第81話
「で? その女の目的ってのは何だったんだよ?」
氷雨の話を聞いていたシュレフォルンは待ちきれないとでも言いたげだ。そんな彼の質問に答えたのは意外にもレギュラオンであった。ヒソヒソと話していた訳でも無い為に氷雨がしていた話は全て彼女に筒抜けだったのだろう。
「自分は治療面でティナを超える來冥者であるという事実を証明したいから、か? もし違うなら聞かなかった事にしてくれ」
「……! な、何故それをあなたが……」
その場に居なかったレギュラオンが見事言い当てたのだ。氷雨は思わず顔と視線を二人からレギュラオンの方へと向け、驚きの声を上げる。
「話を聞く限りそうかも知れないと思っただけだ。それほどの回復力を発揮できる可能性がある來冥者など、私の知る限りこの世には一人しか居ないからな。もっとも、ティナを光と呼ぶのであればそいつは闇のような存在だ。ティナはこの世界においては夢ノ籠のトップであり、全世界から見ればWPUの一人……まさに希望の光だろうな。対してその女は実力だけで見ればティナ以上とされているが、その実、ティナとは真逆の……闇の道を歩む者だ」
この口振りから察するにシアを治した修道服女の事をレギュラオンはよく知っていそうだ。ティナの仲間であるが故に彼女を取り巻く環境や、ライバル視している人間の事を把握していると考えれば納得もいく。
だが実際のところ修道服女が何者なのか。結局正体までは知れなかった氷雨は、なるべく意識して冷静さを保ちながらレギュラオンに言葉を投げ掛けた。
「随分と詳しいみたいですね。シアさんを救った修道服姿の女性について」
「少なくともお前たちよりはその女に関する情報を持ち合わせているだけに過ぎない。最初は確信が無かったが、ティナに対して強烈なライバル心を抱いている所を見るに間違い無いだろうな」
「レギュラオンさん。あんたは知ってるのか? 修道服の女の正体を。さっきティナさんとは逆の道を歩いている闇のような存在って言ってただろ」
シュレフォルンの問いにレギュラオンは仕事の手を休める事なく彼の質問に答えてみせた。
「……『フローラ』。それが彼女の名前だ」
「「「ッ!」」」
レギュラオンが口にしたその來冥者の名前に、三人は過剰に反応する。
だが当然と言えば当然の反応だ。一般人は知らない名前だが、WPUに所属している彼らは仮に会った事が無くとも名前くらいは把握しているものなのだ。
やがてシアが震えた声で言葉を発する。自分を治療した來冥者が何者なのか、そしてその時いかに自分と氷雨に危険が迫っていたのかを理解してしまったからだ。
「界庭羅船の……一人……!」
「ああ。その通りだな」
シアとは対照的にレギュラオンは落ち着いている。現場に居合わせたか否かは恐らく関係なく、彼女にはそもそも恐怖という概念が存在しないのだろう。
界庭羅船のメンバーを前にしてもこの態度が崩れる事は無さそうだ。そんな強心臓と麻痺した感覚を持っているが故にこの世界でもWPUでもトップになれたのかも知れない。
「冷静に考えれば分かる事だ。來冥者が能力を使って行う治療は、本人の來冥力をそのまま治癒量へと変換する仕組みだ。正確にはその者が扱う回復性能の高さも関わってくるが、今は置いておく。その事実を踏まえた上で、シアが負ったレベルのダメージを癒やせるほどの回復力を持っているとはどういう事か考えてみると良い。それはつまりティナを凌駕する來冥力である事と同義だ。WPUの『黎園』……このチームの一人を超える存在となれば、そうは居ないだろう?」
一人しか居ないと断言しなかったのは世界の広さをレギュラオンが熟知しているからだ。
把握していないだけで実際は存在しているかも知れない可能性を否定できない以上、数は限られてくるという表現になってしまう。
だがそうであるならば何故レギュラオンは修道服女をフローラと決めつけたのか。その最大たる根拠が、ティナにライバル心を抱いているという事実だった。
「そんな中ティナに……いや、正確にはティナの治癒力に対して対抗心を燃やしている存在……それも界庭羅船が居たその場にタイミング良く現れる事が可能であり、正体を決して明かそうとしない來冥者となれば、その候補はもう一人しか居ない」




