第91話
司の提案にテトラは笑顔で頷いた。彼女に断る理由などある訳も無かったからだ。
「良いよ! 確かに結構一緒に居るのにまだ名前とか所属くらいしか知らないもんね!」
「よくよく考えればテトラって僕の父さんの仲間な訳だよね……ええっと? 父がいつもお世話になってます……?」
出会ったばかりの時は情報の整理に忙しく、また試験の事で頭がいっぱいだったせいでその挨拶をする事を忘れていたと思っていた司はまず最初にその発言をした。
彼は至極真面目に考えてそう口にしたのだが、唐突にもほどがある切り出しにテトラは思わず吹き出してしまった。
「ぷっ……急にどうしたの? 司くん、礼儀正しいね! えっと、じゃあ私も……いえいえ、寧ろ私たちの方がいつも仁さんには助けられてばかりで……」
「……僕の父さん、基本的に喋らない人だから20近くも歳下の異世界人と上手くやれてるのかなってちょっと心配だったけど、杞憂だったみたいだね」
「あ、やっぱ普段から無口なんだ。一緒に活動する時にシアちゃんとか結構ちょっかい出したりするんだけど、えっと、『……』って無言を貫くか『やめろ』って一言だけ言って終わるかだからね」
声というよりは雰囲気を似せに行ったテトラによる仁のモノマネは、どうやら息子視点で上手だったようで司はテンション高めに反応した。
「ちょっと似てる!」
「本当? 別にモノマネ得意って訳じゃ無かったんだけどね。意外な才能あったかも! 今度みんなの前で披露してみようかな。あ、でも、WPUで歴の浅い私がそんな攻めた芸を仁さんの前で披露なんてできない……! やっぱり止めとこ……。えっと、今のモノマネ、秘密だからね!」
特にバラす気は全く無い上にそんな事で仁が気を悪くするはずが無い事を知っている司だったが、当のテトラは深刻に考えているようであり、彼女に合わせて返事をした。
「分かってるって。それよりもさ、さっき歴が浅いって言ってたけど、テトラってWPUに所属してどれくらいなの?」
「えっと……5年くらい? 私が10歳の時に加入したから……うん! 5年だ。私よりも歴が短い人は居るけど、組織で見たら5年は短い方だからね」
「じゅ、10歳でWPUに加入……」
自分が今13歳である事を考えた司は、その時には彼女はもう3年もWPUの一員として活動していた事実を知り、改めて住む世界が違う事を実感した。
司くらいの年齢でリバーシに加入しようとしているのも大分凄いが、それはアルカナ・ヘヴンという世界内での話だ。全世界を駆け巡るWPUともなれば文字通り規模感が桁違いなのである。
確かに実力主義であるこの世界において年齢など意味を成さないのかも知れないが、それでもまだ10歳の子どもがWPUに加入など天才としか言いようが無い。
「いや~大変だったよ! 当時は学業と両立しながらやってたからさ。えっと、自分で言うのもなんだけど、私勉強は結構できたからね。WPUの活動する為に先生にも協力してもらって、授業を何コマも先に受講して周りの学生よりも早くテスト受けて履修済みの状態にもっていったからね! 良い大学とか紹介されたんだけど、正直学問の道に進むつもりは皆無だったから丁重にお断りさせていただきました!」
「……」
想像以上に優秀な経歴を聞かされるとテトラに勝とうとしている自分がどれだけWPUを、そして彼女自身をナメていたかが身に染み、どこか申し訳無い気持ちになってしまった。
当然テトラはそんな事気にしないに決まっているが、中にはナメるなよと気分を害する人が居てもおかしくない。
「あれ? どうしたの? 司くん」
「いや……テトラって本当に優秀な人だったんだなぁって思ってさ」
「え~! もう、照れちゃうよ~!」
ニッコニコの笑顔になったテトラは嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった様子だ。こうして接していると司と歳の近い少女のように感じられる時もあるのだが、話を聞けば聞くほどやはりWPUに入るべくして入った天才少女なのだろうとも思えてくる。
「でもね? 良い事ばかりでもなくてさ。その内の一つとして私、学校に居た頃は友達が1人も居なかったんだ。ほら、自分で選んだ事とは言え、連日連夜みっちり授業ばかり受けてるWPUに入ろうとしている女の子って、結構近寄りがたい存在に映って……」




