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悪役令嬢に転生したけど、魂と身体の相性が最悪ですぐ吐血します

作者: 三來



 私の死因は、特大のくしゃみだった……と思う。



「へっくしゅ!!」


 その瞬間に視界がホワイトアウトし、次にブラックアウトした。


 脳の血管でも切れたのか。

 そこまでは覚えているが、その後のことはさっぱりだ。



 でも、どうやら私は死んだらしい、と思うぐらいには奇妙な場所にいた。


 自分の身体の感覚がない。夢よりも鮮明で、なのに、ぬるま湯に浸かっているような妙な気分だ。


 そんな中でふわふわしていると、頭上──あるいは深淵の彼方から、話し声が聞こえてきた。



「あー、やっべ。進捗みてなかった。間違えて魂だけ先に輪廻に流しちゃったわ。中身空っぽじゃん」


「うわ、マジですか先輩」



 なんか、軽いノリでとんでもないこと言ってない??


 そう思いながら、続く会話に耳を澄ませる。



「いくら処刑ルートだからって……。時間止めるのも限界あるし……このままだとこの世界、重要人物不在で崩壊しますよ??」


「どうすっかなー。……仕方ないし、別の魂いれとくか。ほら、ちょうど良さげなのあるし」


「え?? いやそれ、さっきくしゃみで死んだ別世界の魂ですよ?? コードが全然違いますって。無理やり入れたらエラーが起きちまう」



 なんか。嫌な予感がする。



「って言っても、今コイツの魂が消えちまったら世界ごと消えるぞ?? 背に腹は代えられねーって」


「いやぁ……そうは言ってもですねぇ……」



 おい、ちょっと待て。


 くしゃみで死んだ魂って私のことじゃないのか。

 ってことは、私の魂を処刑ルート真っ只中の誰かの身体に入れようとしてるってことじゃ……



「えーい、ままよ!! とりあえずつっこんどけ!!」


「ああっ先輩!! そんな乱暴な──」



 そして、会話が途切れた瞬間。


 私はズボッと、強引に排水口へ吸い込まれるような感覚に襲われた。


 こうして、二度目の死に向かって、私は転生をすることになったのである。





 何かに入れられた様な感覚の後、私は、閉じられていた目を開いた。



「コーデリア!! 貴様のミアに対する度重なる嫌がらせ、もはや看過できん!!」



 きらびやかなシャンデリアの下、張り上げられた声が響き渡る。



 声を上げた相手の顔。服装。


 私たちを囲う、周囲の貴族たち。その景色。



 全てに見覚えがあった。


 死ぬ前に私がプレイしていた『ラバーズ・コンチェルト』の登場人物たちなのだ。



 きっと、今はゲームの断罪シーンだろう。



 先ほどの聞いた会話から察するに……なるほど。どうやら、さっきの適当な神様のせいで、性悪令嬢コーデリアの身体に押し込まれたらしい。



 このゲームは、悪役令嬢への「ざまぁ」に極振りされていた。


 確認すると状況は最悪だった。


 ゲームヒロインの聖女であるミアは、王太子の背中で震えている。


 と言うことは、王太子ルートに入っているはず。


 となると、本当に処刑待ったなしなのだ。


 王太子ルートの場合、この後すぐにコーデリアは、聖女ミアを呪おうとして失敗し、処刑されてしまうのだから。


 

 だけど、私の心は意外と冷静だった。


 要するに、呪わなければいいはず。


 粛々と断罪を受け入れて、一番マシな修道院ルートにしてしまえば生き残れるはず!!



 私はそう考え、行動に移すことにした。

 

 見よう見まねのカーテシーをしながら、謝罪の言葉を口にしようとした、その時だった。



「つつしんで、お詫び……っ」



 ズグンと全身に走る、強烈な拒絶反応。


 肉体の内側から全力で壁を蹴飛ばしたような衝撃。



 何これ、痛い。痛すぎる!!



