第74話
氷雨はその時の事を思い出しながらテトラに質問をした。彼女がリバーシ加入試験に参加している以上、既にゲーテと接触している可能性は確かにあった。ゲーテの名前を把握していて過剰反応を示したところから察するに、間違いなくゲーテと知り合いになっているのだろうと氷雨は予想した。
「伝えた時はあなた、一旦は私の話を全部聞こうと切り替えて、話の続きを促しましたよね。こちらから伝える事は全てお話ししましたし、ゲーテの事含め、今度はそちらの状況を聞かせてください」
「うん。良いよ」
そう言うとテトラは今日一日の出来事を氷雨に話す。司と出会い、彼と行動を共にしている事、自身の目的や世界地図について教えた事、カジノに参加した事、そのカジノの中でゲーテと知り合い、彼とポーカー対決をした事など、時系列に沿って細かく伝えた。
「なるほど、そういう事ですか。聞いた限り今のところは本当にただのエンペル・ギア職員として動いているって感じですね。シュレくんの言う通り、こちらから何かアクションを起こさない限りはレイクネスも護衛行動を取る事は無いと思うので、警戒されないように注意してください。WPUの人間が参加しているとバレたら、もしかしたら自分を捕まえに来たのか、と勘違いされても不思議ではありませんので」
「その点については理解してるから大丈夫だよ。司くんを危険な目に遭わせる訳にもいかないしね。情報共有ありがと、氷雨さん。……それにしても、やっぱりレイクネスについては気になるかな」
そう言いながらテトラは空中に手を翳し、ピンチアウトするかのように指を広げた。すると空中に画像や文字が浮かび上がり、彼女はそれらに目を通す。
一人の女性の三面図画像と、その女性について説明している文章で構成されたデータであった。
「今改めてレイクネスに関する情報を見てるけど……えっと、うん……今のところレイクネスらしき人には会ってないね。こんな人見かけなかったし常に一緒に行動してる訳では無いみたい」
テトラの口振りからするに今浮かび上がっている女性こそレイクネスなのだろう。
年齢は25歳で、身長は約170センチ、髪は黄土色のオールバックポニーテールとなっている。
狂気が宿ったつり目にニヤリと不敵に微笑むその表情からは、どこかサディスティックな雰囲気が漂っていた。返り血が似合いそうと誰かが言えば、思わず納得してしまいそうである。
姿勢もよくスラッとした良いスタイルだ。大分化粧に気合いが入っており、多くの人はそのスタイルの良さよりも厚化粧に注目してしまうだろう。
「そうですか。とにかくシアさんの件が落ち着いたら、私たちもゲーテとレイクネスの方へと注力します。もう一度念を押しますが、くれぐれも注意してください」
「分かってるって。ゲーテさん……ううん……裏ではもう『さん付け』しなくても良いよね……ゲーテとその周囲への警戒はしておくから、安心して。氷雨さんはシアちゃんの事だけとにかく考えておけば良いから」
「……はい。本当に気を付けてくださいね。それでは。何かあったらお互いまた連絡を取り合いましょう」
「うん。またね。おやすみ」
「おやすみなさい」
こうして二人は通話を切った。
テトラは通話後も空中に浮かぶレイクネスの情報を見ていた。WPU内で共有されているであろうそれは、限られた人だけが知り得る内容だ。
いかにも拷問をする事が好きそうなレイクネスの勝ち気な瞳と目が合ったテトラは、それだけで身震いしてしまった。ただの画像上のレイクネスの視線とは言え、その狂気的な眼差しは見ていて気持ちの良いものではない。
目の前にしている訳では無いのにこの不快感と迫力を感じるのだから、実際に会った時のプレッシャーは半端無いだろう。
「……レイクネスが、ゲーテの護衛役を……。いざとなったら、私が司くんや他の参加者の事を守らないと……!」
WPUの一人としての責任感を強く感じたテトラは、そんな決意を固め、その日は眠りについた。レイクネスの存在を知った今、落ち着いて休めるか不安だったテトラだが、体は疲れていたのかベッドに横になるとすぐに睡魔が襲い掛かり、すぐに夢の世界へと落ちたのだった。




