旅立ち
大切な友人や家族をどうしたら、応援できるだろう。
相手の気持ちになって考えるにはどうしたらよいのだろう。
どうやったら伝わるのだろう。
メールや手紙は後に残ります。
その時の気持ちも真実ですが、
時が経過した今の気持ちも真実です。
伝えたい事
伝えられない事
嘘でも真実
そんな気持ちを描きたいですね。
高校を卒業し、勢いでイタリアへ渡ってしまったタカシ。
予想以上に毎日が慌ただしく過ぎていく。
いつも思い出すのは、空港での彼女との別れだった。
「タカシ、おじけづいた?」
いつものように、くったくない笑顔で、冗談めいた口調のクルミ。
中学からの腐れ縁でいつの間にか二人は付き合っていた。
中高一貫校で卒業まで同じ美術部、タカシは美術品の修復師を目指し、単身イタリアへ修行へ行く。
「なっ!お前こそ!
寂しくて泣くなよ」
いつも二人はこんなやり取りだ。肝心な事は言わずにはぐらかす。似たもの同士なんだろう。
そんな二人の良き理解者でクルミの従姉妹のサキが、もどかしそうに二人をみつめる。
二人と言うより、サキはクルミをじっと見ている。
そして、沈黙が続いても、クルミはタカシをじっと見ている。
あまりにもクルミがじろじろ見ているので
「ん?なんだよ、
顔になんか付いてる?」
「うん、首んとこ、
ちっちゃいホクロがあったんだあ」
タカシはDVDで見たトムクルーズのバニラスカイを思い出して
「このホクロに生まれ変わりたい?」
「う〜ん、ホクロはヤダな〜……」
あの映画のタイトルみたいな空を見るクルミ。
「バンザイとかしよっか?」
「いらん」
「胴上げとか?」
「二人でできるか!」
「その辺の人に頼めば
ノリでやってくれるかもよ」
「オイオイ」
そんな二人のやりとりに黙っていたサキが震えるような声で
「わ、私、なんか飲み物買ってくるね」
走りかけたサキの手をクルミはぎゅっと握って離さない。
そう言えばさっきから、二人が手をつないでいた事にタカシは気づく。
サキは諦めたようにため息をつきながら
「あ〜イライラする!もうチューとかギュウとかすればいいじゃん」
サキはクルミをタカシの方へ突き離す。
どうやら、タカシも恥ずかしいと言うより、どうしたらいいのかとまどっている様子。
「電話するよ」
「ううん、しない」
「へ?」
「声聞くと、会いたくなるから
絶対電話しない」
「んじゃメールする」
「うん、それなら許す」
「まあ、半年ぐらいしたら
一時帰国するからさ」
「はあ?そんな気持ちで行くん?
一人前になるまでは帰って来ないぐらいの意気込みがなきゃ、
夢なんてつかめないよ」
クルミのお説教が始まった。タカシもこれ以上反論したら、喧嘩になることが分かっているので
「わかった、ものになるまで帰らない」
「よし!」
クルミはタカシの胸を元気よく叩く。
「じゃ、そろそろ行くわ」
「うん、頑張ってね、タカシ」
タカシは軽く敬礼をして搭乗口へと歩き出す。
二人は黙って見送る。
タカシは振り返る事なく歩くが、もう見えなくなるギリギリで、そっと振り返る。
すると、サキが下を向いて泣いている、クルミの方が笑顔で、どうやらサキを慰めているみたいだ。
「なんでサキが泣くんだ?」
妙な風景にタカシは
「お前ら、もしやレズ?」
とつぶやく。
「ってボケても
誰もツッコミ入れないか、……」