第49話
「三枚の共通カードが中央に開示された時、四人が最終的にどんな役を狙えそうかっていうのはある程度推測できるでしょ。だって全員の手札が分かるんだからね。ゲーテさんはその推測の元で、各プレイヤーが勝負時には大体この辺りの役になっていそうだと結論を出してから『100』のベットをしたはずだよ。最初の段階でプレイヤーDの女性はストレートフラッシュを狙えるかも知れなかったけれど、三枚のカード開示でその道は絶たれた……そして他のプレイヤーもそこまで強そうな役は狙えないだろうと考えてね」
司がそこまで言うとテトラにも彼が言いたい事、そして考えている事が分かったようで、思わず「あ」と声を上げる。
「そっか。ブラフが通じないゲーテさん相手に、プレイヤーDの女性はブラフ目的や低い確率に賭けてまでレイズする訳無いから……えっと、つまり、本当に勝てる見込みがあるからこそレイズにいったって事になる。でもそれだと……」
「うん。彼女の役状況を把握できているはずのゲーテさんの推測とはズレる事になる」
「ふふふ。司くん、テトラさん。僕は僕で、彼女は彼女です。同じ思考回路な訳無いじゃないですか。お二人は100人が100人とも同じ判断をすると言うのですか? まぁ僕相手にブラフは意味を成さないというのは納得ですが、低い確率に賭けてレイズをする訳無いと何故言い切れるのです? そんなの彼女が実は根っからのギャンブラーで、その熱を感じたかったからとでも考えれば一瞬で崩壊する考え方ですよ。僕はカードを読み取る事はできますが、人の思考回路や性格までは無理です。僕の彼女自身に対する認識のズレが、そのまま行動のズレに繋がった……それだけではないですか?」
落ち着き払った様子でゲーテは司とテトラの話に反論をする。確かに彼の言う事は正論であり、現状この発言を論破するだけの材料を二人は持ち合わせていなかった。
ゲーテはこのくらいの役だと彼女は勝負に来ないだろうと高を括って大勝負に出たが、それはあくまでもゲーテの中のプレイヤーD像だ。実際にプレイヤーDがどう考え、どう判断するかは彼女にしか分からない。
少しでもその認識と思考回路にズレが生じた場合、読みなんてものはいとも簡単に崩れ去る脆いものである。
第三者目線で見ればゲーテの言っている事の方が正しいように映る。
だが司の中のモヤモヤは消えなかったようだ。
「それなら一つ聞かせて。さっきの二周目……何でゲーテさんはレイズしなかったの?」
「……」
司の質問に対し、これまで饒舌に反論していたゲーテは口を噤んだ。
「え、どういう事? 司くん」
「ゲーテさんは全員の手札を把握できているから、自分のとも照らし合わせて大勝負に出た訳でしょ? ブラフにしろ、勝てる可能性があるにしろ、この状況ならいけると思っての行動のはずだよ。まぁ後者だった場合、確かにプレイヤーDの思考回路を読み違えたが故に向こうが更に勝負に出たって事で合ってそうだけど……」
先ほどゲーテがした反論に対して司は別に納得していない訳では無かった。正直そう言われた時は確かにと思ってしまい、そのまま丸め込まれそうだったほどだ。
「ブラフだったらレイズで押し通してこそ効力を発揮するだろうし、本当に強い役を狙えそうだった場合でも、やっぱりレイズした方が良いと思うんだよね。だってその場合はそもそもゲーテさんは全手札状況から勝てると思って『100』もベットした訳だし、相手が強気に出ても彼女の手札が分かっている以上、自分の中にある『勝てる自信』は揺るがないはずでしょ? 相手をフォールドさせる事が出来るかも知れないメリットを考えても、ここはレイズしに行く場面じゃないの?」
司の指摘にゲーテは微笑みながら無言状態を貫いた。その反応に司は自分が見当違いな事を言ってはいないのだと確信する。
もしもゲーテに相手の手札が見える力が無かった場合は、プレイヤーDのレイズを警戒してコールに落ち着いたと納得できるが、彼は何らかのトリックで他三人の手持ちカードを把握しているのだ。
それに加え当然ながらゲーテ以外の三人はゲーテの手持ちカードが何なのかは把握できていない。つまりこの状況下でゲーテが一周目に強気に出たのであれば、二周目も同じく強気に出ないと行動に一貫性が生まれないのだ。




