第83話
「そうか、ようやく分かったぜ。確かに俺はこの世界に来る前に言っちまった。シアを治すにはティナさんの力を借りるしかないって」
「ふん。もしそういった発言を彼女が聞いていたのであれば、こう思うだろうな。自分はもうティナを超えている……それを証明したい、と。フローラがお前らの近辺に居た理由に関しては凡そ察しが付いている。クオリネが事後報告として仲間に状況を伝え、それを知ったフローラが気になって様子を見に行った……大方そんな所だろう。WPUと界庭羅船が正面からぶつかり合うなど稀なケースだからな」
こうして話を進めていくと修道服女=フローラであると考えた場合、色々と辻褄は合うようだ。
「だから彼女はシアさんを治したい気持ちでいっぱいだったんですね。かつての自分を超えた事を証明する為に。そして界庭羅船によってやられたWPUの人間を助けるなんて、裏切り行為に等しいので、フローラは正体を明かさなかったんでしょう。もしも明かして騒ぎになったら面倒ですからね」
謎に包まれた修道服女の言動の意味が一つ一つ明らかになっていく感じがした氷雨は、スッキリした気持ちになっていた。
「それにしても常軌を逸していますね、フローラは。彼女は恐らく回復特化の來冥者では無いんでしょうけれど、それでも回復に特化したWPU最高峰の治癒者であるティナさんに、回復面まで勝ってしまうなんて。相当な來冥力が無いとこの現象は起こりません」
「ひぃちゃん。そのフローラなんだけど、私を治した後は世界地図でどこかの世界に転移したんだっけ?」
どういう経緯で自分が復活したのか事前に聞かされていたシアは確認の意味で氷雨に質問をした。
「はい。ティナさんの知り合いだと思った私は、思い切って治療をお願いしたんです。あなたに近付いたフローラは見るに堪えない怪我や火傷を治していき、見事完治にまで至りました。その奇跡とも言える光景を目の当たりにしたせいか、私は嬉しさのあまり無我夢中であなたの元まで駆け寄ってしまって……。気付いた時にはフローラの姿は見当たらなかったので、どこかの世界に転移したと考えました。ティナさんの知り合いかつ、この回復力ともなれば、世界地図を保有していてもおかしな話ではないと思いましたので」
その時の事を思い出しながら氷雨は話した。その話に対してシアはニヤニヤ笑いながらからかうように言葉を放つ。
「いや~、あの時のひぃちゃん、可愛かったな~。私の事、ぎゅーって抱き締めてくれてさ! いつもは冷たくあしらうくせにね! 私の事大好きじゃん!」
「一応あなたに対しても仲間意識があるだけに過ぎません。調子に乗らないように」
「もう~素直じゃないんだから!」
二人のそんなやり取りを見た後、レギュラオンは溜め息を一つ吐いてから彼女たちを睨み付ける。本人は睨んでいるつもりは無いのだろうが、その刺すような鋭い眼光を向けられては睨まれていると錯覚しても不思議ではない。
「さて。私の認識が誤っていなければ、もうお前たちがここに留まる理由は無くなったはずだが? シアは復活を遂げ、氷雨が遭遇した修道服の女がフローラである事、そして彼女に関する情報提供までしてやった。これ以上用が無いのなら、さっさとこの部屋から退出してくれると助かるのだがな」
レギュラオンのこの発言に、思わず三人はそれもそうかと思って世界地図の使用を試みようとしたが、すぐに氷雨が重要な事を思い出す。
「いえ、レギュラオンさんに伝えなければならない重大な情報があります」
「ん? 他に何かあったか……って、ああ、そうだよ! 危ねぇ! シアの事で頭いっぱいだったから忘れるとこだったぜ」
「ヘタしたら帰った後にまた来なきゃいけなかったし、危うく二度手間になるとこだったね! いや~ひぃちゃんがしっかりしてて良かった良かった!」
「まだ何かあるのか? まったく……それで何だ?」
協力をする姿勢はなかなか見せないが、何だかんだ会話はしてくれるのがこのレギュラオンという女性だった。
彼女は心底うんざりした様子を見せながらも、氷雨が口にする重大な情報とやらに耳を傾ける。
「レギュラオンさんはゲーテという名前のエンペル・ギア職員に心当たりはありますか?」
いくらエンペル・ギアのトップとは言え、その機関に所属している一般従業員の名前まで全て把握しているとは到底思えない。故に氷雨は彼女がゲーテの事を知っている前提で話を進めず、まずは彼の存在を認知しているかどうかの確認から入った。
氷雨が始めようとしている話は、当然ゲーテとレイクネスの件である。




