第60話
「おいクオリネ。お前も察しの通り、俺らはお前らがこの世界に居ると聞いて探りを入れに来た訳だ。取り敢えず聞きたいんだが、レイクネスはどこ行った?」
「……」
その質問にクオリネは口を閉じ、少しだけ考えるような素振りを見せる。元々何を考えているのか全く読めない鉄仮面女だ。いくら凝視したところで彼女の脳内を考察するのは不可能であり、シュレフォルンたちはクオリネが口を再び開くのを大人しく待った。
まるで西部劇の早撃ち決闘勝負かのような沈黙と緊張が場を支配する。
やがてクオリネは話しても良いかと思ったのか、ようやくシュレフォルンたちとの会話を続けるべく話し始めた。
「あなたの質問に答える前に一つ良い?」
「何だ?」
「今回の私たちの依頼人は誰なのか、知ってる?」
「は?」
想定外の返しに、シュレフォルンは素っ頓狂な声が出た。
レイクネスに関してストレートな回答をすぐ得られるとは思っていなかったが、こんなにも関係無い話をしてくるとは思っていなかったのだ。
だが最終的にレイクネスの話に帰結するのであれば、ここは余計な事を考えず彼女との会話を進める事が賢明だろう。
「その質問に答えるのは簡単ですね」
クオリネの問い掛けに一番早く答えたのは氷雨だった。彼女の落ち着いたその回答にクオリネは意外そうな声を上げる。
「ふーん。やっぱり知ってるんだ」
「当然です。まず大前提となる情報をお伝えしましょうか。本来WPUは界庭羅船専門組織ではありません。あなた方以外にも、各世界が協力して追っている犯罪者や組織は存在するのです。そしてこの世界にはとある密輸組織が来ていました。元々は『ヴァルハリア』という世界を拠点に活動していたウジ虫どもですが、近頃は世界地図を入手したのか、異世界転移を活用して色んな世界に仲間を配置し、その活動の幅を大きく広げているようですね。ヴァルハリアの力だけではどうしようもないレベルになってしまい、WPUが動き出した……という事です」
「その密輸組織の名前……聞かせてもらっても良いかな」
「『シャックス』……それが密輸組織の名前です。そしてシャックスのボスこそ、今回のあなた方の依頼人でしょう。シャックスを追っているWPUの仲間から共有がありましたよ。この世界で偶然にもクオリネ、そしてレイクネスと取り引きをしている所を見たと」
「界庭羅船が絡むんなら俺らの出番って事で、この世界に来たんだよ。俺らのチームのメイン担当は界庭羅船なんでね」
氷雨の後にシュレフォルンが続けて話す。
WPUは各チームにメインで担当する犯罪者や組織が割り当てられている。今回の件は元を辿ればシャックスの案件だったが、ボスが界庭羅船に護衛依頼をしたその瞬間、界庭羅船の問題へと切り替わった訳だ。
その結果、仲間から情報を共有されたシュレフォルンたちがセレーナへやって来たという経緯である。
「私たちは仕事を引き継いでこの世界に来た訳です。……それで? 私たちはあなたの質問に答えました。あなた方の今回の依頼人は密輸組織『シャックス』のボスであると。今度はあなたの番です。彼が先ほどした質問――レイクネスはどこに行ったのか。こちらについて答えてもらいましょうか」
「……。本当に分からない?」
挑発的なクオリネを前にシアが少しイラついた様子で言葉を返した。
「あのさぁ。こっちは分からないから訊いてるの。ウダウダ言ってないで早く答えてくれると助かるな~。それとも何? 時間稼ぎのつもり? そういうのって小物がする事だよ」
「……そう。本当に分からないんだ。なら教えてあげる。まずはこれを見て」
クオリネはそう言うと右手を前に出し、手の平を上に向けて五指を少しだけ曲げる。すると彼女の手の平から逆三角形型の光がプロジェクタ―のように発せられ、一人の男を空中に映し出した。
これも異世界の技術というやつだろう。数多の世界に触れて来たシュレフォルンたちは特に驚く事もなく映し出された男性を凝視する。




