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ダートトライアル

ダートトライアルは、荒れた路面をジムカーナの様な形式で走行する競技で、ダートジムカーナと呼ばれることもありますが、どちらにしてもレースと違い、マイナーなモータースポーツであることには変わりないと思います。

バイクのモトクロスコースを共用する所が多く、JAFが主催する競技がほとんどで、A又はBライセンスが必要です。


16 ダートトライアル


僕の前に並んだのは、僕の乗っているKPを譲ってくれたドライバーだった。

今回が新車での、最初の走行だそうだ。わざわざマシンから降りてきて、僕の方に来てくれた。

「こんちわ、元気そうだね、君が乗ってくれるといいなと思ってたよ。僕も今日、あのマシンで初めてなんだ・・・熟成してる分、三崎君が手強いよ・・・お手柔らかに」

「何言ってるんですか、いいマシンに仕上がってそうで・・・シリーズ一位キープは凄いですね、和田さんの走り、じっくり拝見させていただきますよ」


気さくな和田さんの言葉で、少し緊張が解れた。

「ああ・・・さっきD工業の宣伝部長が、君について聞いてきたから・・・あとで声掛けられるかもしれないぜ・・・」

「え?D工業・・・」

「そう・・・今度ラリーだけじゃなくて、スピード競技にもワークス出すらしいよ・・・来年卒業だろ?多分スカウトだぜ、良いところ、見せてやりなよ」

「・・・」

「・・・無理もない、プレッシャーになったかな、でも君ならこれをバネに頑張ると思ってさ、頑張れよ」

「・・・ありがとうございます」


僕は、心配そうに見ていた恵子に目をやった。手を振って笑うが、ヘルメット越しにそれが伝わったかどうか・・・。


そうするうち、最初から3台目までの招待ドライバーがスタートし、出走順が迫ってきた。

いよいよ、マイナーチェンジして角目になった和田さんのKPが、オーラを放ってスタートした。


スタート直後の第一コーナーまで一速で引っ張り、サイドブレーキターンで、左90度にスッと向きを変え、長いストレートを一気に飛んでいった。

途中で軽くジャンプして、180度ターンのヘアピン遥か手前から綺麗なドリフトアングルで進入して行った・・・。


和田さんの走りに見惚れているうち、スタートラインの案内を受け、僕は緊張しながらラインの上に前輪を合わせた。


シグナルが点灯し始め、それに合わせてアクセルを煽る。

3・2・1・・・スタート。

和田さんの走りが焼きついて、体が自然にそのまま、コピーされたようにマシンを飛ばした。


・・・速い。

このサーキットを、こんなに気持ちよく走れるなんて・・・。

ヘアピンの手前、ヒールアンドトゥで3速から減速しながらブレーキングドリフトする。

クリッピングポイントを少し手前で向きを変えてしまい、僅かに失速したが、それでかえって緊張が解れ、S字に向かって全開・・・。

ここは得意なポイント。

マシンが綺麗に踊って、S字出口に向かった。

次は、このサーキットで一番ギャラリーが賑わうバンク。

硬く締まったここを高速で抜けて、ゴール前の低速テクニカルポイント。

ここも得意。順調にポールぎりぎりにかすめ、ゴールした・・・。


マシンを戻して降りると、土井と恵子、仲間とラーメン屋さんのオーナーが迎えてくれた。

1分38秒55・・・和田さんに2秒弱遅れたがまずまず、最初にしては速いか・・・自己満足、微妙な周囲の雰囲気。

このクラスは出走が多いので暫く結果待ちだが、上位が殆ど走ってしまった後の結果は、暫定五番手・・・自分では、いいところにつけた、と思った。


ナンバー付き車両のBクラスが終了して、土井の出場するCクラスが始まった。


トラックを改造したトランスポーターから、すでにKPと同じニューデザインのカラーリングに変えた、少し前まで乗っていたセリカが降りていて、所沢用に低めに構えた姿が勇ましい。


走行中の音も大きくなり、ギャラリーも楽しめるクラスだ。

綺麗なマシンがサーキットを踊り、土井はCⅡクラスの3番手につけた。順調だ。

トップは奥川ワークスの27レビンで、車も綺麗だしセンスも抜群。

ドライバーの鶴川さんはルックスも良く、スターのような存在だ。


お昼になって、恵子がメンバー分のお弁当を用意してくれたらしく、チームの人たちが集まって、みんなで食べた。


午後はタイムの遅かった場所を研究して、どうにかタイムアップをしたいと思って空気圧を見たり、土井とマシンを微妙に調整し、午後もスタートが最初のクラスなので出走順にマシンを並べた。


第二走行は通常、路面が荒れてタイムアップが難しい。

僕も例外ではないけれど、このサーキットで練習もせず、さっきの初めて走った感覚としては、二回目は最初よりタイムアップしたいと思い、気合を入れスタートした。

和田さんは相変わらず順調に飛ばす。チャンピオンの貫禄十分という感じ。

僕はヘアピンの進入方法をフェイントでドリフトする和田さんと同じ方法で入っていった。

長い横向きのままのコントロールは初めてだが、軽いマシンで、その上スピードが乗っていて整地された走り始めのスタート順のお陰で、ゼロカウンターで滑りながら、バンクの上で見ていた仲間と恵子の姿が小さく浮かんだ。

・・・そうだ、D工業・・・スカウトされれば、就職と同時にモータースポーツも続けられる・・・勿論、土井のショップも名が売れる・・・恵子との生活も安泰だろう・・・頑張ろう!

僕はヘアピンのクリッピングをサイドブレーキでピタリと合わせ、半周廻ったときにはすでに直線に向かってアクセルを全開にした。


1分37秒08・・・和田さんは一回目がベストで、僕は暫定二位につけたが、その後走った人が1分37秒03を出し、僕はクラス三位を得た。


ショップオーナーの土井も、一回目のタイムが生きてクラス三位を得、初めて二クラス入賞を獲得出来て、チームは今季最高成績のイベントだった。


表彰式で、僕は小さな三位のトロフィーを貰い、それを恵子に渡した。ギャラリーの拍手と指笛を聞きながら、恵子は優勝したかのように、その小さなトロフィーを持って手を高く上げて振ると、和田さんも一緒に手をとって振り上げてくれ、大きな拍手が沸いた。

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