第56話
司がテトラの事を仲間であると同時に超えたいライバルだと認識してから数時間が経過した頃。
セレーナ内のとある場所にシュレフォルン、氷雨、シアの三人は訪れていた。
そこは人の気配が全く感じられない荒廃した街であった。地面には雑草が生い茂り、誰も手入れしていない事が窺える。周囲にはボロボロの廃墟や築何十年を感じさせる古びた建物が目に止まり、好き好んで来る場所のようには到底見えない。
まさにゴーストタウンと呼ぶに相応しい景観だ。すっかり夜になっているせいか雰囲気も完全にそれであり、肝試しにはうってつけと言えるだろう。
「この辺か? クオリネとレイクネスの目撃情報があった場所は」
「そのはずです。 (正直こういう場所は苦手ですが、仕事なので我慢しましょう) 」
「寂しい場所だね。て言うかお化けとか出そう! ひぃちゃん~私怖いからくっ付いてもいーい?」
「あなた幽霊の類とか苦手でしたっけ?」
「そりゃあもう! 私だって怖いものの一つや二つあるし~? ねぇ~良いでしょ?」
「仕方ありませんね、あなたは」
「やった! ありがと~ひぃちゃん!」
そう言ってシアは氷雨にくっ付き、そのまま腕を組んだ。まるでカップルのようだ。
「 (氷雨がこういう場所苦手なの知ってるから、シアの奴自分からくっ付きに行って少しでも安心させようとしてるな。こういう優しい所があるから、氷雨も何だかんだ言いつつシアの事を嫌いになれないんだろうな) 」
サングラスを外してそのまま頭に掛けたシュレフォルンは、側でイチャついている二人の女性を微笑ましそうに一瞥した。
シアの気持ちには絶対気付いているであろう氷雨は、彼女の優しさを素直に受け取っている。普段はシアに対して毒を吐く彼女だが、たまにこうして甘えたりする一面を見せ、そんな所がシアは好きだったりする。
「ひぃちゃん、良い匂いする~。……ところで香水変えた?」
「私が使っていた香水の香りを覚えられていた点には少し恐怖を覚えますが、まぁ変えましたよ。やっすいの使ってたんですけど、研究者仲間にもっと良いの使ったらって言われましてね……」
「『氷雨さん美人だしもっと良いの使った方良いよ』って言われたんでしょ?」
「な、何故それを。あなたとはWPUの活動時くらいしか行動を共にしていないでしょう」
「適当に言っただけなのに当たっちゃった。やっぱりひぃちゃんに対して思う事はみんなおんなじって事だね」
一人で勝手に納得しているシアは今がWPUの仕事中である事を忘れているかのようだ。
誰がどう見てもこの場の雰囲気に怖がっている様子はなく、寧ろ氷雨に密着できる言い訳ができてラッキーくらいに見える。
そんな彼女を見ていると、周囲の様子に若干の抵抗感を覚えていた自分がどこかバカらしくなってしまう。
「 (本当に不思議ですね、彼女は。気が付いたら心が安らいでいるんですから。こうして彼女と触れ合って、体温を感じ、優しさを知り、普通に会話していると忘れそうになります。彼女が私たちとは違う生命体であると……) 」
リバーシ加入試験前の司の緊張を解した時の事が頭を過り、氷雨は嫌でもシアの正体について考えてしまった。
『えー? それって私が特別って事かな? も~ひぃちゃん、可愛い所あるじゃん! あ、原異生物のシアでーす! へぇ~結構可愛い男の子じゃん! 後でお姉ちゃんとデートしない?』
彼女は司に自己紹介する時に思わず口にしてしまった。自分は原異生物であると。
「……」
「ん~~~」
まるで本物の猫のように氷雨に懐いているシアは、まさか氷雨が自分の事について思考を巡らせているなど夢にも思っていないだろう。




