第63話
リバーシ加入試験会場に界庭羅船の一人が居る。それはつまり司とテトラだけでなく多くの一般人の身が危険に晒されている事を意味していた。
確かにレイクネスは界庭羅船の中では最下位の実力ではあるが、それでも全世界最強の組織に属している來冥者である事に変わりはない。
いくら最下位とは言え、そんなものは化け物の中で比較した時限定の話であり、安心する要素は一切無いのだ。
クオリネから情報を共有してもらってから数秒後、ようやく脳が認識し始めたのかシュレフォルンが口を開いた。
「リバーシ試験会場にレイクネスが……? それも何時間も前に、だと?」
「うん」
動揺一色といった様子のシュレフォルンに対して、クオリネは眉一つ動かさない。
「……! こうしちゃいられません! その場所には、つ……」
思わず氷雨は司の名前を、そしてそのまま続けてテトラの名前を出そうとしたが、その事を察したシアは余計な情報が伝わる前にと彼女の声に被せる。
「シュレくん! ひぃちゃん! 早く行こ! 一般人を危険な目に遭わせる訳にはいかないよ!」
そう言ったシアは氷雨と目を合わせた後に小さく首を横に振った。彼女のその動作とわざとらしく大きな声で言葉を発した事から、氷雨は自分が失言しそうになった事に気付いた。そしてシアが素早くフォローしてくれた事も。
「 (……今私は思わず司くんの事やテトラさんの事を口走りそうになりましたけど、シアさんのおかげでどうやらクオリネには伝わらずに済んだようですね。彼女には感謝しなければ……) 」
「ああ! 分かってる! 行くぞ、二人と……。……!?」
振り返って氷雨とシアを見たシュレフォルンが最後まで言い終わる前に、彼は強烈な寒気を覚えた。これは恐怖や不安などの負の感情からくるものではない。
冷気や低温などの、物理的な寒さによるシンプルな寒気であった。
その気温変化は何故起こったのか。聞くまでも無い。異次元の來冥力で環境そのものを変化させる事も可能なクオリネが來冥力を解放して戦闘態勢に入っていたからだ。
アイスブルーのドレスにフィッシュテールスカート、頭に被っている小さなティアラ、両手の甲に浮かび上がっている刺青のような水色の氷の花。そして右手に握られているのは、莫大な來冥力が冷気として宿っている片手剣。
司を瞬殺した時と同じ容姿のクオリネが、そこには居た。
「界庭羅船はね、基本的に理由が無い限り戦闘や殺しはしない主義なんだよ。じゃあその理由って何か知ってる? それはね……仕事の邪魔が入る時と入りそうな時だよ」
そう言ったクオリネは剣を持っていない方の左手で指鳴らしをした。
その瞬間、彼女たちが居るこの場所を囲うように、氷でできた壁と天井が一瞬で形成されたのだ。
それだけではない。地面もスケートリンクのように凍りつき、まるで溶解不可能の巨大な氷の箱の中に閉じ込められたかのようだった。
試さずとも分かる。この氷はクオリネの來冥力を元にして作られたものであり、シュレフォルンたちの力で突破する事は無理であると。
「レイクネスの所に行くつもりなら、私が全力で止めるよ。だから彼女の居場所を質問された時に言ったのに。本当に聞きたい? って。今更後悔しても遅いからね」
「……っ……クソ……!」
「 (まずいですね……。クオリネの來冥力の影響を受けて世界地図も使用不可になってますし、彼女をどうにかしないと、レイクネスの元には辿り着けないという事ですか……) 」
焦っても何も良い事は生まれない。その事を先ほど失言しかけた件から改めて学んだ氷雨は、冷静に状況を確認していた。
ダメ元で世界地図による転移を試みたが、予想通り世界地図は応答しなかった。
司が世界地図の仕様をテトラから教えてもらった時にも出てきた話だが、世界地図は所有者よりも強い來冥力を感知した場合、障害を引き起こして一切の機能が使えなくなる。
クオリネの來冥力は彼らのそれを遥かに凌駕するのだ。必然、彼女が來冥力を解放すれば氷雨たちが所有している世界地図はただのガラクタ化としてしまうのである。




