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第94話

「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」


「多分だけど仁さんも凄く喜んでると思うよ。自分の息子が妹の為に人生を懸けてリバーシの試験に挑戦してるんだもん! だからこそ普段は私情を挟まない仁さんが、様子を見に行ってくれないかって気にかけてるんじゃないかな」


 確かにシュレフォルンたちやテトラは、どちらも本命の任務遂行の為にセレーナを訪れた。司の様子を見に行ったり彼の身の安全を保障する為に側に居る事は、その任務遂行のついでで行える行動であり、それならと仁はお願いしたに過ぎない。


 それでも仁が個人的なお願いを彼らにするなど非常に珍しいどころか初めてであり、やはり司の事が心配なのだという気持ちが伝わってくる。


「うん……そうだね……」


「本当は司くんの事を見守る事をメインにしたいくらいだけど、えっと、WPUとしての自分の立場を考えるとそうも言ってられないからね。考え抜いた結果がメインミッションのついでにっていう事だったんだと思う」


「……」


 司は無言状態のまま優しく微笑んだ。仁らしいやり方だと思ったと同時に、自分が息子として大切にされている実感が湧いたからだ。


「何かこうして話してると、リバーシ試験に合格したい気持ちがますます湧いてきたよ」


 蒼の為だけではない。父である仁を安心させる為にも、必ずリバーシになってやるという気持ちがより強く司の中で炎として燃え上がった瞬間だった。


「ふふ……あ……」


「……?」


 ふと前を見たテトラはこちら側に歩いてくる人物の存在に気付いたようで、急にそんな声を上げた。


 司も彼女につられるように視線をテトラから前方へと向ける。


 するとそこには1人で歩いていたゲーテの姿があった。


「 (ゲーテさんか……昨日の感じだと内通者なのは確定だよね。変に絡まない方が安全だしここは無視を決めておこう。失礼な態度になっちゃうけど、リバーシの試験中にそんな事気にしてる場合じゃないし) 」


「 (うっわ……もう、最悪。せっかく司くんと楽しくお喋りできてたのに……) 」


 ゲーテの正体や彼を護衛する為に界庭羅船の1人が近辺に潜んでいる事実を知っているか知らないかで、2人の間には抱く感想に大きな差が生まれていた。


 司はあくまでゲーテをエンペル・ギアが用意した内通者として見ているが、テトラは違う。ゲーテは界庭羅船レベルではないがそれでもWPUが追っている密輸組織の次期ボスとされている大犯罪者であり、今はその背後にレイクネスが居るのだ。


 彼に対する2人の警戒度の高さの差は、まさに天と地だろう。


「おや。司くんにテトラさんじゃありませんか。おはようございます。朝から仲睦まじいですねぇ……若い男女のそういう姿は見ていて微笑ましいですよ。ああ、若いと言えば僕もまだ20代前半ですが、そういったツッコミは無しでお願いしますね」


「おはようございます…… (はっ……つい反射的に挨拶を……! 僕って奴は……!) 」


 司は早速無視するという行為が失敗に終わった事に気付き、内心頭を抱えた。そもそも彼の性格上、余程強く意識しない限りそんな事できないだろう。


「……。おはよう……ございます。ゲーテさん」


 対してテトラはなるべく自然に接しようと試みてはいるが、警戒心がどうしても働いてしまうが故に少々ぎこちなくなってしまっていた。


「ふむ。お2人ともどうかしましたか? そんなに睨まれてはさすがに居心地が悪くなるのですがねぇ。ふふ、僕が内通者だから警戒しているのですか? ……『彼』は」


「……ッ!」


 その一言にテトラは全てを見抜かれている気がして心臓がキュッとなった。意味深にテトラを見ながら微笑んでいる点も加味すると、ゲーテはテトラが司とは別の理由で自分を警戒していると理解した上で彼女の動揺を誘うような発言をした可能性が高い。


「彼はって……内通者だから警戒しているのは僕だけじゃなくてテトラも……」


「司くん! 行こ。内通者さんとの会話にこれ以上付き合う必要なんてないよ」


「あ、ちょ、ちょっと……!」


 テトラは司の手を握って歩き出し、半ば強引にゲーテから離れようとした。

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