第52話
テトラはその言葉を待ってましたと言わんばかりにテンション高めに言った。
「確かにカードの中身までは分からないよ。でもゲーテさんのカード透視トリックのタネなら分かったんだ。えっと、その内容的にゲーテさんは彼女の手札を知る事はできないはずなんだよ! でも私や司くんのは知る事ができる」
「……! ほぉ」
「 (まだ知り合って少ししか経ってないけど……初めて見た。ゲーテさんが動揺するところ……) 」
それだけテトラの発言はゲーテの心を揺さぶるレベルのものだったのだろう。
「ねぇディーラーさん。中央の共通カードだけど、ゲーテさんに見えないようにシャッフルしてからもう一回、伏せた状態で置いてくれても良い?」
「……。仕方ありませんね」
小さく溜め息を吐いたディーラーはテトラの指示通り彼らに背を向け、共通カード三枚をシャッフルした。そして伏せた状態で再度並べる。
「はい、ゲーテさん。順番は問わないから、カードの中身全部当ててみてよ」
「……」
テトラには確信があるのだろう。ゲーテがこの状態だとカードの内容を把握できない事が。
共通カードの内訳はスペードの二、クラブの八、クラブの10であった。適当に言っても当たる確率は三分の一×二分の一で六分の一となり、ギャンブラーであれば高い確率のように映る事だろう。サイコロを振って指定された数を出せるかどうか、チャンスは一回きりという状況と確率は同じだ。
イチかバチか挑んでも良いレベルではあるが、もしも偶然言い当てたとしてもテトラはもう一回ディーラーにシャッフルを頼み、再度できるかどうか要求してくる事だろう。その展開を難なく予想できたゲーテは諦めたようにフッと笑ってから両手を小さく挙げた。
「僕の負けです」
「……! という事は、テトラの考えは当たってるって事?」
「そういう事になるね。どうどう、司くん? えっと、私凄いでしょ?」
「凄いなんてもんじゃないよ! 手品のタネ見破ったみたいなものだよ、これ!」
「ふふん。でしょ~? あ、そうそう。ちなみになんだけど。ゲーテさんがこのトリックを使ってカードを把握しようとしたのは、私と司くんの二人だけで、プレイヤーDには使おうとすらしなかったんだ。っていうのをこの透視トリックに気付いた後に、そう言えばと思い出してね。えっと、どうせ使うんだったら全プレイヤーの内容は把握しておいて損は無いでしょ。それでますます二人の関係性に確信を持ったって感じかな」
「何でゲーテさんはプレイヤーDのカードを把握しようとしなかったの? 一応把握しておいた方が進めやすくはなるでしょ?」
ここまで準備を進めたゲーテの事だ。何となくだけでその行動を選択したとはどうしても思えない。何かしらの理由はあるはずだ。
「だってもしもプレイヤーDの背後に立っちゃったらこのテーブルの位置的に私か司くんが気付くかもしれないでしょ? ……彼の存在に」
テトラは正面を向いたまま右肘を九十度縦に曲げ、サムズアップの形をさせた右手で自分の後ろに居るであろう、とある男性を親指で指差した。
「 (物語とかでよく見るこの指差し方……一度はやってみたかったんだよね~!) 」
「……っ」
若干悦に入っているテトラの内心など知る由も無いその人物は、いきなり話題の中心になる事を察して小さく息を漏らした。
一体誰の事を指しているのかと疑問に思った司は答えを知る為に振り向き、その正体を知る。
「え? ……! あの人って、僕たちにルールを教えてくれた……」
司の視線とテトラの親指が指し示す先には、二人にカジノルールを教えてくれたあの男性ディーラーが気まずそうに苦笑いしていた。
まさか彼もがゲーテの仲間だと言うつもりなのだろうか。もしそうである場合、ゲーテはエンペル・ギア側の人間と協力している事になる。すなわちゲーテはそちら側の人間であると同時に正体を隠して参加している内通者と言えるだろう。




