第98話
確実に何かあったのだと思った司であったが、無理に訊き出せる空気でも無かったのか訊きたい気持ちをグッと抑え、なるべく明るく振る舞った。
「 (司くん……) 」
「いや~これだけ豪華だと何食べるか迷うよね! そう言えばこの世界にしかない食べ物とかも置いてるのかな? 昨日は初日って事もあって余裕無かったけど、せっかくだし異世界の料理を堪能するのも悪くないよね!」
「 (司くん……司くん……) 」
「ほら、テトラ行こ! あんまり遅くなると他の人に取られちゃ……」
「司くん!」
ついに我慢できなくなったのか、テトラは立ち上がった司に正面から抱き着いて泣き始めた。突然の状況に周りの参加者は司たちに視線を送り、何事かといった様子で2人を観察し始める。
「え!? ちょ、テトラ……!」
「うっ……ひっく……ぅあ……ああああああああ! 司くん、司くん!」
ゲーテに無理やり部屋に押し込まれ、口を塞がれ、性的暴行をチラつかされ、腹を蹴られ、恐怖を植え付けられた。そんな事を経験した後に司の明るさと笑顔、そして優しさに触れたテトラは、どれほどの安らぎを得た事だろう。
衝動的に司に抱き着いて周囲の目も気にせず涙を零す彼女を見た司は、動揺一色になり慌てふためく。
「ほ、本当にどうしたの? テトラ……」
「うっ……うっ……司……くん……お願い……私の頭……撫でて……」
「え?」
「お願い……」
「……」
この短時間で一体何があったのか。
ただ事では無いと思った司であったが、まずはテトラの要望に応えて彼女を落ち着かせる事が先だと考え、若干照れながらもテトラの後頭部付近に手を当てて優しく撫でた。
「……司くん……」
「何があったかは分からないけれど、落ち着いて。僕が側に居るから。テトラが落ち着くまで、ずっとこうしてて良いから」
「……うん……うん……」
司の優しい声と慣れてなさそうな撫で方が、今のテトラには非常に温かく感じられた。
ゲーテにも頭を撫でられたが、その時に感じた恐怖と不快感が上書きされていくような感覚をテトラは憶えた。
恐らく2人は今このレストラン内で最も注目を集めている事だろう。だが両者ともそんな事を気にしている様子は全くない。
「ごめんね、司くん……急に、こんな……」
「気にしないで。何があったかも話したくないなら無理に話さなくても良いから」
「うん……ありがとう……司くん……」
その後も体を震わせながら泣くテトラを司は受け入れた。
こうして抱き着かれていると彼女がどこにでもいる普通の年相応の少女のように感じられた。どれだけ超人であろうと根っこの部分は同じなのだと。
やがて少し落ち着いてきたのか司から手を離したテトラは、まだ涙ぐんでいる目を彼の目と合わせながら言葉を発する。
「ちょっと落ち着いてきた……。本当にありがとう、司くん」
テトラはようやく笑顔を彼に見せる事ができた。
結局彼女の身に何があったのかは分からないままではあるが、テトラの笑顔を取り戻せた事が何よりも嬉しかった司は思わず笑みが零れるのだった。




