第88話
「リバーシ加入試験は基本的に少数精鋭でまわしている。故にゲーテが突如として姿を消したのであれば連絡が入っているはずだ。それが現時点でも無いという事は、レイクネスとゲーテは自分たちの侵入がバレていると把握しているにも拘らず、まだ世界地図を使用しての異世界転移はしていない状況な訳だ」
危険が依頼人に迫る前に行動に移す事を大切にしているのであれば、一秒でも早くゲーテを別世界へと避難させるべきなのだが、レイクネスはそうしていない。
これは界庭羅船の取る行動としては不自然である。
「とっとと逃げれば良いものを、何で未だにそいつらは試験会場に留まってるんだよ? あんたが言ってた籠城事件で例えるなら、周りを警察に囲まれているけど好きな場所に瞬間移動できるって状況だぞ。使わない手は無いだろ? しかもその移動先候補は全世界なんだ。行方を追うだけで一苦労ってモンだろ?」
「考えられる可能性は一つですね。レイクネスかゲーテのどちらかは、まだセレーナ……それも恐らくはリバーシ試験会場でやるべき事があるんだと思います」
「ああ。今すぐ異世界転移をする事を放棄してでも成し遂げたい事なのだろうな。そして一度別世界に転移してからセレーナに戻る選択も取らない所を見るに、それは恐らく試験中でなければならない可能性が高い」
リバーシ試験中に何か別の用事もしくは任務を遂行したいが為に、ゲーテらは即逃亡の道を選ばず会場に居座り続けている。
ゲーテからすれば何かあったとしても最強のボディーガードが自分を守ってくれる絶対的な安心感があり、正体がバレてしまったと知っていても落ち着いて行動できているのだろう。
「仮にそうだった場合、最悪の展開が考えられる。ゲーテかレイクネスが自身の痕跡を消したいが為に、用が済んだと同時に試験中だろうと関係なく会場およびその場に居る人間全てを莫大な來冥力で消し去る未来だ。界庭羅船がその気になれば、そんな事は容易に可能である事をお前らならば熟知しているだろう?」
その言葉に場の緊張感がより一層高まった。
証拠隠滅の為に放火する犯罪者が居るが、火を放つ行為の來冥力バージョンといったところだろう。ただの試験会場と一般人を灰燼に帰す事など、レイクネスにとっては非常に簡単なお仕事に違いない。
「つまりこれまでの情報と仮説から総合的に判断すると、我々は試験参加者および従業員の安全を確保しつつ、試験を普段通りに進める事で異常事態が発生していると悟られてはいけない。それでいて最悪の事態に備え、常にゲーテの動向を把握し、もしもの時には対応できるよう戦力を集結させておく必要がある」
レギュラオンの話に三人は無言で聞き入る。
彼女が口にした条件を全て満たす対策・行動を取る必要があり、この時点で彼らは何をすべきか理解していた。
「ふん。普段は他チームと組んだりする事は無いのだが、今回は利害が一致したな。以降この件に関しては私が全指揮を執る。異論は無いな?」
「えー! レギュ姉が協力してくれるとか激アツじゃーん! 私は異論なーし!」
「俺もだ。正直あんたの事は好きじゃないが、信頼はしてるしな。頼りにしてるぜ」
「犯したミスは行動で清算します。何でも命令してください」
自世界の人間が危機に晒されていると知ったレギュラオンは、三人の反応を確認するとシュレフォルンたちをまるで黎園の仲間に対してそうするように指示を飛ばした。
「ならば最初の命令だ。シュレフォルン、氷雨、シア。今すぐリバーシ試験会場へと向かい、ゲーテの動向を追え。テトラにも事情を伝えた上で状況を逐一私に報告し、テトラを合わせた計五人で常に連携を取り合う。エンペル・ギアが夜中だろうと私が会談中だろうと気にするな。良いな!?」
迫力のある声に、三人は彼女の目を真っ直ぐ見つめたまま同時に一言だけ返す。
「「「了解ッ!」」」
こうしてWPUトップのチーム『黎園』のリーダーであるレギュラオンと、界庭羅船を担当するチームの四名が手を組んだ突貫のチームができあがった。
最優先事項は試験関係者の安全を保障する事。
司が知らぬ間に、WPUの五人がミッションを遂行するべく動き始めたのだった。




