第85話
その質問に三人は誰も肯定と捉えられる反応を示さなかった。試験中止を伝えられた後にゲーテらは異世界へ即逃亡するのでは、と発言したシアでさえも。
改めて断言できるかと言われたら、どうやら首を縦に振る事はできないようだ。そしてそれはレギュラオンが辿り着いたもう一つの展開も起こり得ると、半ば納得しているようなものだった。
三人の反応を見たレギュラオンは自分の考えはズレたものではない事を確信し、続けて話す。
「各世界の警察組織……この際WPUでも良い。こういった組織と界庭羅船の違いの一つとして、こんなのがある。基本的に警察組織は事件が起こってから動き始めるが、界庭羅船は起こる前に行動に出る事を心掛けている……とな」
「つまりあんたはこう言いたいのか? 今回の試験を途中中止させた場合、その理由はレイクネスの侵入がバレた事による参加者の身の安全確保に違いないと察したレイクネスは、その瞬間、迎撃態勢に入ると」
シュレフォルンの発言に氷雨とシアは息を呑んだ。
恐らく二人とも彼と同じ結論に至ってはいたのだろうが、こうして言葉にされると改めてどれほど危険な展開かが実感できるのだ。
レギュラオンは特に頷きはせず、言葉のみで彼の発言に肯定してみせた。
「その通りだ。クオリネが良い例だろう。彼女はお前らがゲーテの元へ向かおうと察した瞬間に戦闘態勢に入り、お前らを止めたそうじゃないか。同じようにゲーテを逮捕しようとする連中が動き始めたのかも知れない……いや、それどころか、もう既にこの近辺に居るかも知れない……そう考えたレイクネスが、無差別に殺戮と破壊を行うかも知れないだろう? ゲーテにとって脅威となる存在の根元を絶つ勢いでな」
そんなバカなと思う話だが、界庭羅船ならやりかねないと思わせてくるのが彼らの恐ろしいところだ。
基本的に界庭羅船は殺し屋を生業としている集団ではない。あくまでも犯罪者を守る盾の役割を果たす為に行動しているに過ぎない。
そして依頼人を守る為であるならば、無差別殺人や世界の破滅だって厭わない徹底ぶりを見せている。
レギュラオンの言うように、世界地図で逃亡してもゲーテを追う警察組織がこの世から消え去った訳ではなく、根本的な解決にはなっていない。ならば最初から危機の根元を焼き尽くす行動に出てもおかしくはないだろう。
「試験参加者は言わば人質ですから、彼らが試験会場内で試験を続けている場合はまだWPU含め警察組織も様子見をしている段階と判断しますが、試験の中止になってしまえばゲーテにとって脅威となる存在が動き始めたんじゃないかと思い、クオリネのような行動に出る……そう仰りたいのですか?」
「ああ。ドラマや再現VTR等で、籠城事件発生中、人質が解放されたと同時に警察組織が突入するシーンがあるだろう? レイクネスからすれば試験中止は人質解放と同義だ。つまりその後発生するであろう警察組織の突入に相当する展開をなるべく早く防ぐ事こそ、レイクネスに与えられた仕事と言えるな」
どの道を選んでも危険が消える事は無い状況になっている事を知り、重い空気が場を支配した。
「無駄な殺しは行う事はしませんが、依頼人が危機に瀕した場合はその限りでは無いという事ですね」
「今になって思えばクオリネが親切にもレイクネスの居場所を教えてくれたのは、こうなる事が予想できたからだったんだねぇ」
「レイクネスとゲーテの居場所を知ったところで、俺たちは何もできない。それが分かりきっているからこそ、だろうな」
「……。 (しかし、本当にそれだけを理由に彼女はこいつらにレイクネスやゲーテの事を教えたのか? 何か引っ掛かるが……いや、仮に何か別の理由があったとしても情報が不足している今それについて考えを巡らせるのは時間の無駄か。) それにしても都合が悪いな。今試験にはテトラというWPUの人間が参加している。もしもこの事実が奴らにバレたら試験会場が戦場に変化してもおかしくはない」
レギュラオンの目の鋭さが一層増す。今彼女が最も恐れている最悪の展開がまさにそれだ。テトラはゲーテのように自身の身分を偽って試験に参加しているが、何かの拍子に敵にバレてしまう可能性だってある。そうなってしまえば一巻の終わりだ。




