3
唐錦
「この道、さっきも通らなかった?」
歩き出してから30分ほどたった頃、先輩が言った。当たり前だ。せっかくの先輩との二人きり。やすやすと終わらせてたまるものか。
「気のせいじゃないですか?」
それでも、先輩が気付いてしまったので、通常の帰路に進路変更した。コンビニから私の家までは普通なら10分で着く。でもそれじゃ物足りない。どうしても聞きたいことがあったからだ。
少し息切れ気味に歩く先輩を横目に見る。ちょっと疲れたような顔もかっこいい。
家までの直線を二人は黙って歩く。良い雰囲気だ。私は決意して口を開いた。
「あの、先輩は……」
「うわ!!」
私の言葉を遮ったのは、先輩の悲鳴と、犬の鳴き声だった。
見ると、私たちのすぐ横、民家の門の向こうから大きな犬が唸り声を上げていた。格子が無ければ今にも飛び掛ってきそうな気迫だ。先輩はそれを見ながら竦んでいる。
「大丈夫ですか?」
私の声に、先輩はハッとしたようにつばを飲んだ。
「ごめん……俺、犬は駄目なんだよ……」
なるほど。先輩は犬が嫌い、と。私は頭の中にメモを取った。またひとつ先輩について詳しくなった。
「すいません。この犬、いつもこうなんです。行きましょう」
私の言葉に頷くと、先輩は私と歩き出す。
結局、私は何も言えずまま、家の近くまで送ってもらうだけとなった。
翌日、片手にタッパーを持って私は家を出た。中身は冷蔵庫に入っていた肉に特製のタレを加えたものだ。それを持って、近くの民家の前に行く。門の向こうでは、いつも通り大きな犬が唸り声をあげている。
私はタッパーのフタを開けると犬の前に差し出した。肉の香りに、犬は唸り声をやめて甘い声を上げる。律儀なものだ。
私は肉をつまむと、門の格子の隙間から投げ入れる。犬は待っていましたとばかりに食らいついき、勢いよくたいらげた。私はそれを確認すると学校へ向かった。
学校ではまた先輩に声をかけられなかった。先輩は学校では人気者で、周りには常に人がいる。私にはそこへ割って入る勇気がなかった。
授業が終わり、いつも通り一人で家路に着く。 今日はバイトは休み。先輩に会えないのはとても残念だが仕方ない。
帰宅途中、今朝、肉を与えた犬のいる民家を門越しにこっそりと覗き込んだ。門の向こうでは、犬小屋の前で、動かない犬の前でうなだれている家主の姿があった。私は目を凝らして犬を見る。呼吸はしていない。どうやら特製のタレが効いたらしい。
私はその光景に満足すると、家に向かった。




