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第59話

 シアと彼女の友達が原異生物の世界から脱出できた背景がクオリネの話の通りなら、界庭羅船の敵組織となるWPUに入ったシアは別として、友達の方の情報は焔帝竜が知る手段は無いだろう。


 いかに界庭羅船と言えど、無数に存在する数多の異世界のどこにその後身を置く事にしたかなど把握するのは不可能だ。焔帝竜と彼の支配世界からの逃亡後、シアの友達がどこに居てどんな姿で生活しているか、彼らは一切知らないのである。


「その子の話は今は良いよ。て言うかさ……いつまで吐き気を催す話題で会話続ける気なの? 私の大切な仲間や友達同士となら良いけど、焔帝竜の仲間……それも界庭羅船の一人とこれ以上原異生物時代の事について話したくなんかないんだけど?」


「分かった。そういう事なら、あなたたちがしたいと思ってそうな話でもする?」


 ここで原異生物やシアの過去に関する話は終わりを告げたが、話題が変わっただけで息の詰まりそうな話はまだ続きそうだという事をクオリネが口にした発言で彼らは思い知る事になった。


「この世界に、そしてこの場所に何しに来たの? 私が居る場所にぞろぞろとWPUの人間が三人も。こんな偶然あるんだね」


 彼女の質問にこれまで黙っていたシュレフォルンが三人を代表して答えようとした。


「白々しいな。いちいち話さないと分からない訳じゃないだろう?」


「んー? 分からないよ。まさかとは思うけれど、界庭羅船がここに居るって情報を得て調査に出向いた……とかじゃないよね? 頭も良いWPUの人たちが、そんなバカな行動に出る訳無いもんね? だってもしも気付かれて戦闘に発展したら最悪死ぬかも知れないんだし。わざわざ死ぬ為にこの世界に来るなんて有り得ないし、だから訊いたの。この世界に、そしてこの場所に何しに来たの? って」


 クオリネの凍てつくような冷たい目がシュレフォルンを射抜いた。


 人とは思えないほどに感情を感じさせない声と表情によるそのセリフは、思わず寒気が走る。WPUの人間を三人まとめて相手にしても、自分が負ける事は絶対に無いと確信しているかのようだ。


 これまでの経験と來冥者としての自信がその発言を生み出しているであろう事を考えると、戦う前から結果は見えているような気がした。特に彼女の場合、それが強がりでも何でもない事をシュレフォルンたちはよく知っている。


 界庭羅船ナンバー2である焔帝竜に次ぐ実力の持ち主なのだ。確実に勝てる盤面を前にし、余裕のある態度で相手に接する事ができるのは強者に許された特権と言える。


「 (このクソガキ……) 随分とナメた事言ってくれるじゃねぇか。俺らがここに来た目的分かった上で言ってるんだろ、それ」


「あー、バレた?」


「……。シュレくん。シアさん。こんな低俗な言葉使うのは憚られるんですけど」


「どしたのひぃちゃん」


「凄いムカつきます。この子」


 心の底からWPUの事をバカにしている事が伝わったのか、氷雨はクオリネを睨みながら言った。氷雨は本職こそ研究者であるが、WPUとしての自分や組織自体にも誇りを抱いて活動しているのだ。


 界庭羅船との実力差を重々承知していたとしても、ここまで下に見られては怒りの感情がさすがに勝る。


 普段は冷静に言葉を並べる氷雨が、語彙力皆無の言葉を口にした事が余程珍しかったのか、そんな彼女の様子にシアは思わず吹き出した。


「ぷっ。ふふ……めっずらしい~! ひぃちゃんがそんな事言うなんて!」


「ああ。でもその気持ちはお前も同じだろ?」


「まぁねっ!」


 シュレフォルンの質問にシアはウインクで返した。


 クオリネに対して思う事は一緒だという実感が湧いた瞬間である。

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