第66話
クオリネは片手で持っている剣一本で体長三メートルはある九尾猫の頭突きを受け止めていた。九尾猫がどれだけ力を込めて押し切ろうとしても、剣もクオリネも全く動かず、大岩を前にしているかのようだ。
正面からの突破は不可能と判断した九尾猫は一度身を引き、クオリネと距離を取る。
そして最初の攻撃と同じ速度で縦横無尽に動き回りながら移動し、クオリネを翻弄しながら彼女に近付く。
完全にガラ空きとなっているクオリネの背中を視界に捉えた九尾猫は、前足を豪快に振り上げ、彼女の体を切り裂く勢いで爪による引っ搔き攻撃を繰り出した。
だがクオリネはわざと隙があるかのように振る舞っていたのだろう。
彼女はあまりにも完璧なタイミングで振り向きながら剣を真横に一閃――綺麗な水色の巨大斬撃を一つ放った。
「……ッ!」
回避が間に合わなかった九尾猫は、その斬撃を正面から食らってしまい、そのまま後方へと吹き飛ばされ氷の壁に激突してしまった。
立ち上がろうとした九尾猫だが、まるで長時間正座後の足のように上手く力が入らずよろけそうになった。たった一発受けただけではあるが、攻撃の重さは尋常ではない。
「……」
クオリネはそんな九尾猫に対し、無言状態のまま急接近する。それに気付いた九尾猫はダメージの大きさに悶える余裕など無い事を悟り、九尾の一つ一つを長く伸ばし、そして巨大化させた。
極太の鞭のようになった九尾の先端をクオリネに向けた九尾猫は、それらを一気に伸ばす事で、自身が動かずとも攻撃が行えるという状況を作り出す。
まるで本当に鞭を振るっているかのような動きを再現し、彼女に向かっている尻尾一つ一つを自由自在に操る事は容易いのだろうと思わせてくる。
それでもクオリネの表情は一切変わらない。どんな攻撃も無駄だと言わんばかりに、剣に宿る冷気と來冥力を増大させた。
その後行われたのは九尾と剣が火花を散らす攻防だった。100を超える回数で激突しているにも拘らず両者の攻撃は一切止む事を知らない。
基本的に今攻撃側にまわっているのは九尾猫の方であり、クオリネは全ての攻撃をいなす防御側に徹している。
九つの尻尾の全てを本気の速度で振り回し続けているにも拘らず、クオリネが余裕そうに対処していく事に九尾猫のイライラが募った時だ。
「~~~っ……こんっの……鉄仮面美人がぁ!」
褒めているのか悪口なのか判断がつかない言葉を吐いた九尾猫は、全ての尻尾を自身とクオリネの間の中間地点真上に一度集めた。そしてそれらを合体させる事で、巨大なドリル型の尻尾を一つ完成させる。
「また随分と大きなの作ったね」
回転しながらクオリネに向かったそれは、発射されたと表現した方が良いだろう。九尾猫が尻尾を伸ばしたその瞬間、銃口から放たれた弾丸の如く目にも止まらぬ速度でみるみる距離を詰めていく。
「貫通力と威力は確かに高いね。でも……」
クオリネは剣を持っていない左手を前にスッと出し、水色の光を集約させていく。その直後、巨大な一つの尻尾が彼女の手に命中した確かな手応えを九尾猫は感じた。
だが。
「残念。私には効かないから」
クオリネは九尾猫のその攻撃を片手で受け止める事に成功していたのだ。更に手に集約していた水色の光が九尾猫の尻尾を包み込むように急速に広がっていく。
「……!」
気付いた時にはもう遅かった。九尾猫の尻尾は合体した状態を維持したまま、一瞬で凍結した。光が包み込んだのは尻尾だけの為、他部位は問題無いが、九尾を封じられてしまう事は実質武器を封じられたようなものである。状況は最悪と言って良い。
「10秒あげる。この氷、溶かせられるものならどうぞー」




