第50話
本当にゲーテの手札が強くプレイヤーDにも勝てる見込みがあると踏んでの『100』賭けであるならば、相手がレイズしてもお構い無しにその自信を貫けば良い。逆に最初からブラフだった場合もやはりレイズの方が得だ。更に上乗せでレイズをすれば、自分の手札がバレているという不利な状況も相まってプレイヤーDはそれ以上勝負に挑むのを躊躇してしまい、ターン以降の勝負をゲーテは有利に進めやすくなる。
いずれにしてもここでレイズをしない選択はゲーテにとってもったいないように見えるのだ。そしてゲーテがその事に気付いていないはずがないと思った司は、彼の行動に違和感を抱いたという訳だ。
だがそれはあくまでも違和感止まりであり、絶対にレイズしないとおかしいとまで言うつもりは今の司には無かった。シンプルにゲーテがどんな思考の果てにコールという選択を取ったのか、その理由をシンプルに知りたかっただけである。
司の質問にゲーテはなかなか答えない。痛い所を突かれたと思っているからなのか、あるいはどう説明しようかと言葉をまとめているからなのか。
何せ彼はあまりにも掴み所がない。何を考えているかよく分からないという理由で煙たがられそうな人間だ。いくら彼を観察し、その心中を探ろうとしてもただの子どもである司に分かるはずも無かった。
そんな時である。ゲーテが急に静かに笑い出し、司の方を見ながら話し始めたのだ。
「ふふふ。司くんは賢いですねぇ。確かに彼女どころか、この台の全プレイヤーの初手カードが分かる僕は、自分の手札が強かろうと弱かろうと一周目と同じ勢いで勝負に出た方が自然と言えば自然です。ですが……」
そこまで言ったゲーテは口角を上げて楽しそうに語った。
「目的は達成できたのでね。無理してレイズしに行く必要は無いと判断したまでですよ。手札が分かると言っても結局神様の気まぐれ一つで負ける可能性はあります。ここで更に僕がレイズしてその後彼女が更に上乗せ……のようなレイズ合戦は避けたかっただけの話ですよ」
その言葉に司は口よりも先に頭を働かせた。一体どういう意味なのだろうかと思考を巡らせる。
「 (目的は達成って言った……? 目的……目的って一体……。) ……あ!」
その時、司はようやく気付いた。
ゲーテの、いや、ゲーテたちの狙いを。
「 (まさか……) 」
司は未だ自身の選択を決めずにいるテトラをチラッと見る。彼女は司の視線に気付かないほど集中しているようで、勝負に出ても良いか潔く引き下がるべきか本当に悩んでいるようだ。
この様子を見る限り彼女は気付いていないようだ。自分がゲーテとプレイヤーDのコンビにターゲットにされている事に。
「ふふふ。時間を空けずに全く同じセリフを口にするのは芸がありませんが、思った事なので正直に言いましょう。司くんは賢いですねぇ」
「……!」
ゲーテの反応で司は自分の考えに対する確信度が上がった。
断言はできないがゲーテとプレイヤーDは、今の司とテトラのように組んでいる可能性が高い。唯一相違点を挙げるとしたら、司とテトラはカジノゲームでは別々に戦っているがゲーテたちは二人で協力して各プレイヤーを潰そうとしている点だ。
今回二人によってターゲットにされたのはテトラという訳だろう。直前のソルヴァと言い、その席に座ったプレイヤーに狙いを定めるという段取りで話が進んでいたに違いない。
そう考えると問題はゲーテのカード透視能力だろう。彼とプレイヤーDが仲間であった場合、初手のスーテッドコネクター発言は嘘である可能性が出てきた。
司の手札を完璧に言い当てた事から、相手カードを把握するトリックに関しては一応明確に存在しているのだろう。しかし味方となるプレイヤーDの本当のカード情報を公開するような真似は自分たちの首を絞める行為にあたり、その部分だけは嘘情報を口にしたかも知れない。




