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第82話

「「「……」」」


 レギュラオンの考えを聞いていた三人は何とも言えない複雑な気持ちになっていた。


 当然レギュラオンの話は依然として推測の域を脱しておらず、あくまでも現情報だとフローラが一番可能性としては高いというだけの話だ。


 しかしもしもレギュラオンの言う通り本当にフローラだったのであれば、シアは界庭羅船の一人に命を救われた事になる。


 手放しでは喜べないのが本音だろう。


「一つ良いですか。気になっていたのですが、何故フローラはティナさんに対してそこまで対抗意識を抱いているんでしょうか。失礼を承知で申し上げますが、界庭羅船の一人からすれば、ティナさんを自分のライバルと思えるほどの大きな存在として認識する事は無いと思うのですが」


 大分言葉を選んで氷雨は言った。


 それでも遠回しに界庭羅船からすればティナなど意に介さない存在に違いないと言っているようなものである事に変わりなく、氷雨は申し訳無い気持ちになってしまった。


 だがWPUと界庭羅船の間にはまだ実力差があるのが現実だ。その事実から目を逸らしていないからこそ口にできる発言であり、レギュラオンもその点に対していちいち目くじらを立てたりはしなかった。


「先ほど話した私の発言を覚えているか? 來冥者が能力を使って行う治療は、本人の來冥力をそのまま治癒量へと変換する仕組みであるが、正確にはその者が扱う回復性能の高さも関わってくる、とな」


「はい」


「ちょっと戦闘経験豊富な來冥者にしてみたらジョーシキだよねっ!」


「ほう? ではシアに答えてもらおうか。その常識に則って考えれば分かるはずだ。一体フローラにどんな事があってティナに対抗意識を燃やしているのかがな」


「えっ」


 少し調子に乗った生徒とその生徒に対して意地悪をしている教師のようだ。


「どうした? 早く答えたまえ」


「ちょ、ちょっと待って! 10秒! 10秒ちょうだい! えーっとね……」


 シアは必死に頭を回して考え始め、やがて元から思考力はあるのか、本当に10秒くらいで答えに辿り着いてみせた。


「あ! もしかしてだけどさ! 治癒量に変換する時の來冥力の高さはフローラの方が上なんだけど、能力面で見た時の素の回復性能はティナっちの方に軍配が上がるって事?」


「その通りだ」


「やった! ねぇレギュ姉、正解したんだから何かご褒美ちょうだいよ~」


 エンペル・ギアの職員がこの光景を見たら不敬罪としてシアを捕らえようとするかも知れない。


「……。シアが言った通りだ。回復性能に特化した來冥者と、おまけ程度に回復ができる來冥者とでは、そもそもの回復力に天と地ほどの差がある。これは何も回復だけに限った話ではないがな。とにかく、界庭羅船で唯一回復性能を持っていたフローラは、來冥力ではティナに勝っていてもこの部分で負けていたんだ。彼女にとっては屈辱的だっただろう。どれだけ來冥力を治癒量に変換しても、素の回復性能で負けているが故に、最終的な治癒量でもティナに負けてしまったのだからな」


 回復性能は言わば回復を行う上での土台だ。球技をする上でシュート練習等よりも先にまずは土台となる基礎体力作りを行うものであるが、その土台部分に関してはティナに完全敗北していたのだ。


「うう、綺麗に無視された……。まぁWPUだったら私たち以外のメンバーも過去に界庭羅船と接触した経験はあるだろうなって思ってたけど、まさかティナっちがフローラと既に会っていたとはね」


 実際に戦ったクオリネが良い例だが、界庭羅船は圧倒的な火力・破壊力がやはり注目される。そのせいか、ティナより劣る回復能力など脅威としては映らず、警戒情報としてメンバー間に共有されなかったのだろう。


 そんな背景があった事も災いして、氷雨はフローラと初邂逅時に彼女の正体に勘付く事が出来なかった訳だ。もっとフローラの回復能力の高さを重要情報として記録されていたら、もしかしたら気付けていたのかも知れない。

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