 サイズ違いの靴に無理やり押し込んだような圧迫感。

 そして、性能の足りないマシンで最新のゲームを起動したような処理落ち感。



 そんな感じたこともないような激流を身体に感じた後、それは私の口から噴き出た。



「……っ、ぶぇっほぉっ!!?」



 真っ赤な血だ。



 視界に入った鮮血に、私はあの会話を思い出していた。



「コードが全然違いますって。無理やり入れたらエラーが起きちまう」



 絶対、これだ。

 それにしても、エラーの内容が致命的すぎる。


 私の吹き出した血は、美しい弧を描いて王太子の磨き上げられた革靴を赤く染めた。



「なっ……!?」


 王太子の顔が引きつり、会場が静まり返る。


 やばい、汚してしまった。謝らなくちゃ。


 私はハンカチを取り出そうとするが、その「動こうとする意志」がさらなるエラーを引き起こしたらしい。



「も、申し訳、な……ごふっ、げぼぉっ!!」



 吐血、二射目。


 今度はヒロイン、ミアの純白のドレスの裾にスプラッシュした。



「きゃああああっ!?」

「コ、コーデリア!? お前……」



 王太子が言葉を続けようとするが、私の様子を見て言葉を詰まらせた。



 無理もない。



 今の私は、狡猾で高飛車で無血のコーデリアとはまるで違う。リットル単位で血液を垂れ流す鮮血のポンプになってしまっているのだ。



「どうした!! 毒か!?」



 そう言って、青ざめた顔をする王太子。



 ちがう。毒なんかでは無い。


 が、弁明しようと口を開けば血が出る。


 誰かが冤罪の容疑をかけられては可哀想だと、精一杯首を振った。その遠心力で血しぶきが飛ぶが、今は許して欲しい。



「毒では無い……では、そんな、まさか……」



 王太子の表情が、動揺へと変わっていく。



「まさかコーデリア、貴様……病をおして、この場に?」



 ちがーーーーーう!!



 必死で否定しようと口を開いたが、またもやごぼぁっ!! と血が吹き出た。



「なんてことだ……。ミアへの嫌がらせも、病による苦痛の裏返しだったとでも言うのか……??」



 いや、それは元々のコーデリアの性格が悪かっただけだ。


 私はそれに対しても必死で首を振ろうとした。けれど、意識の限界が来てしまった。



 立つのも難しくなった私を、急いで王太子が支えてくる。


 その様子に、周囲の貴族たちのヒソヒソ話のトーンが変わった。


 もはや断罪どころの空気ではない。



「コーデリア、しっかりしろ! ! 魔導師団!! 造血魔法を急げ!!」


「はっ!!」



 王太子の叫びに呼応し、控えていた宮廷魔導師たちが一斉に杖を私に向けた。



 魔法によって、足りなかった血液が強制的に生成され、送り込まれていくのを感じる。



 血が足りず寒さを感じていた身体が、少しずつ楽になっていった。


 相変わらずゴボリと血は出ているが、出る量と入る量が拮抗しているおかげで、かろうじて意識だけがつなぎとめられる。



「コーデリア……一体、どのような病なのだ」



 王太子が苦しそうに私を見下ろした。


 その隣にいたヒロインのミアが、青ざめた顔で前に出る。



「殿下、わたくしが。聖女の力であれば、病なら癒やせるはずでございます」



 そう言ったミアの顔は、真剣そのものだった。


 ゲームで見たことがある聖女の祈りを捧げると、ミアの手が白く輝いた。


 

「コーデリア様、お身体に触れますわね」



 そう前置きして、私の背中に触れようとした。



 だが。


「きゃあっ!?」


 ミアの手が、見えない壁に弾かれたように跳ね返された。



 治癒魔法が、私の身体に拒絶されたのだ。



「ま、まさか……聖女の力が効かない!?」

「聖魔法を弾くだと!?」



 会場がどよめく。



 効かないのも無理はない。病気でも毒でもないのだ。


 原因は身体と魂のファイル形式の不一致によるバグみたいなものだろう。



 それを知るはずもない王太子は、更に慌てていた。


 

 なんとか説明しなければ!!

