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第70話

 ハイテンションな九尾猫に対し、クオリネは変わらず無表情を貫いていた。


 灼熱の太陽が極寒の吹雪と強風の中突き進んでいく。そんな状況下でクオリネはその場から一歩も動かない。ただ黙って自身に迫る太陽を見つめていた。


 もしも天から急スピードでこの太陽が落下して地面に衝突したら、半径数十キロという領域が一瞬にして消える事だろう。そのレベルのエネルギーと破壊力を秘めた炎の凝縮体を、クオリネ一人に対して命中させようとしているのだ。


 人一人に対して放つにはあまりにも規模が大きいその攻撃に対し、クオリネはどう対処するのか。


 九尾猫も言っていたが、さすがのクオリネもこれに直撃したら無傷では済まないかも知れない。しかしクオリネの冷静沈着な様子は、その認識は誤ったものなのかと思わせてくる。


「九尾猫ちゃん。さっき私の表情を崩してあげるって言ってたよね? せっかくだから、あなたに一つだけ教えてあげる」


 ようやくクオリネは喋るという黙って見つめる以外の行動を取った訳だが、周囲に響き渡っている轟音のせいで彼女の声は九尾猫には届かなかった。


 しかしそれでもクオリネは気にせず続きの言葉を口にする。


「私のこの表情に動揺や焦りの色を浮かべさせたいんだったら、その程度の火力じゃお話にならないよ」


 そう言ったクオリネは左手を前に出し、手の甲を上に向ける。すると彼女の手の甲に浮かんでいる氷の花と全く同じ物体が、同じサイズで手の甲から浮遊するように出現し、やがてそれはクオリネの顔の前まで移動する。


 ハスの花を氷で作った時のようであり、普通に芸術作品として飾っても違和感がないくらいの美しい代物だった。


「……」


 クオリネはその手のひらサイズの小さな氷の花を見つめると、ふーっと息を吐いた。その息が氷の花に当たると、まるでそよ風に乗ったかのようにゆっくりと前方へと移動し始める。


「 (……? クオリネの奴、何してるの?) 」


 太陽の神々しい光の中でもそれと同じくらいの水色の光を纏っていた氷の花は、十分視認可能だったようだ。


 九尾猫は訝しげな表情で成り行きを見守る。


「 (この太陽のような炎のエネルギー凝縮体に、あんなちっちゃな氷の花で勝負する気なの?) 」


 どう見ても勝負になる訳がない。一瞬で溶かし、そのままクオリネをも飲み込んでやろうと思った九尾猫だったが、その展開が訪れる事は無かった。


 クオリネが優しく放った小さな氷の花が、炎と触れたその瞬間。


 鼓膜が破れそうなほどの爆音と共に規格外の規模で水蒸気爆発が発生したのだ。


「――ッ!」


 さすがの九尾猫も一瞬で広がったその爆発を回避するスピードは持ち合わせておらず、そのまま巻き込まれてしまった。


 九尾猫が切り札の如く作り出した太陽のような炎に対し、クオリネが放ったのはとても小さな氷の花。あの花に巨大な炎塊を上回る冷却力と來冥力が集約されていたと考えると、クオリネと九尾猫の実力差が今日もっとも顕著に表れた衝突だったと言える。


 彼女が本気を出して巨大な氷の花を作ろうものなら、世界そのものを氷の世界へ変える事だって可能なのかも知れない。


 発生した水蒸気爆発はこの辺一帯をいとも簡単に消し去り、更地になってしまった。


 九尾猫は全身に襲い掛かる焼けるような激痛と共に爆発の衝撃で吹き飛ばされ、先ほどの場所から数百メートルは離れてしまった。あの衝撃を受けてその程度の距離で済んでいるのは十分化け物だが、残念ながらクオリネが相手ではその凄さも霞んでしまう。

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