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アルフェ大陸物語

王子様は私の番!絵里の恋愛ファンタジー。何度でも転生して見せますわ。

掲載日:2026/07/26

 赤ん坊に出来ることは少ない。

 食べて眠ることを繰り返すだけ。


 だから私が前世を思い出したのは2歳半くらい。

 お隣の塁君の姿を見た時だ。


 お隣の雨宮さんのところの塁くんと絵里は同じ頃に生まれたから、予防注射だなんだかんだと一緒に行動することも多かった。


 けれど、兄に連れられて庭先にやって来た塁君を見た時、私はあの瞬間を思い出したのだ。

 お日様が沈みかけて、その光が塁君の顔に光を投げかける。


「王子、カール王子」


 私は思わず叫んでいた。

 残念なことに幼児だから思うように発声できない。


「おーじ かーゆおーじ」そう聞こえたろう。


 塁君の兄の海斗が大笑いをして言った。


「塁が王子だって?もしかして絵里ちゃんは塁が好きなの?」


 私は大きく頷いた。きっとカール王子と結婚するためにこの世界に転生したに違いないから。

 海斗は馬鹿みたいにぽかんとしている。

 海斗なんかに構っていられるものか。


 私は塁をぎゅっと抱きしめた。

「カール、結婚しましょう」


 塁も残念なことにぽかんとしている。

 記憶がないのかしら。番である私が求婚したというのに。


 思い出したくない辛い記憶。

 私は王宮の庭に引きだされ、公開処刑された。

 あの鋭いムチのヒュンという音も、背中の焼け付く痛みも覚えている。

 でもあの時、私の頭にあったのは、番を見つけた喜びだった。

 カール王子は夕日に照らされて、無表情に私を見ていた。

 丁度、今みたいに。


 私は番を見つけた驚愕を顔に張り付けたまま、死んでしまった。

 殺されてしまった。

 まだ、たった5歳だったのに。


 でもそんなことはどうでも良い。

 私の番がここにいる。それで十分だ。


 それから毎日、私はお隣に通って塁に愛を伝えた。

 それはもう恒例行事のようになって、大人達は微笑ましいなんて言っていたけど。


「塁、ちゃんと教えて。わたしの事どう思っているの?」


 私達は小学6年生になっていた。

 塁は海斗から自分と同じ学校の中学を受験するように勧められている。

 もし塁が私学にいくなら、私だって受験しなければならないのだ。


 厳しい受験戦争に、6年から参入するという暴挙をする前に、塁の気持ちを知りたいと思うのは当然だろう。


 塁は言葉を探すように目を泳がせている。

 まさか、まさか。

 私がこんなに愛しているのに。

 伝わらなかったの?

 無駄だったの?

 せっかく転生してまで出会えたのに。


 塁はしばらく言葉を探していたが、やがてこう言ったのだ。


「今夜、僕の家に来て。父さんと母さんの話を聞いて欲しい。

 僕の返事はその時、ちゃんとする。

 構わないよね?」


 塁はいつもの塁とは全く違っていた。

 人に命令するのに慣れているように、自分の言葉に従うのが当然のようにそう言った。

 勿論私は頷いた。


 驚いたことに塁君のお母さんから、私の母に連絡が入った。

 受験について絵里ちゃんとお話したいから、今夜は家に泊めますと。

 両親は喜んで承諾した。

 海斗が通う学校は名門の進学校だ。娘が受験するなら万々歳だ。


 私はそれから生きた心地がしなかった。

 両親まで出てくるほど私が嫌いなのかしら。

 毎日好きだって言ったから、うざいと思われたのかな。

 今夜引導を渡されるのかも?