 そう思った私は最後の気力で口を開く。



 だが、造血魔法で補充されたばかりの血液が、私の話さねばという意思をトリガーに暴発してしまった。



「……ぶぇっっっっほぉぉぉおおおおおお!!!」



 盛大な、この日一番のフィナーレ。



 目の前の王太子の顔面を真っ赤に染め上げたあと、私は意識を手放してしまったのである、






 目を覚ますと、ベッドの上だった。



 傍らには、目を赤くしたミアと、沈痛な面持ちの王太子がいる。



「コーデリア様……」



 ミアが涙ながらに口を開いた。



「私に辛く当たられていたのは……自分の病魔にも気づかない、名ばかりの聖女への恨みゆえでございますか??」



「ちがっ……」


 途端に噴き上がる血。


 慌てて造血魔法をかけてくれるミアの横で王太子が、悔しそうに拳を握りしめた。



「なぜだコーデリア。相談してくれさえすれば、共に戦えたものを……!!」



 ああああ。もう。限界だ。



 何も進まない会話、解けない誤解。

 何をしても止まらない吐血。



 全てに嫌気がさした私は覚悟を決めた。


 どうせ苦しいのなら、このバグまみれの状況を全部ぶちまけてやる。



「き、いて……くだ……さい……! げぼぉっ!」


 血が吹き出るが構わない。

 シーツが汚れようが、二人の服が汚れようが知ったことか。



「私は……転生者……なんです……!! 手違いで……魂が適合、してなく、て」



 最初は要領を得ない説明だったと思う。



 途中休憩を挟み、王太子とミアが何度か質問をしてくれたおかげで、私はことのあらましを伝えることに成功した。


 全てを伝え終えたあと、王太子は驚きに目を見開いていた。



「神がそのようなミスを犯すなど ……ありえるのか??」



 信じられないのも無理はない。

 だが、ミアは神妙な顔をして頷いた。



「いえ……殿下。辻褄は合います」


「ミア?」


「聖女であるわたくしの治癒魔法が、完全に弾かれました。聖魔法よりももっと上位の……そう、神からの祝福以上の力が原因なのであれば納得がいきます」




 さすが聖女だ。


 ……あの適当な神に神託を受けた聖女が、こんなに出来た人間とは。少々信じられないが。



「わたくし、礼拝堂へ言ってまいります」


 

 ミアはそう言い残し、神託を受けるため足早に部屋を出ていったのだった。



 ◇



 しばらく後。


 戻ってきたミアは、どこか遠い目をして、ひどく疲れた顔をしていた。



「……神託が降りました」


「なんと……?」


「神は、こう申しておりました」



 ミアは咳払いを一つして、神の言葉を代弁した。



『ごめん、こっちもエラー通知多くててんてこ舞いでさ。めちゃくちゃ怒られたし、先輩も必死で定着率あげるデバッグしてるんだけど、どうにも進捗が……』



 王太子がポカンと口を開ける。


 ミアは死んだ目のまま、続けた。



「わたくしも、さっぱり意味がわかりませんでしたが、ニホン?? にいた魂の持ち主ならば通じるだろうと」


 お分かりになりますか?? と聞いてくるミアに、私はゆっくりと頷いた。


 それを見たミアは続けた。



「現状、コーデリア様には二つの道があるそうです」



 ミアが指を一本立てる。



「一つ。このまま肉体を放棄し、輪廻の道に戻って、正規の手順で生まれ変わりを待つ」



 そして、二本目の指を立てた。



「もう一つは……その身体に留まり、吐血と生涯付き合いながら、神の調整を受け続ける」



 ミアは「信じられませんわ」と呆れ顔で付け加えた。



「二番目に関しては、神様、泣きそうな声でしたわ。『これ選ばれたら俺たちずっと帰れない』って」



 その言葉を聞いた瞬間。

 私の脳裏に、あの時の会話が再び蘇った。



『えーい、ままよ!! とりあえずつっこんどけ!!』



 ……あの適当な神様たち。



 今、私が死ねば、彼らは「残念だったね」で終わらせて今まで通りに過ごすのだろう。



 でも、私が生き続ければ?

 私が生きている間、彼らはずっと調整作業に明け暮れる訳である。



 私は口元からツーっと血を流した。


 

 そして、綺麗な笑顔を浮かべて言った。



「ミアさん、殿下。お伝えください」



 私は高らかに宣言する。



「──二番目でお願いします、と」




 王太子とミアが息を呑む。


 どんな困難なイバラの道も受け入れる、一種の自己犠牲に見えたのかもしれない。



 違う。


 これは復讐だ。



 絶対に簡単に死んでやるもんか。



 健康に気を使って、長生きして、おばあちゃんになるまで……いいや、寿命の限界まで生きてやる。


 私のくしゃみ一つ、あくび一つ、寝返り一つで吹き出る血。それが、あいつらへの嫌がらせになるのなら。



「ふふ……ごふっ!!」



 私は笑いながら元気に血を吐いた。



 神様達の悲鳴が聞こえてくるような気がしたが、しったこっちゃ無いのである。





よろしければ★評価、ブクマで応援いただければとても嬉しいです!

感想も励みになっております。

連載では異世界探偵×恋愛を書いています↓


興信所の者ですが!!〜事件を解決するたびに、仏頂面の狼獣人副隊長の尻尾が揺れるんですけど!?〜

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こちらもお楽しみいただけましたら幸いです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

皆様、良い一日を!!

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― 新着の感想 ―
CRCが一致しないんですもんね、仕方ないですね……ww w ユニークで楽しかったです!
血を吐くたびにブフォォオッ!って吹き出してました。 バグ修正?これはなんだ?適合処置?頑張れ!神様!
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