第93話
どれだけ訊いても誤魔化そうとする司を見たテトラは諦めたようで、どこか釈然としない感じになるもそれ以上の追及はしない事にした。
「気になるなぁ……。でもまぁ良いや! あ、と言うかさ! 私ばっかり話しちゃってるし、えっと、次は司くんの番だよ! 色々聞きたい事はあるけれど、やっぱり最初は何でリバーシに入りたいのかって所を知りたいな」
「……」
その言葉に司の表情が曇った。
彼は何故リバーシに入りたいのか、その理由は父親である仁にすら話していない。テトラが把握していないのも無理は無いだろう。
もっとも仮に司が仁に話していたとしても、寡黙な仁が理由まで彼らにペラペラと話すとは到底思えない。
ちなみに司が誰にも話していない加入理由だが、恐らく仁は何となく察しているに違いない。司がリバーシに入りたいと思ってその事を伝えたのは蒼が死んだ直後の事であり、タイミングを考えても理由はそれしかないと思ったはずだ。
「ん? どうしたの? ……あ……えっと、もしかして訊かない方が良かった? 嫌なら無理に答えなくても……」
司が即答しない事と彼の表情の変化から答えたくない質問だったのかも知れないと考えたテトラは、慌てて別の話題にしようと思ったが、それよりも早く司が言葉を返した。
「そんな事無いから安心して。ただちょっと蒼の事を思い出してね」
「蒼?」
「うん。僕の妹なんだけどさ……」
そう切り出して司は蒼の事とリバーシに入りたい理由をテトラに教えた。
蒼が自分の妹である事。何者かに殺害された事。そして彼女を殺害した犯人を捕まえる為の人脈と実力を得る事を目的としてリバーシに入りたいと思っている事。
テトラは司の妹の死やそれがキッカケとなってリバーシを目指していると知り、気軽に訊いて良い内容では無かったと後悔した。
だが当の司はその辺りの事を気にしている様子はなく、テトラは少し救われた気持ちになった。
「そっか……健気だね、司くんは」
「誰が蒼を殺したのかはまだ分からないけれど、できる事なら絶対に僕がそいつを捕まえたいんだ。もちろん、アルカナ・ヘヴンの警察組織に該当する牢政は優秀な人だらけだからね。僕なんかが躍起にならなくても、案外簡単に捕まったりするかもだけど……」
結果的に蒼を殺害した犯人の確保は数年後の司が転生協会にやって来た事で無事成し遂げる事ができ、事件の解決に貢献する事になるのだが、当然そんな事予知能力者でも無い限り分かるはずも無い。
この時の司もどちらかと言えば牢政の人たちがすぐに解決してくれるだろうという楽観的な思考の方に若干天秤が傾いていた。
だがそれでも牢政の人たちを信じるだけに留まっていない理由が彼にはあったのだ。
「ただずっと事件解決の報告を受けるまで待つのが落ち着かなくて。何か行動を起こさないとって考えて行き着いた結論が……」
「リバーシに入る事だったんだね」
「うん」
彼の話を聞き、その行動の原動力が妹である事を理解したテトラは、司がどれだけ蒼を大切な家族として想っていたのかを知った。
「何かごめんね。しんみりした空気にさせちゃって」
「全然! 私応援するからね! 絶対に蒼ちゃんを捕まえられるように! あ、でも、その前にまずは私という壁を越えないとね」
「うん! ここでテトラに頼りっきりじゃリバーシになれても実力不足で犯人確保なんて夢物語になりそうだしね!」
蒼の為に犯人を捕まえたいというその気持ち一本でどうにかできるはずが無い事など、あまりにも分かりきった話だ。
もしもこの試験を通して自分には捜査を行う実力が無い事を痛感した時には、大人しく身を引いて牢政の人たちを信じて待つ道を司は選ぶつもりでいた。最初は合格できれば良いと思っていたが、テトラに出会って判断基準を変えた訳だ。
「ふふ……それにしても蒼ちゃんかぁ。会ってみたかったな。司くんって美形だし、きっと蒼ちゃんもすーごい可愛いんだろうな……」
「美形って……そ、そうかな? まぁでも、蒼が可愛いのは否定しないかな。こんな事言ったらシスコンって思われそうだけど」
「えー良いじゃん! えっと、それって妹の事が大好きって事だし、素敵な事だと思うけどなぁ」




