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第95話

 だがそんな時、ゲーテの発した言葉でテトラの動きが止まった。


「時間と方向的にこれから朝食ですか? 申し訳ありませんが司くん……少しだけテトラさんと2人きりで話したい事があるので先にレストランへ行って頂けませんか?」


「え? で、でも……」


「……司くん、ごめん。えっと、先に行ってて。大丈夫……ゲーテさんとの話が終われば私もすぐに行くから」


 ここでゲーテの申し出を断る方が良くないと思ったテトラは、素直に受け入れる事にした。司からすれば何が何やら分からないかも知れないが、事情を明かす訳にもいかない。


「何かちょっと様子おかしいよ、テトラ。まぁでも分かった」


「うん。本当にごめんね」


「いや謝る必要は全然無いから。それじゃあね。待ってるから」


 そう言って司は1人でレストラン会場へと向かっていった。やがて司の姿が完全に見えなくなったと同時にテトラは口を開いた。


「それで? 話って何かな? ゲーテさん。さっきも言ったけど、試験の内通者とこれ以上会話したくないっていうのが参加者の1人としての本音なんだけど」


 あくまで自分はゲーテの事を内通者として警戒しているというアピールをするが、そんな事は無駄な足掻きだったようだ。


「やれやれ。人がせっかく気を利かせて邪魔者をこの場から退場させてあげたのに、それを無下にする気ですか? それとも僕が状況を理解していないと思っているのですか? もしそうなのでしたら、認識を改めた方が良いですよ……WPUのテトラさん」


「……」


 ゲーテの微笑みが最高レベルで不気味に見えてしまい、テトラは思わず鳥肌が立った。


「ははは! 全く動揺しない辺りはさすがですねぇ」


「そういうのいいからさっさと本題に入って。私お腹空いてるの。司くんとの楽しいお喋りも邪魔されたし、早くレストランに行きたいんだけど」


「……。はぁ……」


 溜め息を1つ吐くとゲーテの顔から突然笑みが消え、真顔になる。彼と言えば胡散臭い笑みが印象的だった事もあり、急激な表情の変化は違和感を覚えるレベルであった。


「……? ……っ……!」


 その直後、ゲーテは正面から手を伸ばしてテトラの口を塞ぎ、そのまま近くの部屋の中へと無理やり彼女を押し込んだ。部屋の中に入った後は入り口ドア近くの壁にテトラの背中を叩き付け、彼女の口を塞ぐ手に力を込める。


「ふふ……ここ僕用の部屋なんですよ。いやぁ近くにあって良かったですねぇ。男が少女を襲っているシーンなんて誰かに見られたら一発で通報案件ですから」


「んーっ! んーっ!」


「WPUと言っても來冥力さえ解放しなければあなたなんて非力な少女……成人男性が力を出せば、ほらこの通り。簡単に無力化できるんですよ。良いですか? あまり僕に対してナメた態度を取らない事をおすすめします。司くんやその他大勢の人たちを守りたいのならね」


「……」


 その言葉でテトラは大人しくなるが、睨み付ける行為だけは継続して行っていた。


 來冥力さえ解放すればこの状況を脱する事は当然として、ゲーテを倒す事もテトラならば可能だろう。だが今ここで感情的になって來冥力を使ってしまえばどうなるか。そんな事は考えるまでもない問いであった。


 その事を理解しているのかゲーテの顔に再び笑みが戻る。


「苦しいですか? 怖いですか? 悔しいですか? でしたら來冥力を解放すれば良い。あなたはWPUの人間です。僕如き簡単に倒せるでしょう。ほら、どうしました? この世界は來冥力を使えるんですよ? ……使わないんですか?」


「 (こいつ……分かってて……! ホンット性格悪い!) 」


「ははは……ですよねぇ。あなたは……いや、あなた方は自分や仲間がどんな目に遭おうともヘタに動く事はできない。そんな事をしたら僕の背後に潜んでいる怪物が暴れるのは火を見るより明らかですからねぇ。正直、虎の威を借る狐みたいで自分が情けなくなりますが、まぁ良いでしょう。今は素直に界庭羅船に甘えようと思いますよ」


 レイクネスがゲーテを守ろうとする行動だけは何が何でも引き起こしてはならない。その思考がテトラの抵抗を止める最大の抑止力として機能していた。

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