第8話
「だ、だ、だだだ……『WPU』……!」
「正解。さすがこの世界の超高難易度試験に挑もうとしているだけはあるな。紋章まで把握している奴は、さっきも言った通り少ないからさ」
シュレフォルンはニヤッと笑った後に手帳を一旦閉まった。自分たちの事を把握してくれていた事が嬉しかったのか満足気だ。
「どうしてWPUの人たちがこんな場所に……! いや、そもそも何で僕に接触を……」
彼らの正体が正体なだけに司の動揺は半端では無い。リバーシが霞む程の超が何個も付く大物たちなのだ。これで動揺しない程司の心臓は人間離れしていない。
世界警察連合。人々からはWPU (WORLD POLICE UNIONの頭文字) と呼ばれる事の方が多い。
あらゆる世界の來冥者で構成された世界最大規模の警察組織、それがWPUだ。
司は当然として、エンペル・ギアですら全く知らない異世界出身の者たち同士が手を取り合い、日々犯罪者と戦っている訳だ。
界庭羅船のような全世界共通の敵や、一つの世界に留まらず様々な世界を転々とする事で逃走している指名手配犯を確保する為に動いている組織と言える。そんな彼らは必然的に皆相当の実力者である。
世界共通の敵が存在するのであれば世界の垣根を越えて協力し合うのが理想的だろうと言う考えの元で設立されたとの事だ。犯罪者に対する正真正銘『最後の切り札』的な存在として人々は認識している。
牢政やリバーシ等はアルカナ・ヘヴン内『だけ』における警察組織・切り札のようなものであるが、彼らは違う。情報網も各個人の來冥力も凄まじいものであり、文字通り世界中で活躍しているのだ。その活動規模と期待度は桁違いだろう。
そんな組織に所属している大物三名が一体何故こんな所に居るのか。そして何故司に接触を試みたのか。司からすれば皆目見当が付かない事だ。
「まずは落ち着きましょうか。司くん。我々がWPUの人間だからと言ってそんなに動揺したり変に身構えたりする必要は全くありませんよ」
「氷雨の言う通りだ。俺らの事はちょっと歳上の友達くらいに思ってくれて全然構わないからな」
「まぁどうしても緊張するって言うなら……」
そう言ってシアは四つん這いになって司に近付く。やがてその距離はほぼゼロにまでなり、まるでこれからキスしようと言わんばかりの近さだ。
「ちょ、ちょっと……!」
シアの顔が急接近してきたせいで司は別の意味で動揺する。年頃の少年として実に正常な反応だ。
「何をしているんですか、あなたは! そんな人前で堂々と……! やるなら裏でやってください!」
「ひぃちゃん焦りすぎだって! 初心だな~もう~!」
ニヤニヤ笑いながらシアは顔、と言うよりは猫耳を司の心臓の位置にピトッと密着させた。優しく押し当てた事で猫耳が若干折れ曲がる。
「~~~っ……!」
羞恥心で満たされた司は顔を赤らめながら硬直する。直接当てているのは猫耳とは言えシアの顔を司の胸に埋めているような状況だ。これで平常心を保つなどできる訳も無い。
「ああ、もう……! 見てるこっちが恥ずかしいですって……!」
「そうか? 俺はもう慣れたが」
そんな氷雨とシュレフォルンの会話が耳に入らなくなるくらいに、司は心臓の鼓動を抑えるのに必死だった。
そんな時。司は次第に緊張も動揺も体から抜けていく感覚を覚えた。




