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第61話

 年齢は20代前半ほどの茶髪の男性だった。パーカーにジーパンという出で立ちで、フードを被っている。ニコニコと笑みを浮かべているがどうも胡散臭い。この笑顔を簡単に信じてしまったら酷い目に遭いそうな、そんな雰囲気を醸し出していた。




 そう。そこに映っていたのは、紛れもなくゲーテであった。




「この人の事知ってる?」


「……? いや、知らないな。話の流れからシャックスのボスでも映し出してくれるのかと思ったが、確かシャックスのボスは70代のジジイだったはずだから違うしよ。氷雨とシアは知ってるか? この男」


「いえ。こんな胡散臭い男性に心当たりはありませんね」


「私も! て言うか何か売人やってそう」


 本人が居ないのを良い事に言いたい放題である。


 三人の反応を見たクオリネはどこか納得したような感じになり、続けて話した。


「さすがのWPUでも、自分たちの担当犯罪者以外の情報にはそこまで精通してないんだね。それなら教えてあげるよ。この人の名前はゲーテ。さっきから話題に出している密輸組織『シャックス』のナンバー2にして、次期ボスとされている男性だよ」


 この発言を司とテトラが聞いたら驚愕で硬直する事だろう。いや、それどころかゲーテがリバーシ加入試験における内通者である事を考えると、彼は自分が異世界人である事や本当の所属組織を偽り、エンペル・ギアすらも騙している事になる。


 ゲーテの事を知っている者ならば驚きの反応をする場面だが、生憎彼らはシャックスの担当チームではない。シャックスの構成員で知っているのはせいぜいボスくらいであり、右腕までは把握していなかったと見える。


 シャックスの担当チームから仕事を引き継いだシュレフォルンたちですらゲーテの事を把握していないのだ。テトラがゲーテに会った時に何の反応も示さなかったのは当然の事なのだろう。


 クオリネからゲーテの事を聞かされても、シュレフォルンのリアクションは薄いものであった。正直この男がどう話に絡んでくるのか全く分からなかったからだ。


「へぇ。そいつがシャックスの次期ボス様ねぇ。随分と若い奴がその席に座るんだな。そんで? その男がどうしたよ。今回の界庭羅船の依頼人は、そのゲーテじゃなくて現ボスのジジイの方だろ? 何でわざわざゲーテの方を話題に出したんだ?」


 シュレフォルンの疑問はもっともである。ゲーテがシャックスの次期ボスであろうと、界庭羅船に依頼した護衛対象は現ボスの方だ。界庭羅船からすれば果てしなくどうでも良い存在であるはずなのだが、クオリネの様子から察するにその認識は誤っているという事なのだろうか。


 自分の認識に相違がある感覚を覚えたシュレフォルンは、クオリネの話を聞き逃すまいと、より真剣に耳を傾ける。


「あなたたちは一つ勘違いをしているかもね。確かに私たちに依頼をして、実際に巨額のお金を払ったのは今のボスだよ。でもね……護衛対象は違う」


 その言葉でようやくピンと来たのか氷雨が口を開いた。


「なるほど。自分はもう若くない……引退時かも知れないと考えたシャックスのボスは、予定よりも早くその座をゲーテに渡す事にした。そして蓄えたお金の一部を自分にではなく次期ボスであるゲーテの為に使った。シャックスの未来の事を考えて。……そういう事ですよね? つまりあなた方の今回の護衛対象はゲーテの方という事です」


「ピンポーン……せぇーかーいでーす。仕事を引き継がせるのは良いけど、情報は正確に伝えなきゃダメだよね。あなたたちのお仲間さんも」


 半ばバカにしているような物言いだが、今はそんな事にいちいち腹を立てている場合ではない。そう思った氷雨は冷静に言葉を並べる。


「私たちに責める気は微塵もありませんよ。実際にあなた方と取り引きをしたのがボスの方であれば、護衛対象もそのままボスの方だとストレートに考えてしまうのは普通でしょう。そんな事よりも、そのゲーテという男性は今どこです? レイクネスがこの場に居ない事を考えると、恐らく彼の護衛を担当しているのでしょう」


「そだね。レイクネスはどこに居るんだ~って話だったけど、これはゲーテの居場所特定で解決しそう!」


 氷雨とシアの言葉に、クオリネは表情こそ無そのものであるが、口調だけは楽しそうに返した。

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