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第54話

 どこか頼りなく、無防備なテトラは本当にシュレフォルンたちの仲間なのだろうかと少し疑っていたところがあった。


 だが彼女はプレイヤーDのレイズに対して乗るべきか降りるべきかの選択を考えながらも状況を正確に分析し、観察と推理も同時並行で進め、ゲーテのトリックと彼がプレイヤーDだけではなくエンペル・ギア側にも仲間が居た事まで明らかにさせた。


 それもこの僅かな時間で。


 司は自分と彼女の間に存在する確かな壁を感じたのだ。


「凄い……」


 思わず出たその言葉は無意識下によるものだった。心の底から思ったからこそ彼の意識とは無関係に口から出てしまったのだ。


「え? もう~司くん、今頃気付いたの? 遅いなぁまったく~」


 余程嬉しいのか、興奮したテトラは司の頭に手を置いてわしゃわしゃと撫で始めた。


「ちょ、や、止めてって。恥ずかしいよ」


「あ、ごめん。ついテンション上がっちゃって。 (司くん見てると何か弟ができたみたいで可愛いし、思わず愛でたくなっちゃうんだよね~) 」


「ふふふ。お見事です。テトラさん。いやはや参りましたね」


 小さく拍手をしたゲーテには、こんなにも早くバレた事に対する残念そうな様子は微塵も無かった。彼が口にした言葉通り、本当に祝福しているように見える。


「お。素直に認めるんだ?」


 また何かしらの反論をしてくると身構えていたテトラにとって、あっさり過ぎる彼の態度は拍子抜けするレベルであった。


「あなたの観察力と推理力は十分に証明されました。これ以上は不要です。私たちは次のターゲットを探しに行きますよ」


 そう言うとゲーテは席を立ち、去ろうとする。


「……! あ、う……そ、それじゃあ、お……じゃなくて、あたしも……し、失礼しますッ!」


 どこか落ち着いた様子のゲーテとは異なり、プレイヤーDの女性は逃げるようにその場から離れて行った。


 ゲーテと仲間である事を悟られたくないのか、常時一緒に行動はしていないみたいだ。


 今回のように偶然にも一緒の勝負席になった風を装っているのだろう。毎回ゲーテと同じ勝負席だとそれはそれで勘の良い参加者から疑われる可能性もある事を考えると、恐らく頻繁に同じ場での対決は避けているに違いない。


「え、えーと……?」


 いきなりゲーテとプレイヤーDの二人が勝負から離脱した事により、以降の進行はどうなるのか疑問だったテトラは目でディーラーに説明を求めた。


 彼女の視線に気付き、そして何を言いたいのか理解した男性ディーラーは微笑みながら言葉を発した。


「プレイヤーA、Dが途中離脱しましたので、彼らはフォールド扱いとなります。その結果、最後までフォールドしなかったテトラさんの一人勝ちとなります」


「え」


 状況が上手く呑み込めないテトラは簡潔なその一文字を口にして固まる。


 だが当人ではない司はテトラに比べると比較的まだ冷静なようで、最初に受けたポーカーのルールを思い出していた。


「 (あー、そんなルールあったな) 」


 ずばり重要なのは『一人を残して全員がフォールドした時、役関係無しにその者の一人勝ちである。その時点での全累積残高がその者に加算される』というルールだ。


 男性ディーラーの言う通り彼ら二人もフォールドした扱いになったのであれば、既に司がフォールド宣言している以上、このルールが適応されテトラの一人勝ちになったのである。


「ここまでの全累積残高はプリフロップの段階で四名が『10』ずつ、フロップの段階でプレイヤーAとDが『140』ずつ、あなたが『100』……つまり合計『420』の残高が加算されます。……はい、お二方のチップの反映が終わりました。ご確認を」


「え、本当? ……あ、ホントに増えてる! やったやった! 司くん、私やったよ! ほらほら! 勝負前の『150』と合わせて『570』! これはもう大勝ちだよ!」


 理路整然とゲーテに詰め寄っていたテトラの姿はもうなく、そこに居たのは無邪気に喜び、はしゃぐ少女が一人居るだけとなっていた。

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