第69話
その瞬間、クオリネの剣に集まっていた青白い光が彼女を中心として球状に広がり、九尾猫が生み出した炎の塊を凍結させた。
炎を凍結させるというのもおかしな話だが、氷塊の中で橙色の炎が淡く、そして儚く光を発している光景を目の当たりにすれば、それが最も適切な表現である事が窺える。
「……は……?」
何が起こったのか理解が追い付かない九尾猫だが、彼女が目の前で起こった現象を理解するよりも早く、彼女自身にも襲い掛かった冷気が一瞬にしてその体を凍らせた。
九尾猫、そして炎の塊が氷の中に閉じ込められた後、それらは重力に逆らう事なく落下し、氷塊が大きな音を立てて氷の床に衝突した。
「あれしきの炎、私が凍らせられないと思った? 九尾猫ちゃん」
驚愕の表情のまま氷漬けにされている九尾猫を見ながら、クオリネはいつもの無感情な声を出す。
「さてと。これからどうしようかな。ゲーテさんの護衛はレイクネスの仕事だし、取り敢えずこの世界にはもう用は無いから……」
世界地図を用いて別世界へと転移しようとしたクオリネだったが、彼女のその思考は突如として鳴り響いた音によって、強制的に中断される事になった。
「ん?」
何事かと思って振り返ると、体の熱でクオリネの氷を内側から破壊したであろう九尾猫が、満身創痍といった様子でクオリネを睨みつけていた。
先ほどの音は氷が破壊された時の音だったのだろう。
「はぁ……はぁ……これしきの氷で……ぜぇ……はぁ……私を凍らせ続けられると思ったの? クオリネちゃん」
偶然か聞こえていたのかは不明だが、クオリネと似たような言葉で九尾猫は言った。
「……」
九尾猫を見たクオリネの目は、どこか憐みの要素を含んでいた。
「しつこいね、あなた」
「あなたに勝てるなんて思ってない。でも、それでも、絶対に一矢報いてやるから」
「ふぅん。立派で無意味な心意気だね。それは何? 原異生物としてのプライドかな」
「そうだよ。どんなに劣勢でも最後まで牙を向けるのが原異生物だからね!」
体力と來冥力はまだ底をついていない。限界が来ていない限り、何度でも立ち上がって交戦するのが原異生物という生き物だ。
九尾猫は信念とプライドを原動力にし、クオリネに向かって駆け出す。
「……」
そんな九尾猫を見つめたクオリネは剣を構えた。
「ハァァァァァァッ!」
叫びと共に九尾猫はクオリネの手前で跳躍し、彼女の斜め前の位置でピタリと動きを止めた。
九尾猫は先ほどと同じく九つの尻尾を駆使して九つの炎の塊を作り出す。だが今回はもう一段階上の攻撃手段を取った。
隕石を彷彿とさせる炎の塊は九尾猫の頭上へと吸引されるかのように集まっていく。一つ合わさるごとにその大きさと温度、そして凝縮されるエネルギー量は上昇し、最終的に大きな太陽を形成させた。
周囲を灰燼に帰す圧倒的な來冥力の熱波によって、何とクオリネが作り上げた巨大な氷部屋を破壊する事に成功した。これでまだ宙に浮かんでいるだけなのだから、あれが直撃したらどれ程の破壊力が発生するか想像に難くない。
今は夜だと言うのにこの一帯は橙色の光で照らされ、打ち上げ花火を間近で見ているかのようだ。
間違いなく九尾猫にとっては今日一番の大技である事が窺える。
やがて九尾猫は太陽の背面へと移動し、体を半回転させながら尻尾を勢いよく太陽へと当て、クオリネへ向かって投げ飛ばす。
「さすがのあなたでも! これが直撃したらタダじゃ済まないでしょ!」
「……」
「もう、リアクションくらいしてよ! ……まぁ良いや……そのクールなすまし顔、今すぐ崩してあげるから!」




