もしも
そう、いつも思い出すのは、空港でのクルミとの別れだった。ふとした場面で、彼女の真っ直ぐな瞳を思い出す。
高校を卒業した、タカシとクルミ、クルミは大学進学、タカシは イタリアへ修業に旅立つ。
「おはよう」
くるみからの定時連絡。
「こんばんわ」
日本ではもう夕方なので、
あえてタカシは「こんばんわ」にしてみた。
「うん、まだ明るいよ~
最近漫画本にはまってるんだ
ドラえもん」
ドラえもんって、、、小学生か、、、
「なんかね、あらためて読むと面白いのね、昔の漫画ってさ
ブラックジャックとか
スラムダンクも読み返してる」
どんだけ、暇なんだ???こっちは、寝る暇もないのに。
「でね、小学生の頃さ、
もしも、ドラえもんの道具が手に入るとしたら何がいい?
って質問しなかった?
タカシは何が欲しい?
ドコでもドア以外で」
タカシはとっさに「ドコでもドア」を想像していたので、はっとなる。
クルミに見透かされていたのだ。
「四次元ポケット」
考えるのもめんどくさいので、お決まりの答えを送る。
「ぷっ、小学生か?」
逆に同じツッコミをされて、苦笑するタカシ。
「タイムマシン GET!」
と共にタイムマシンのフィギュアの画像がクルミから送られて来た。
どうやら、何かの景品のようだ。
「近所の子供にもらったんだ~
いいでしょ」
「別に欲しくもなんともないぞ」
「未来へはこれから行けると思うし、想像もできる気がするんだけど、
私は過去に行ってみたいな。
おばあちゃんと、もっともっと話したかった」
タカシはクルミの祖母が亡くなった時の事を思い出す。
中3の時、2人は同じクラスだった。入学してから1日も休まなかったクルミが突然学校を休んだ。
ぽつんと空いた机を鮮明に覚えている。先生が、クルミの家の訃報を教えてくれた。
週末をはさんだので、お葬式も全て終わり、月曜日にはいつものようにクルミは登校した。
タカシは気の利いた事を言おうと考えていたのだが、どうしても思い浮かばず、
何事もなかったように接してしまった。
それを後悔していたけれど、中学生だったから何ができる訳でもなく、仕方がないものだとも思った。
元気なクルミしか覚えていないが、おばあちゃんが亡くなって随分泣いたんだろう。
今になってから、やっと想像できる。
当時は、「なんだいつものように元気じゃないか」なんて思っていた。
そういえば、クルミが泣いている姿をほとんど見た事がない。1度だけだ。
進路で悩んでいる時期だった。タカシは誰に相談もせず勝手にイタリア行きを決め、逆にクルミは悩んでいた。
そんなクルミに
「将来の安定とか考えなくてもいいから、自分が好きなことを、やればいいじゃん」
と言ってしまった。
タカシとしては、良かれと思っていたアドバイスだったが、クルミにとっては、つけ放されたようで
「なんで、そんな他人行儀な言い方するの?」
と泣き出した。そう、1度だけクルミを泣かしてしまった。
そんな回想をしながらタカシは
「クルミのおばあちゃん、俺もよく覚えているよ」
と書き始めた時、先にクルミからメールが来る。
「アルバイトね、ケーキ屋さんにしたんだ」
相談しておいて結局、勝手に決めたんだ、、、
「ケーキ食いすぎて豚になるぞ!」
「ブーブー」
行ってきます。
メールにはせずにタカシはつぶやいた。