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00.ルーツ

処女作です。

 俺はガラの悪い輩に頻繁に絡まれてしまう。奴等は揃いに揃って俺の目付きが気に食わない……なんて、理不尽な理由で俺に突っ掛かってくる。別に俺は睨んでるとか、相手の癇に障るマネはしてないつもりだ。ああ…悪そうな人が歩いてるなぁ、程度に見ているだけなんだが、俺の場合それだけで絡まれる十分な理由になってしまう。



 俺の目付きの悪さは他の誰よりも俺が理解している。

 鏡の前に立てば、瞳の半分が瞼に隠れ、半円型に見える少年の姿が映る。目元には薄いクマがあり、捉えようでは睨んでる様に見えなくもない。っていうか睨んでる様にしか見えない。突っ掛かりたくなる気持ちに激しく共感できる。



 そんな不便な目付きを幼き日より惜しみなく発揮していた俺は、目が合えば絡まれ続ける毎日。喧嘩など日常茶飯事。正直、目付きだけでこんな目に遭うなんておかしいと思う。

 しかし、そんな理不尽な生活を強いられた甲斐もあり、俺の腕っ節は相当強くなった。正確には強くなってしまった。別に好んで喧嘩をするわけではない俺にとって、いくら強くなったところで嬉しくもなんともない。むしろ強くなるのを噛み締める度に目頭が熱くなる。



 目付きが悪けりゃ喧嘩も強え。そんなとんでもない奴は学校でも一目置かれる。目を合わせれば相手は震え上がり、上の学年の生徒までもが敬語で話す始末。友人もまともにできず、俺の青春は喧嘩オンリー。良く暴れ良く学ぶ毎日を俺は望んでいません。なんていうか、悲惨だった。



「はぁ…」



 帰りの電車待ち、駅のホームで嘆息する。今更自分の目付きを考察しても虚しいだけ。やめよう。



『まもなく、二番線に―――』



 丁度電車も来た。帰って寝よう。今日も地元の工業高校に通う不良に絡まれて、最近握力も付いてきたからアイアンクローを試したところを俺の学校の生徒に目撃され、瞬く間にアイアンクローが学校中に広がってしまった。散々だ。こんな日は帰って寝てしまいたい。

 喧嘩したって泣きべそかいたって明日になったら忘れるさ、なんてスプラピでスプラッパみたいな奇跡が起きてくれれば万事解決なのにな。しかしリアルはそう甘くはない。



「きゃあああああああああああ!!!!」



 ホーム中を女性の悲鳴が劈く。振り返れば悲鳴を上げる女性の下の線路上には泣きじゃくる幼い男の子が。何かの拍子で落ちてしまったのか、そんな事情は見ていない俺には知り得ないが今はそれころじゃない。

 男の子の乗っかる線路は二番線。先ほど到着のアナウンスが流れたばかりで、目ではっきりと確認できる所まで電車は迫っていた。

 女性の悲鳴をきっかけにホームはパニックの渦に豹変する。

 同じく悲鳴を上げるもの、オロオロするもの、不安げな表情で見守るもの。共通するのは誰一人助けたいと思っていながら具体的な行動を取らない。いや、実際パニックに陥れば何をすれば良いかわからなくなるものだ。その上、勇猛果敢に電車が迫る線路に飛び込んで男の子を助けるなんて普通出来っこない。この唐突な状況に立ち会っていた目撃者に、何故行動しなかったと責める権利はきっと誰にもない。完全なる事故だからだ。

 だからって、死んで良い命があるわけねえって。



「くそ!!」



 気が付けば、走っていた。向かい来る電車と対向して走っているため、電車との距離がグングン縮まる。



「間に合えええええええ!!!!」



 線路に飛び降り、男の子を反対車線に突き飛ばす。なんとか間に合ったかと安堵する矢先に、













――――俺は電車に引きずられた。





■■■■■


□□□□


■■■


□□




「うっ…」



 突然のこと。視界が歪む。

 ああ、例の発作か……。



 病室のベッドで読書をしていた私は、天性より難病を患っていた。自身の命が長くないことも知っていた。思い残す事と言えば、誰かのためになれなかったこと。

 両親には病気の事で心配と迷惑をかけっぱなし。何かしたかったけれど、病気のせいで動くこともままならない。私を生んで今まで生かしてくれた親にさえ恩返しできない、そう考えると胸がキュっと締まる。



 なんで私は病気を持っているのだろう。何度も一人で問う。



 これが運命なら神様は不公平だな。




 意識が朦朧としてくる。


 ハッピーエンドを迎えた小説が乱暴に床に落ちる。一方の私は、ハッピーエンドを迎えられそうにないかな。



「三島さん、頼まれてた本、取ってきまし―――三島さん!?」



 検温に来た看護婦さんが私に駈け寄る。急いで担当医と連絡を取っているみたいだけど、もう何て言ってるのすらわからない。なんだか、眠たい。


 数分も経たずに担当医が私のもとに現れ、色々と措置を施してくれている。

 でも今はひたすら眠たい。だから、寝てもいいよね。



 明日また頑張るから。最近加わった新しい薬、たくさんあって覚えづらいけど、頑張って覚えるから。全然追いつかない勉強も、頑張るから。

 どうか笑ってください。私のために悲しくならないでください。

 そしたら私もきっと、笑えるから。








――――――――――また明日。


 ピーーーーーーーーーーー。


「十月九日、十四時七分。死亡を確認しました」

短くてすみません。


誤字、脱字、その他のご指摘ありましたらご指摘よろしくお願いします。

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