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第86話

「一応訊いておくがお前ら……WPUの人間がリバーシ試験会場に居るなどと口を滑らせてはいないだろうな?」


 レギュラオンは今日一の睨みと圧を発生させ、絶大なプレッシャーを三人に与える。エンペル・ギアの職員ならばそれだけで冷や汗を流し、頭をフル回転させて言葉を選ぶ事だろう。


「その点は問題ありません」


「……そうか」


 クオリネに会ってからここに至るまでの記憶を遡った氷雨は、そのようなミスは犯していないはずだと思い、三人を代表して答えた。


 だが。


「私の先ほどの質問は界庭羅船に対して口を滑らせていないだろうな、という意味だが、本当に大丈夫か?」


 氷雨の自信を信じていないのかレギュラオンはすぐに納得した様子は見せなかった。


「……? は、はぁ……? 大丈夫ですけど……」


 一体を何をそんなに気にしているのだろうかと思った氷雨は、怪訝そうな表情を浮かべて返答した。


 しかしレギュラオンに見つめられ、彼女は何か疑っているのだろうと確信した氷雨はもう一度これまでの行動を振り返る。


「……。……! あ……あ……!」


 その瞬間、氷雨は気付いてしまった。自分が犯した重大なミスに。


「ど、どうしたの? ひぃちゃん。顔色悪いよ」


「お前別にクオリネに対してテトラの事なんて言ってないだろ? 当然俺とシアもな。そんな動揺一色の顔と声にならなくても……」


「違います」


「は?」


 震えた声で氷雨はシュレフォルンの認識が誤っている事を伝えた。心臓はバクバクと音を鳴らし、後悔の二文字が彼女を襲っている。


「クオリネに対してじゃありません。……フローラに対して情報が漏れた可能性があるんです……!」


 一旦はもう話題に出て来ないと思っていた來冥者の名前に、シュレフォルンとシアは度肝を抜かれた。


 一方レギュラオンはと言うと、動揺した様子も怒りを露わにする様子も見せない。先ほどからシアの返答に対して疑いの眼差しを向けていた事も加味すると、もしかしたら途中で気付いたのかも知れない。


 その証拠にフローラの名前を出した氷雨に対して、レギュラオンが最初に発した言葉はたった一言であった。


「やはりな」


「え? 気付いて……いたんですか?」


「少しだけ違和感はあった。シュレフォルンが世界地図を使ってセレーナからアルカナ・ヘヴンに来たという事は、その時点ではまだフローラが近くに居なかったと言える。フローラの來冥力は、お前らよりも高いからな。もしもあの時フローラが近くに居ればシュレフォルンの世界地図は障害を引き起こし、使えなかったはずだ」


 世界地図は所有者よりも高い來冥力を感知した場合に使えなくなる。クオリネとの戦闘で世界地図の使用を試みた氷雨が転移できなかったように。


「シュレフォルン、お前言っていたな? この世界に来る前に、シアを治すにはティナの力を借りるしかないと言ってしまったと。そしてその発言をフローラに聞かれたが故に彼女はティナがこの状況におけるヒーラー役として選ばれていると知ってしまったと。だがそれは有り得ないという事だ。何故ならお前は世界地図を使えた……であれば、その時点ではフローラは少なくともお前らの近くには居なかったと考えるしかない」


「……でもフローラは氷雨がティナの到着を待っている事を把握していた。だからこそ氷雨とシアに近付いて自ら治療を申し出たんだもんな……」


 そう考えるとフローラはシュレフォルン以外の経路から事情を知った事が窺える。

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