、おはよ…って、なんで元の世界に戻れてないんだろう」
阿求「確かに、今までとは違いますね」
今までなら、妖怪を倒してしばらくすると元の世界に戻れていた。なのに今回は向こうの世界だけでなく、この世界でも寝れてしまっている。
阿求「それより、今日は出かける用事があるのですが、ついてきてくれませんか?」
九月「出掛けるって、何処に?」
阿求「貴方に合わせたい人がいるのですが、丁度その人に届けものをしようと思ってまして」
九月「別に問題はないけど、荷物運びの途中で俺が元の世界にもどっちゃったら、荷物は誰が運ぶの?」
阿求「それは大丈夫ですよ、多少重くても、私だけでも運べそうですから」
九月「あ、そうなんだ」
阿求「その前に…朝食にしましょうか」
阿求がおぼんに乗せて持ってきれくれた朝食は、見るからに美味しそうな匂いと色をした和食だった。
九月・阿求「頂きます」
手を合わせ、この世界で初めての食事に手を付ける。
九月「…美味しい」
阿求「そうですか、私も作った甲斐がありましたよ」
九月「え?これ阿求が作ったの?」
阿求「はい、九月さんの分だけは私が料理しました」
九月「そうか~、何か嬉しいな~」
阿求「九月さんは、私の命の恩人ですからね。これからもよろしくお願いします」
九月「おう」
朝食を終えた後は、別の服に着替え、荷物を持って阿求と外に出た。荷物といっても、風呂敷に四角の紙束のような物が入っているだけで、そこまで重くは無い。
そして、初めて見る幻想郷と呼ばれる世界の景色は、感動するほど綺麗なものだった。
九月「凄い…まるで昔の日本みたいだ。山もあんなに大きいのが並んでるし、不思議な世界だなぁ」
阿求「外から来られた方は、だいたいそんな反応をしてくれるんですよね」
九月「え?俺以外にも、外から来る人がいるの?」
阿求「えぇ、幻想入りといって、何かしらのはずみで幻想郷に迷い込んでしまう人が度々…」
阿求と雑談しながら、しばらく大通りを歩いていると、阿求が足を止め、少し大きな建物の中に入ろうとした。
九月「ここが目的地?」
阿求「はい、そうです。届け物を渡す人がこの奥に居る筈なので、ついてきてください」
阿求に言われるままついていくと、子供の元気な声が聞こえてきた。
九月「ここは何なんだ?」
阿求「寺子屋ですね。ここの子供たちの教師をしている人に渡す物です」
九月「先生か…」
九月(そういえば、今頃、元の世界で自分はどうなっているんだろうか、ここに居るってことは寝てるってことだから、学校の遅刻は確実だな…お母さん起こしてくれてないんだろうか)
少し古ぼけた廊下を進み、木製の戸を阿求が軽く叩く。
阿求「すみません。入りますよー」
?「あぁ、丁度良いところに、入ってくれ」
阿求「失礼します」
九月「あの人は…」
薄い水色の長い髪。四角い特徴的な帽子、少し高めの背の、いかにも真面目そうな女性が子供に勉強を教えいた。
阿求「この人里で一番信用できる方です。九月さん、挨拶してください」
九月「あ、はい…。始めまして、水木 九月です」
慧音「私は上白沢慧音だ。よろしく」
手を伸ばしてきたので、それに応じて握手する。
子供たちは、初めて見る自分をもの珍しそうに見ていた。
阿求「今日は、頼まれていた教材を持ってきました」
慧音「おぉそうだ。今からそれを使おうとしてたんだ、運が良かったよ」
九月「上白沢さんは、教師なんですよね。長いんですか?」
慧音「そうだな…かれこれ30年はしているかな」
九月「30年!?」
やっと少しは東方らしくなってきました。
書いている途中で、「これ東方の二次小説である必要ないんじゃないか?」と思う事が何度かあったのですが、別のキャラを出していけば、多少はまともに見えるかなと思っています。