返信
そう、いつも思い出すのは、空港でのクルミとの別れだった。ふとした場面で、彼女の真っ直ぐな瞳を思い出す。
高校を卒業したタカシとクルミ、クルミは大学進学、タカシは イタリアへ修業に旅立つ。
クルミから毎日決まってメールが届く。
毎朝、タカシは日課になっていた。クルミのメールを見て目覚める。
クルミのメールは元気いっぱいだ。というか、妙なテンションの高さだ。
クルミのメールは大抵、日付や曜日が入っている。
何か確認するように、今日は何日だとか、今日は何の日だとか書かれている。
「今日は冒険家の日だよ~
植村直己がマッキンリー単独登頂に成功し、
世界五大陸最高峰の征服を成し遂げました。」
ふ~ん。としか言いようがないじゃん……
「植村直己さんは最後に登った山で行方不明のままなんだって
死んじゃったのかな?
もしかしてUFOにさらわれちゃったのかもね?」
おいおい、それはないだろう……
「この前テレビで、
震災の津波で家族全員を失ったお父さんの話をしててね、
家族のうち、末っ子の男の子だけが行方不明なんだってね。
そのお父さんは、休みの時によく捜索に行くらしいんだけど、
その子はわざと見つからないでいるんじゃないかって、
もし、見つかっちゃったら、お父さんが生きる気力を失くしてしまうから、
だからその子は、ずっと、かくれんぼしてるって、
そのお父さんはそんなこと言ってた。
早く見つけてやりたいけど……って、お父さん泣いてた。
もしかしたら、UFOとかじゃなくても、
どこかの国に漂流して生きてるとか。
可能性は0じゃないと思うんだよね。」
タカシはそんなクルミのメールに、返す言葉もなくなった。
「私が死んだら、パパ悲しむよね
行方不明になるのと、どっちがいいのかな?
タカシだったら、どっちの方が悲しい?」
「そんな変なこと考えるなよ!」
タカシは、いつも妙なテンションのクルミが心配になる。
遠距離になって、電話もせず、メールだけなので、
本当の気持ちや、どんな表情なのか、分からないことがもどかしい。
そして、タカシのメールに対してクルミの返信はない。
次の日、また何事もなかったように、元気な文章で始まる。
そんなやり取りが続いていた。