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夏休みのできごと

実はここで、7月から10月まで、一気に話が飛んでいきます。

二人でアルバイトをして、就活、秋のイベントなど、色々話が飛んできますが、あと、この章を含めて確か3章で、この小説は学生編として終わります。


執筆したのが数年前なので、よく覚えていないのですが、終盤ストーリーを変えようと思い、尻窄みになってしまった記憶があります・・・


15、夏休みの出来事


7月、僕は学生生活最後になる夏休みの前半、運送店で中元期の配達をしていた。

恵子は毎日、運送店の事務所で、伝票の処理や入荷した荷物の整理で忙しく働いていた。

夜が遅くなる繁忙期は恵子も残業が多く、送って行くついでに恵子の家に泊まり、一緒に翌日、出勤する事が多かった。


二人の事は直ぐに運送会社に広まって、知られた仲になったが、それを羨む同じアルバイトの女の子も多かったらしく、恵子は毎晩、帰りの車の中でそれを僕に喋っては、溜まったものを吐き出していた。

「恵子さ、しょうがないよ。中にはアルバイト中に相手を見つけるのが目的の子も多いからさ、特に夏はバイトが前半で終わってしまうセンターの仕分けの子なんか、もう2~3日で暇になるから、半分くらいは来なくなる」

「次郎も・・・見つけた人、っていうか声掛けられた人はいるの・・・?」

「え?・・・」

「ああ・・・いたんだね、当たり前だよね。いいよ・・・別に。今はあたし、こうしてしっかり次郎、掴まえてるから・・・少し、気になっただけ・・・」


そうした日々が過ぎて、二人は殆ど中元期も終わりまで働き、8月も過ぎて、僕は9月に入って、大学の友人である小森君の長野の実家に卒業旅行として、他の友人と僕の3人で行くことになって、少しの間だが恵子とは離れていた。


9月も半ば、大学にまた通学し始めた頃だろうか、恵子がいつもとは少し違う、思い詰った表情で、恵子の部屋で二人きりになったベッドの上で、小さな声で僕に喋り始めた。

「次郎?・・・きっと、びっくりすると思って・・・言えなかった。確信がなかったし」

僕は、恵子が何を言うのか、想像もつかなかった。

なにより、こんな暗い恵子を見るのは初めてだった。


「もうすぐ・・・生理なの・・・というか先月から・・・無いの・・・今月はもう来ても不思議じゃないの・・・それで・・・次郎が旅行に行ってる間、お母さんにも一緒に行ってもらって・・・病院・・・2ヶ月過ぎだって。赤ちゃんが・・・あたしの中に居るの」

急な事で、僕は夢の中で恵子が喋っているのかと思い、窓を見たり頬に手を当てたり、部屋を落ち着き無く、檻に入った動物園の動物が往復しているような動きをしていた。


「うん・・・ちょっと待って・・・今、動揺してるから」

暫く考えた。・・・これをバネに就職について本腰入れて取り組んではどうか・・・土井には悪いが今年一杯でチームのレギュラーからも外れよう。

僕は何かないと、頑張れない。多分、はっきりした目的もなく就活するよりは、よい結果がでるだろう。

大学に合格した時にも、その時に居た、宏美のお陰だったと思っている。


恵子は俯いて、ベッドに座ったまま、動かなかった。

「・・・大丈夫だよ、恵子・・・絶対とは言えないけど・・・それと恵子は就職できないかもしれないね・・・でも卒業は出来るはず。・・・籍も直ぐじゃないけど親父と相談して、なるべく早いうちに返事するから・・・」


「僕は就職の面接でも、決まった人がいて結婚する、って言って、まだはっきり見えないけど良い会社見つけるよ、マイナス評価しない会社が必ず、あるはずだよ」

恵子は顔を上げ、涙を浮かべて僕を見た。

「・・・嬉しい・・・次郎がだめだ、って言っても、あたし、生むつもりだったんだよ・・・良かった・・・よかったね・・・」

恵子はそう言って、自分の腹をそっと撫でて、僕を引き寄せてその手を恵子の腹に当てた。

「・・・あなたの・・・お父さん・・・わかるよね」


僕は二人の住まいとして、取り敢えずここに住む事を恵子のお母さんと決め、恵子もそれが母親の元で、安心して出産できるだろう、ということで一致した。


一気に就職と結婚が現実に迫ってきて、次郎の生活は今までとは全く変わっていった。

友達付き合いも減ってしまった。でも、みんな祝福してくれる。

今までとは違う周囲の対応に戸惑いながらも、嬉しかった。


そして迎えた10月。

次郎は最後のシリーズ戦を、ニューマシンを携えて出場することになった。

僕は多用な合間を縫ってトヨタKP61スターレットを、村山貯水池の砂利道に夜な夜な持ち込み、挙動の癖を掴んでいった。

時には土井をナビシートに迎え、僕のドライビングに合わせ、マシンをセッティングして行った。


排気量クラスが下がったとは思えないマックスアベレージで、ドリフトアングルを決めてコーナリングするKPを、何度も煮詰めて行った。


「・・・三崎、行けそうだぜ・・・速い」

「うん・・・気持ちいい・・・」

「最後だ、バッチリ決めようぜ」

「おう・・・頑張るよ」


出場者リストのB-1クラスに、僕の名前が入った事はすぐさま噂に広がり、TTSCの評判を決める大事な試合となった。


そして迎えた10月10日。

所沢サーキットに、新しくデザインしたTTSCカラーのスターレットを、注目を浴びながらエントラントスペースに、持ち込んだ。

シングルゼッケンの7番。縁起の良い出場番号だった。


恵子は、隣のラーメン屋さんのオーナーと一緒に、僕の乗っていたギャランで応援に来てくれた。


「次郎の試合見るの・・・最初で最後になっちゃった・・・ごめんね」


僕はそういう恵子の頬に、グローブを付けたまま触れ、引き寄せてキスした。

バケットシートのフルハーネスシートベルトを締めると、フルフェースのヘルメットを被り、第一走行のグリッドに並んだ。

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