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ラビットホール  作者: 茉白
7番目に入ります。
3/6

2.誰ですか

「俺に着いてきて」

分かったと言った奴は立ち上がり、マントかコートか判らない異国風の衣装を叩いた。

わたしも奴に倣い、草と土を叩く。

同時に一応女子なので身だしなみとしてスカートの皺を伸ばした。

「早く、お嬢さん。お昼になる前に町に着きたいからね」

奴を見てみるともう歩き始めていた。

わたしを待つ気はないらしい。

少し駆け足で追い付く。

「てゆうかお嬢さんって何ですか」

意外にも歩調はわたしには少し速い程度で、合わせてくれてるようだ。

私達は順調にさくさくと草を踏み潰していく。

「知らない女の子をお嬢さんと呼ぶのは礼儀でしょ」

そんなの初めて聞いた。

「男性は?」

「男は無粋な生き物だからね。敬称なんて美少年にしかつかないよ」

「あなたがどんな人間か凄く解りました」

「はっはっは」

見た目と第一印象とは違ってフェミニストの気でもあるのだろうか。

顔だけ見れば、女の子に見えるこの容姿でくさい台詞というものを吐かれたら…うん。

言いそうだ。

そして決していい気はしない。

「あとさ」

「何ですか」

こちらを一瞥して続ける。

覗いた顔はフードと前髪で口元しか見えなかった。

「何で堅いの?」

「初対面に敬語は付き物ですよ」

「堅すぎじゃない?」

堅すぎというのは違う。

それがわたしの、一般市民による極当たり前な常識だ。

「外して欲しいんですか?

わたし口悪いですよ」

「大体予想ついたから大丈夫」

何が大丈夫なんだか。

こんな下らない会話を続けて数十分たっただろうか。

しかし歩いても歩いてもまるで町は見えなかった。

方角は合ってるのだろうか。

疑心暗鬼がむくむくと膨らんでいく。

やっぱりこいつを頼ったのは間違いだったかもしれない。

睨み付ける様に奴の灰色の衣服を見ていると、奴がいきなり足を止めた。

「どうかしたか?」

どうかしたかの、したかくらいで振り返った奴は少しだけ真面目な顔をしていた。

「名前きいてない」

暫く反応出来なかった。

漸く「は……」と返事のような物をした時漸く事態を飲み込めた。

そして大したこと無いことだった。

奴はわたしが黙ったのを何を勘違いしたのか、「これも何かの縁だし、やっぱり名前って知ってて損なことってないじゃん、ね」と、焦りながら言い募っていた。

簡潔に言えば名前を聞かれただけのことだ。

それをわざわざ真顔で聞くのか分からない。奴を理解なんてしたくもないが。

「夏川弥唖。あんたは」

ほぼ初対面であんた呼ばわりするわたしもわたしだ。

「みあ?なかなか個性的な名前だね」

奴は「いい名前だよ」やら「あだ名はみーちゃんだね」やらと一人で、ニコニコしながら肯定するように小さく首をふった。わたしはそれを遮るように「あんたの感想はきいてない」と直ぐ様奴の話の腰を折った。

「あんたの名前をきいてるんだけど」

「弥唖ちゃんつれないね」

奴は口元に笑みを浮かべ、困ったように眉を下げた。そして笑って「墜栗花

螢太だよ」と言った。

「ついり……?」

「そう。難しいよ?墜ちる栗の花って書くんだもん。いつもみんな読めなくて困ってた」

あははと笑い、またいきなり前へ振り返ってさくさく進んでいく。

それを追いかけようとしたら、何がぐにりと踏んだ気がした。

「え?」

「どうしたの?」

足元を見ると、それは蛙だった。勿論死んでないし。

しかし奇妙なのはその色だった。

「……ピンク」

ショッキングピンクの蛙はピクリとも動かなかった。

触ってみたいけど毒でもあった場合が面倒だ。そしていかにも毒が有りそうなフォルムである。

墜栗花もいつの間にか隣に来ていて「珍しいやつだ」と呟いていた。

「動かないな」

墜栗花がピクリと身動ぎした。

「ぎゅ?!」

急に右腕を引っ張られて、右に倒れそうになった。

その時、「早く踏んで」という少しだけ焦った声が隣から聞こえてくる。

「早く!」

そしてわたしは蛙の上を跳んだ。

そこからの記憶は一切ないのだが、その時微かに怪しい音楽と「さ……」という艶かしい声が聞こえた気がした。




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