1
唐錦
初めて先輩に会ったのは2ヶ月前。町中で見知らぬ人たちに絡まれている私を先輩は颯爽と救ってくれた。倒れる不埒者を後に、先輩は名前も告げずに去っていった。
私は確信した。この人こそ、私の運命の人。
先輩が同じ高校に通っていると知ったのはそれから少しあとだった。運命の成せる業である。
二年の彼は友達も多く、成績も優秀。スポーツ万能、容姿端麗。まさに非の打ち所の無い人物だった。私の運命の人なのだから当然である。
そして私は、彼が同じ町のコンビニでアルバイトをしていることを突き止めた。私はその日のうちに履歴書を書き上げ、面接に向かい、見事採用。晴れて先輩の同僚になれたのである。
「はじめまして」
私は耳を疑った。バイト初日、先輩はにこやかに言った。ふらりと眩暈を起こしそうになる私に、先輩は心配そうに手を延ばした。私はその手に思わずしゃぶりつきそうになるのをこらえる。
「私のこと、覚えてませんか?」
先輩は少し考える。
「前に会ったっけ?」
なんということだ。先輩が私のことを覚えていない。あんなに運命的な出会いを果たしたというのに。まさか記憶喪失? 先輩の身に一体何が……。でも大丈夫。きっと全部思い出すはず。私たちならどんなことだって乗り越えられる。なにせ私たちは運命で結ばれているのだから!
その日は先輩に一通りの仕事内容を教わって帰宅した。もっとも、となりの先輩の匂いを嗅ぐことに精一杯で、教わった内容はあまり頭に入っていないが。
私はベッドの中で、バイト中にこっそり拝借した先輩の髪の毛を指先でもてあそぶ。自然と笑みがこぼれた。私はそれを慎重に小型のガラスケースに入れると、布団にもぐった。