 好きなのに。

 それだけなのに。

 ぽとり、ぽとりと涙が落ちる。

 ひっく、ひっく。

 気づいたら私は、大声で泣いていた。


 母が飛んできて抱きしめながら理由を尋ねた。


「きらわれた、きっと。迷惑っていわれるの。どうしよう。

 すきなのがいけないのかな?嫌われちゃったよー」


 お母さんは、私の頭を撫でながら、ゆっくりと言った。


「大丈夫よ。雨宮さんは、わざわざ子供を呼び出してそんな意地悪を言う人たちじゃないわ。

 安心して行って来なさい。

 断わられてもいないのに泣くことないでしょう?」


 それでも恐る恐る雨宮さんの家に行ったら、応接間には塁くんと海斗。

 お父さんの健斗さん、お母さんの沙羅さんがいた。


「絵里ちゃん、あなたの前世の記憶を聞きたいの。

 あるんでしょう?前世の記憶が」


 いきなりでびっくりしたけれど、雨宮一家はとても真剣な顏をしていたから、

 私は素直に話してしまった。

 前世、私はローゼンベルグ伯爵家の二女だった。

 王宮で粗相をして伯爵家は没落、母と私は処刑された。

 簡単に言えばそれだけの話。


 はなし終わったら塁が話始めた。


「僕は、その国の王子だった。エリーゼが処刑されるのを見ていたのに、番だと気がつかなかった。

 ごめんね。エリーゼ」


「カール王子、私を番と認めてくれるのですか?」


 塁君、いやカール王子はくすりと笑った。


「だって君は僕の番じゃないか?違うの?」


「いいえ、違いません。嬉しいです」


 私は今度は嬉しくて泣いてしまった。

 カール王子はひょいと私を膝に横抱きにして言った。


「泣き虫なんだね。僕の番は」


 そう言って涙を吸ったから、私は驚いて泣き止んでしまった。


「なーに、今度は顔が真っ赤だ。面白い子だね」


 な、な、なんか壮絶に色気があるんですけど。

 私がハクハクと何も言えないでいると海斗兄さんが助けてくれた。


「ストップ、ストップ。まだ小学生だからな」


 海斗兄さんが私をまたソファーに座らせると、塁は舌打ちした。


「海斗の言う通りだ。自重しなさい。塁」


 塁は素直に頷いた。


 そして自分の話をしたのだが、カール王子もそれから1年もたたずに死んだらしい。

 何と両親を殺して、最後に返り討ちにあったとか。

 何をやっているんだ。カール王子は!


「次に私の話を聞いてくれる?」

 沙羅さんはそう言ってはなし始めた。


「私はルーンフェル王国のサトリの森に住む聖女だったの。

 双子の姉が黒龍さまの番でね。

 黒龍さまが姉を迎えに来た時、思わず一緒に連れて行って!と黒龍さまにしがみついてしまったの。

 馬鹿よねぇ。

 龍が番以外に関心を持つわけないのに。

 当然のように黒龍さまは私を振り払い、私はこの世界に落ちて来た」


「僕はね。丁度、別荘の近くの湖で絵を書いていたんだ」


 健斗さんが沙羅さんの話を引き取って続けた。


「サラは美しい金髪と青い目の少女だった。

 いきなり辺りに白光が広がって、その真ん中にサラがいたんだ」


 沙羅さんはその時に隠蔽魔法を解いた。

 そうしたら、確かに沙羅さんは金髪で青い瞳をしていた。

 健斗さんが、その時にサラが着ていたという服も見せてくれた。

 真っ白な美しい巫女みたいな服だった。


「どうして、そんな話を今私に?」


「家族になるのでしょう?それに健斗と海斗以外は転生者と転移者みたいだし

 お互いに知っていた方がいいと思ったの」


「でもまぁ、親父も俺も平凡で良かったよなぁ」


 海斗はそう言ったけれど、それがフラグとなって海斗も平凡とは言えない人生を歩むことになるのだけれど、今はそれはおいて置く。


「私は魔法を使えないけど、カール王子はどうですか?」


 つい、丁寧語になって聞いてしまったけど、カール王子は私の頭を撫でてくれた。


「普通に喋りなよ。もう王子じゃないんだし。恋人同士だろう?

 僕も魔法は使えない。多分黒龍さまの加護じゃないかな?

 母さんの隠蔽はさ」


 確かにいきなり次元を越えて捨てたのだから、それぐらいの加護は与えたかも。

 私たちはカールの意見に賛同した。



 それじゃ、固いお話はおわり。

 夕食にしましょう。

 私たちは本当の家族の様にのんびりすごしたが、海斗兄さんはスパルタだった。


 そのまま受験勉強に突入したのだ。


 翌朝、心配そうなお母さんにどうだったか聞かれた。


「海斗兄さんから、スパルタ受験勉強させられてた」


 そう言うと母さんはにっこりと頷いたが、途中で気がついてしまった。


「海斗くんを。お兄さんと呼ぶということは、もしかして?」


「うん、両想いになった。大人になったら結婚する」


 そうしたら、新聞を読んでいた父さんがバサリと新聞を落としてしまった。


「いいか、まだ早いからな。そんなことは大人になってからだなぁ」


 言い募ろうとした父さんを母さんが止めてくれた。


「朝食は済ませたのでしょう。早く支度しなさい。塁君が迎えにきているわよ」


 いつもは私が迎えに行っていたのに、きょうは塁が迎えにきた。

 ちょっぴりくすぐったい気分で絵里は急いで学校に行く準備をした。


 それからは毎晩、塁と受験勉強をした。

 海斗兄さんがしっかり教えてくれたから、二人とも塾には行かなかった。

 塾に行ったら、きっと他の人を見て自信を失っていたと思う。


 中学受験は3年まえには始めているものだし、それが6年生になってからなんて、間に合うとは思えない。


 けれど毎晩塁の家に通えるから、受験勉強はとても楽しみだった。

 もしも塁が合格して私が不合格だったらと思うと胃が痛くなったけど。

 だからものすごく勉強した。


 塾には所属していなかったけれど、夏期講習には参加したし、模擬テストも受ける。

 夏休み期間は、講習がないときはずっと図書館に通い詰めていた。

 皆が勉強している場所なら、絶対にさぼれない。


 トイレには、年表を張ったし、睡眠学習用の音声も吹き込んで、ループで流したりした。

 それがどれだけ役に立つかはわからないけれど、やれることは全部やりたかった。


 秋からは、母さんの大島紬の着物を着て勉強した。

 部屋着だと眠くなったら、寝てしまう。

 けれど着物はそうはいかない。帯を外さないと眠れない。


 それに帯は背中をしゃんとしてくれるし、大島紬も大切な母さんの着物だと思うから、だらけた格好は出来なかった。

 しゃんと背中を伸ばして勉強すると、はかどるような気がする。


 塁はとても賢い。天才かもしれない。

 それに引き換え、私はお世辞にも賢いとは言えなかった。

 塁の隣にいるためには、ひたすら努力するしかなかったのだ。


 塁と勉強している時は、塁が優しい顔で私を褒めてくれる。


「頑張り屋さんだねぇ、絵里は。

 大丈夫だよ。もし不合格なら、僕も地元の学校に通うから。

 絵里は気楽な気持ちで受験すればいいよ」


「甘やかさないで、塁。

 塁の足をひっぱりたくないの。

 私は自分が塁の隣に相応しい人になりたいのよ」


 塁はクスクス笑った。


「おバカだねぇ。絵里は。僕を信じられないの?

 僕は絵里を大好きなのに」


「だって、信じているけれど。でも」


「じゃぁ、頑張っている絵里にご褒美をあげよう」


 そう言って塁は私の額にキスをした。

 真っ赤になった私の唇を指でそっとなぞると


「本当のキスは合格したらね」


 そういうと、もう一度塁の指が私の唇をなぞっていく。


 ここにキスをするぞ!

 そう宣告されたようで、私の唇はキスもされていないのにジンジンと痺れてしまった。

 本当にキスされたらどうなってしまうのかしら?


 それから時々、私は無意識に自分の唇をなぞる癖がついてしまった。

 困ったとき、苦しいとき、そっと自分の唇に触れると、なんだか頑張れる気がするのだ。


 そうして私達は二人とも合格した。

 勿論、塁は約束の御褒美を私にくれた。

 ゆっくりと、一度、二度、三度。

 私が、ぼうっとしていると、そっと抱きかかえて、耳元で囁いた。


「ご褒美、どうだった?」


「嬉しかった」


「そう、なら良かった」


「もっと欲しい?」


 私がこくんと頷いた時、海斗兄さんが入ってきた。

 塁のお膝にいる私を見つけると海斗はすぐに私を回収した。


「海斗!約束したろう?結婚までお預けだ。わかったな!」


 塁はうんざりしたように頷いた。


「分かっているさ、親父と約束したからな。

 何もしちゃいないさ。ちょっと遊んだだけだ」


「ちょっと遊ぶのも無しだ。絵里ちゃんはうぶなのだからな」


「了解!」


「ただし、絵里は俺のものだ。

 俺は絵里と結ばれる。

 約束だからな、絵里」


 塁はそういうと、パチンと私にウインクしてから出ていった。


「全く塁の奴。いいか絵里ちゃん。塁に騙されるな!

 分かったな。」


 私は慌てて頷いた。

 塁に騙されたことなんてないのにね。


 それから海斗兄さんと塁と私はいつも一緒に登校していた。


 あの日までは。


 いつものように学園までの道は登校する生徒で溢れていた。


「キャァー!」凄い悲鳴が後ろからして、大きなナイフを持った男がナイフを振り回しながらやってくる。


 何人か切りつけられて蹲っているのが見える。


 私は棒立ちになってしまった。

 驚いて足が動かない。

 その時海斗兄さんが、男に向かっていく。


「危ない!」


 私は思わず、海斗兄さんを庇うように動いた。

 次の瞬間、私のお腹から、血がドクドクと溢れだした。

 刺されてしまった!

 私はお腹を押さえたけれど、どんどん血が流れて行く。


 塁が犯人に飛び掛かって、首を締め上げているのが見える。

 番を刺されて激高したのだ。

 次の瞬間、苦し紛れのナイフが塁に突き刺さったのが見えた。


 見えたのは、そこまでだった。

 私は心の中で誓っていた。

 大丈夫よカール。

 私は必ず、あなたの所にいくわ。

 何度生まれ変わっても、きっとあなたと結ばれる。

 だからカール、待っていてね。

 約束よ。や・く・そ・く

読んで頂きありがとうございました。

絵里の前世は「生贄予定のモブですがなぜか神龍さまの番になりました」

絵里の次の転生先は「皇子さまは今日も最弱娘に振り回される」

に登場します。

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