表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

出会いと別れ

そう、いつも思い出すのは、空港でのクルミとの別れだった。ふとした場面で、彼女の真っ直ぐな瞳を思い出す。


高校を卒業したタカシとクルミ、クルミは大学進学、タカシは イタリアへ修業に旅立つ。


クルミと連絡が途絶えてから何日か過ぎた。

大学で知り合った男と付き合っているのだろうか?

タカシはやはり、クルミの心変わりを確信するのだが、

その反面、クルミへの気持ちが大きかった事に気づきはじめていた。


クルミとの出会いを思い出す。

5年前、中学2年生の時だ。

私立の中高一貫校に通っていた2人。

タカシは入学当初サッカー部に入っていた。

この学校を受験した理由も、サッカーをしたかったからだ。

しかし、厳しい練習と、自分の素質のなさを感じたタカシは

1年でサッカー部を退部してしまう。


何か他の部活動をやらなければならなかったので、

仕方がなく入ったのがクルミとサキのいる美術部だった。


どうせ、ゆるい部活だし、幽霊部員でいいと思っていたタカシ。

実はタカシは同じ学校にいながらそれまでクルミの事を知らなかった。


タカシが美術部に入部したときのクルミに対する印象は

「こんな子、うちの学校にいたっけ?」

だったのである。


クルミの従妹のサキはタカシと同じクラスだったが、二人が従妹同士だった事は後で知った。

美術部の2年生はタカシを入れると全部で4人。もう一人、ケンタがいたのだが、

彼こそ絵に描いたような幽霊部員だった。


そして、なぜか、美術部員同士は苗字ではなく名前で呼び合っていたのである。

「私とサキも名前で呼んでね、タカシ」

クルミは初対面でも馴れ馴れしかった。

タカシは「なんだこいつ」と思いつつも、なんかクルミ達のペースに巻き込まれていく。


入部してすぐ、期末テストがあった。

タカシとサキのクラスの数学担当の先生は、かなり年配の先生で、とにかくわかり辛かった。

それに引き替えクルミのクラスの担当は、20代の男性教師でとても元気で、ノートも取りやすかったようである。

クルミはサキに、ノートをいつも貸していたようで、タカシにもコピーをくれた。


「タカシ、テストに出そうなところもまとめてあるから、あげるね」


そんな事、頼んでもいないので「まったくおせっかいな女だなあ」と言わんばかりなタカシの顔を見たクルミは


「あ、美術部員の平均点が悪いと顧問に目をつけられて、部活が厳しくなるからね」


そんな訳で、普段はダラダラとした部活だったが、テスト前は勉強会などもあって

みんなで教えあったりしたものだった。


そして、クルミはタカシの絵も絶賛していた。


「すごいねタカシ、なんでそんな細かく描けるの?」


大げさに褒めるクルミに対し、タカシは素直に喜べなかった。

緻密に描ける事は長所でもあり、短所でもあったからだ。


いつもクルミは楽しそうだった、学校が大好き、みんなが大好き、部活も大好き。

「好き」と「楽しい」を連呼していたのだ。

タカシは、そんなクルミをどこか冷めた目で見ていたが、これまた徐々にそのテンションの高さに巻き込まれていく。


文化祭では、2年全員で壁画を描こうと言い出すクルミ。2年はたったの4人で、さらに1人は完全なる幽霊部員。

突拍子もない案に巻き込まれて、遅くまで残って描きあげた。

サッカーをやっていたタカシではあるが、運動のそれとは違い、

みんなで協力して形あるものを作り出す達成感を味あわせてくれたのもクルミだ。



そんなこんなを、タカシは今さら思い出す。

もっとクルミと向き合って、伝えればよかった。

自分の思いや、クルミへの感謝の気持ちを伝えればよかった。


しかし、もう遅い。あっけなく心変わりしてしまったクルミに、今さら何を伝えよう。


サキに相談しようかと思うが、それも情けないし、女々しいだけだ。


もう「後の祭り」なのである。




そんな事を繰り返し思いながら、イタリアでの毎日が過ぎていく。

帰宅するタカシ。今日は携帯電話を部屋に忘れたまま出かけた。

椅子の上に置きっぱなしの携帯を取り、メールをチェックする。

今日もメールは来なかった。

しかし、着信履歴が残っている。

クルミからだ。出国するときに、クルミと約束をした。

「電話はしない」と、クルミから言い出した事だ。

タカシはすぐに電話をかけようとするが、日本は真夜中なので躊躇する。

見れば、留守番電話にメッセージが残っていると表示がある。

再生してみる。


クルミの泣きそうな声が聞こえる。


「タカシ、ごめん。

私、、、もう少し頑張れると思ったんだけど

無理だったみたい。

こめんね。

電話もしないって約束したのに。

でも、留守番電話でよかった。

ほんとは最後に声が聞きたかったけど、、、

タカシの声を聞いたら多分、私、、、

ごめんね、今までありがとう」



留守番電話はそこまでだった。

強がっていたクルミも、実は寂しかったのだろうか?

女の子らしいと言えば女の子らしい。

タカシはクルミのお別れの言葉を、冷静に感じ取っていた。

そして、見知らぬ男と仲良くしているクルミの姿が目に浮かんだ。



そして、数週間が過ぎたある日突然、何事もなかったようなメールがクルミから届く。

「おはよう!タカシ!元気?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