テイクオフ
恵子は、次第にサーフィンの魅力が分かってきます。
文章で、波乗りの様子が伝わるかどうかは分からないのですが、多くの人が経験する、波に乗れるまでの過程を、書いたつもりです…(^^ゞ
14 テイクオフ
何度か恵子は僕と一緒に波に入って戯れたあと、海から上がってサンドイッチの入ったランチボックスを開け、海を見ながら、それを少しづつ食べた。
今までのマックの軽い食事とは違って、何かとても充実した昼食になった。
午後になって、少し波が上がってきた。
「波乗り、面白そうかい?」
「うん!食べたら自分で漕いで乗ってみたいな・・・」
「そうだね、あそこの人たちも今やってるね・・・あ!・・・ああ・・・」
「自分で漕いで波をつかむの、難しいの?」
「そうだね・・・タイミングだから、あのひと今遅かったんだよね、波が来た時にある程度ボードが進んでて、ふわっと浮いたらもっと一生懸命漕ぐんだね・・・」
「・・・あたし、ちょっとやって来る!」
「まあまあ・・・もっと食べたら?」
「次郎、此処で見てて!直ぐ戻ってくるから、悪いところ教えてね」
恵子は波乗りの魅力に次第にとりつかれていったようで、食べるとすぐに海に向かっていった。
ポジションについて腹ばいになり、波が見えてパドルをするが前に進まない。波は恵子を通過して恵子を置いていってしまう。何度かするうち、恵子ががっかりして戻ってきた。
「何がいけないの?次郎・・・」
僕は笑って答えた。
「ああ、最初から上手く乗れたらみんな上級者だよね・・・」
「ちょっと難しいから面白いんだよ、今日で何処まで出来るか、出来た事が成長だよね、今日はさ、あとは背が立つところに居るんだから、ボードを体の右側に置いて、そのボードを右手で押さえて持ってね、波が来たら押しながら飛び乗る練習してみようよ、僕が見本見せるから良く見ててね」
僕は恵子と腰の辺りまで入れるところまで行き、僕は波が来て殆ど同時にボードを押し出し、ボードに飛び乗りそのまま滑って陸に進んだ。
戻って恵子に言う。
「どう?出来そうかな?」
「うん、やってみる・・・」
恵子は波を掴んだが、前のめりに潜ってしまいひっくり返った。
恵子の髪がずぶ濡れになって、僕のところに戻ってきた。
「なんか急にスピードが出たら先が潜って行って・・・ゴボゴボーーって潜っちゃった」
「うんうん・・・大丈夫だった?水飲まなかったかい?」
僕は一生懸命どうにかしたい恵子が可愛くて、びしょ濡れの頭をそっと僕の胸につけて撫でていた。
「そうだね、動き出してスピードが出た時は波を掴んだ時なんだよね、そしたら前にある重みを後ろに移動するんだけどね、僕の時は未だ体が小さい小学生だったから、直ぐ体を反らせて同時に立ち上がれたけど、恵子は出来るだけ体を反らして、出来ればボードの上に正座するような感じでやってみればいいと思う、解かるかい?」
「・・・。」
恵子は説明ではわからない様だったので、僕はもう一度ポジションからテイクオフして反り、正座して陸に向かった。途中でバランスを崩しそのままボードから滑り落ちた。
僕は笑って恵子を見た。恵子は笑って拍手していた。
「出来るかなぁ・・・」
「とにかくやってごらん・・・立ち上がっちゃってもOKだから・・・」
恵子は再びボードを持って波に蹴りだし波を掴んだ。今度は同時に体を反らし、そのまま陸に向かった。
手を振り、にっこり笑って僕を見た。
「・・・乗れたね!その調子だ!」
「今度は少し立ってみようかな・・・」
恵子は嬉しそうだったので、もう一度乗れるのを確認したら立つか座ってみるかするように言い、陸に上がった。
何度か波を掴み、潜ってしまったり成功したりを繰り返し、成功率が上がってきてところで突然、立ち上がったが滑り落ちた。
僕を見て笑っていたので手を上げて拍手した。そのまま陸に上がるかと思ったらまた波に向かって行ってしまった。
少し疲れた様子だったので上がるように手を振って、恵子を陸に上げた。
「恵子頑張るなぁ・・・疲れたでしょ?少し休まないと」
「うん、なんか面白くて・・・」
「そう、それは良かった。でも焦らずゆっくりやろうよ、恵子は急ぎすぎ、あの時もさ」
「ああ、そうね、でも・・・」
恵子はふうっ・・・っと息をつき肩の力を抜いた。
「あはは・・・冗談だよ恵子?ね」
僕の胸に自然と顔を近づける恵子を、手を背中に廻し、体を寄せていた。
この時すでに恵子の体には、僕と恵子の新しい生命が宿りつつある事など、今は知る術もなかった。